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窓 《詩》

「窓」

彼女は窓に向かって
何かを話していた

彼女の吐く息がそこに白く残り 

そして消えていった

それが大切な言葉である事を
僕はその時  理解出来ないでいた

窓に打ちつけ筋になって流れる
雨を見つめ

ラジオと雨の音に
耳を澄ませていたからだ


彼女の首には細い鎖のネックレス

「貴方が私にこれを
くれた時の事を覚えている?」

と彼女は言った

僕は答えるかわりに彼女の事を見た

しばらく彼女の腰に手を回して
傍に寄り添っていた

そして 一本の煙草を一緒に吸った

彼女は脚を組み変えて僕の方を向き

唇がもう少しで触れるくらいの
近さで顔と顔をむき合わせた

彼女の匂いがした 

ベッドに横になり 僕の手を取り 
自分の胸の上に置いた

もう一方の手で僕の頭を
引き寄せる様にしてキスをした

僕の頭を優しく乳房につけた

僕はゆっくりと指先と口で
それを愛撫し始めた


僕は彼女を愛している

いったいどのくらい
愛しているのだろうか 

僕は彼女の吐息を聞く事が出来た

同時に雨音も聞いていた

僕は彼女を愛しているんだろうか 

わからなくなった

彼女はベッドを出て窓辺に行った

何も見えない 雨さえも見えない

ただ雨音だけを彼女は聞いていた

僕は眠っている 

大切な言葉が何であったのかも
知らないままに 

彼女は窓ガラスの雨の線を
横切る様に指を這わせた


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