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透明な風 《詩》
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「透明な風」
必要な言葉は何故だかいつも
遅れて後からやって来る
あの日 あの時
僕等に
欠けているものなんて何ひとつ無い
そう君に伝えたかった
きっと君は微笑んでくれただろう
深い緑と青い空を持つ
夏だけが其処にあった
僕等はもう二度と
この場所に来る事は無い
そして君に逢う事も
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定められた場所に
向かうそれぞれの道を歩み続ける
僕は一度だけ振り返る
其処には形を持たない
透き通った君が居る
綺麗だよ とても そう囁いた
僕等はきっと
他の誰かの温もりを必要としていた
僕は正しい痛みと
息苦しさの中に居る
その温もりが他の誰かでは無く
君の温もりに
限定されている事を知っていたから
今思えば其れは心地よい
迷宮を彷徨っていたのかもしれない
夏の匂いと君の匂いの記憶が甦る
そうやって僕等は大人になって行く
大切な言葉は何故だかいつも
遅れて後からやって来る
僕はあの日の透明な風の音に
耳を澄ませている
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