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実家の2階で書道教室を始めて10年。地元の神社の「のぼり旗」を書かせてもらった話

「神社の正面の鳥居に添える”のぼり旗”の文字をお願いしたいのですが、可能でしょうか。」

今年の夏、地元・田無神社の宮司さんからこんなご依頼をいただきました。

田無神社は、東京都西東京市田無町に鎮座する、鎌倉時代に創建された由緒ある神社です。
地元だけでなく遠方からも数多くの参拝客が訪れ、平日休日問わず賑わっています。

私にとっても、物心つく前から家族や友人と毎年初詣に訪れていた思い入れのある場所で、今でも夫や愛犬と散歩がてらちょくちょく参拝しています。
書道教室を始めてからは、年末年始に御朱印帳に文字を書く筆耕のお勤めをしたり、今年の春には神社の一角をお借りして書道教室の生徒さんと小さな作品展を開いたりと、少しずつ交流を深めてきました。

とはいえ、まさか鳥居を飾る旗の文字を書くという大役をいただけるなんて、思ってもみなかったことです。
ご依頼をいただいた時には、責任感と喜びで胸が熱くなる思いでした。

10年前、手探りでスタートした書道教室

私が書道教室を始めたのは2014年のこと。
大東文化大学の書道学科を卒業した後、中学・高校の時間講師として書写や書道を教えながら、
「もっと多くの人に文字を書く楽しさを知ってほしい」と思い、勢いのままに自身の教室を開くことにしました。


場所は実家の2階。姉が昔使っていた部屋を書道教室にさせてもらい、狭い空間で手探りでのスタートでしたが、「書道を仕事にしたい」という強い思いがあったから、長机や本棚を並べて教室らしくなっていく様を眺めているだけでもわくわくしたのを覚えています。

初めての生徒は近所の小学生3人。じっと手本を書くの見つめる生徒に、手の震えがバレないように平静を装って書いていました。
それでも、目の前の子どもたちが一生懸命に筆を動かす姿を見て、「この教室を通して、みんなの人生に小さくてもいいから影響を与えたい」と一層強く思うようになりました。

それから10年。コロナ禍で一時教室を休止するといった経験も乗り越えながら、ありがたいことに現在生徒数は60人を超え、リアルの教室だけでなくnoteのメンバーシップやYouTubeでペン字のレッスンをお届けしたり、ペン字の本を出したりと、少しずつ活動の場を広げてきました。

そして今回、そんな歩みの先に、田無神社の鳥居を飾るという機会をいただくことができたのです。

製作開始から完成まで

のぼり旗を書くと決まったとき、
「鳥居をくぐる参拝者の方々が、神社の厳かさと優しさを感じられるような力強い文字にしたい」と考えました。

ただ、実際に取り組み始めると、その難しさに何度も頭をひねりました。
書いた文字も看板屋さんに送って拡大していただくことを想定して書くのですが、最終的に掲示されるのは高さ数メートル以上もある巨大な旗。
普段使う半紙や掛け軸とはスケールが違いすぎて、初めの頃は筆の動きが悪く、枠に収まっているようなインパクトに欠ける文字でした。

それでも、「この文字が田無神社の一部になるのだ」というイメージをふくらませ、構図や筆使いを何度も練り直し、最終的に納得のいく文字を仕上げることができました。
完成した文字を看板屋さんに渡し、実際に掲げられる日を待つ時間は、期待7割と不安3割でした。

〈制作初期〉まだ枠に収まっていて、筆の勢いがない
作業部屋。6畳間の限界。

そして、昨日のお昼に、宮司さんから「のぼり旗を掲げました」というご連絡を、旗を掲げる様子の動画とともにいただきました。
スマホの画面越しに見えたのは、風に揺れる自分の書いた文字。
その堂々とした姿に思わず「これ、本当に私の字なのかな?」とつぶやいてしまいました。

その日は予定があり、すぐに見に行けなかったため、今朝、家族総出で田無神社を訪れることに。夫と、今年生まれたばかりの娘、そして愛犬と一緒に神社に赴き、早朝の澄んだ空気の中、鳥居の前に立つと大きな旗が目に飛び込んできました。
柔らかな朝の光に照らされた文字が、堂々と鳥居を飾っていました。

自分の書いた文字がこんなにも立派に見えるとは。

胸がじんわりと温かくなり、「書道を続けてきてよかったな」と心から思いました。

印も入れてくださいました。

好きなことを「地道」に続ける大切さ

今回の経験を通して改めて感じたのは「好きで極めたいと思ったことを、地道に続けていくことの大切さ」です。
実家の2階で始めた小さな教室から10年。
書道を教えたり、自分の作品を発表したりする中で、一歩ずつ歩みを進めてきたからこそ、田無神社のような大切な場所で、自分の文字を掲げてもらえる機会をいただけたのだと感じています。

応援していただく周りの皆さんに改めて感謝をしながら、これからも書道を通じて、誰かの心に響く活動を続けていきたいと思います。

このnoteを読んでくださった方にも、ぜひ今度の初詣に田無神社を訪れていただけましたら幸いです。

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書道家 大江静芳|オオエセイホウ
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