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昨日の午後に 《詩》

「昨日の午後に」

私達の言葉はだんだんと
小さくなっていく

ふたりの書き残した文章に彼等は
何の興味の片鱗も
示さなかったからだ

世間には噂が流布する 

残酷性が強ければ強い程

人々は群をなし 
汚れた手で指を差す

それは欲するべき特定の悪だ

退屈しのぎの悲劇を
高架下にぶら下げ嘲笑う


私は貴方の書いた
詩の一節を読んでいる

貴方は私が敬愛する詩人だった

私は貴方の幻想の中に居る

そして壁に囲まれた此の都市を
昨日の午後 貴方は出て行った

家の外では 時折 

濡れた道路を行き交う
車のタイヤの音が聞こえた

じっと固定された硝子の様な瞳は
夢を見ていた 私と同じ夢を

窓から雪の舞う灰色の空を眺め

優しさの手紙を書く 

貴方に届きます様にと

誰かが
私の書いている手紙を覗き込む


「何だよこれ 酷い文章だ 
きちんと書きたいなら
トルストイでも連れて来な…」

もっともな話しだ

私はペンで土地を耕し続けている

いつか きっと 

それだけを夢見て

そして貴方の
魂の深みまで降りていく

本当の物語は
私の心の中に存在している

雪は激しく降り続けていた

やがて全てを覆い隠すだろう

花は咲かず そう書き留め
私は黙ってペンを置く

私にとっての物語は昨日の午後に

もうそこで終わっていたのだ


絶命の声が風となり 

残骸をひとつ残らず拾い集めれば
後世に花は咲きますか

影を連れた黒猫が
幾つもの街を通り過ぎてゆく

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