自己治療 《詩》
「自己治療」
全ての事柄は一般的な
興味に合わせて形成されている
其処には本質的な答えなど無い
青春とか純愛とか正義だとか
其れとは全く異なる趣旨を持つ
自己治療に似た行為が僕に
言葉を綴らせる
僕の前を車が通り過ぎる
君の住む街のナンバーだった
なんだか其れだけで少し嬉しくなった
その景色の背後にある
内面的なイメージが
僕に幸せなストーリーを語りかける
課題も無く物語は景色の中を生きていた
何かを求め続けていた
だけど最後には求めていたものが
跡形もなく消えてしまう
其れを取り戻す為の自己治療だ
非現実的であり非文学的である
非小説の一場面を
切り取った様な想いを書き残す
君の語る物語というフェイズが
僕の意識の中で生きるフェイズと
クロスする時
ひとつの散文的ストーリーが完成する
自己治療は続いて行く
其処には僕の人称と
君の人称が交互に繰り返されている
通り過ぎて行った車が結末を連れた
風を呼び起こす
僕等が必要としているのは
お互いの欠落を埋め合う事では無い
自分の欠落は自分自身で埋めて行くしか無い
きっとそんな事を何度も
繰り返しながら僕等は生きている
其れで良かったんだよ
そう言って微笑んでくれた君を
誰よりも大切に思う
僕は君と繋がっている空を見上げた
青空に君の姿を描いた
僕の名前を呼ぶ君の声が聴こえた
Photo : Seiji Arita