冷たい雨音 《詩》
「冷たい雨音」
数多くの偏見と無理解によって
デフォルメされた街を
君の唇が封印する
欠落した情緒に赤い口紅
原色の蝶の様な色彩
ロングスカートの裾が揺れている
占いだとかタロットだとか
其処に導きの光を君は見ていた
喧騒の街並み
何処からか
切ないラブソングが聴こえる
夏の記憶にすがる想像の犬が
僕の足元で寝転がる
休暇も終わり
もう皆んな家に帰ったんだよ
そう其の犬に教えてやる
今では朝早くから起きて
仕事に通っているんだよ
犬には理解出来るはずもなく
ただひとつの季節が
終わった事だけを感じている
海を渡って来た
湿った風が電線を揺らした
両極端な激しく異なる顔を持つ
其のふたつの目が僕を見ている
違うよ 僕には何の見覚えも無い
そんな事で何故
大切な人を
失わなければならないんだ
本当にそうなのだろうか
何処かで 僕の知らないところで
いつの間にか加害者になって
しまっていたのでは無いだろうか
いずれにせよ
僕は彼女を救えなかった
救わなかたと言う方が
正しいのかもしれない
其れは僕自身のちっぽけなプライドと
理由もわからずに拒絶され
切り捨てられた疎外感
終わった事と消えた人
無関係を装った
だけど今はただ漠然とした
後悔だけが残り
蓋をした記憶を蘇らせる
目を覚ますと久しぶりに
雨が降っていた
冷たい雨音
其の雨音の中で僕は
生きている事を思い出す
何処で犬か吠えている
想像の犬は覚醒している
わかってるよ
僕は僕の色を纏う
君が君の色を纏う様に
設定が違う 物語が違う
場所も相手も 戦う動機も
愛する人も違う
だけどいつも同じなんだ
僕の背後には同じ音楽が
鳴り響いている
あの日 聴こえていた
切ないラブソングが繰り返す
愛する人が幸せで居るならそれでいい
理由も無く繰り返す詩は雨の様に
僕に降り注ぐ
すがる様に絡みつく
原色の蝶と雨音とタロットカードと
夏の記憶の残骸
僕の体温を奪う冷たい雨が
ひとつの季節の終わりを告げている