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卒論の記録・卯月

こんばんは。青葉です。

春が来て大学4回生になり、卒業論文を書くためのゼミと小説が決定しました。私が卒論を書く作品は、澁澤龍彦「高丘親王航海記」です。

みなさん、ご存知でしょうか。
お恥ずかしいことに、私はこの作品を読むまで澁澤龍彦という名さえ知りませんでした…

もう5月になってしまったけれど、毎月自分の卒論の記録を(できるだけきちんと)残していこうと思い、ひとまず4月までのところの記録をします。

文学で卒論を書いている方、あるいは書くことになる方、小説が好きな方、同じ大学生の方々に届くといいなと思っています。少し長くなっていますが、興味のある方はぜひご覧ください。


「高丘親王航海記」の単行本(古本)。
帯が箱にずれてくっついてたけど、いいのだ。


*この作品に決まったわけ*

以前noteの記事に、「私はできれば江國香織か、そうでなければ小川洋子で卒論を書きたい」と書きました。

そう書いたし、そう思っていたのだけれど、ゼミの先生と面談をしていく中でゆるやかに諦めました。なぜなら2人とも現代を生きている小説家で、研究論文が少ないと言われたからです。

研究論文の有無は卒論に大きくかかわる大切な要素なのだそうで、私にはまだいまいち分かっていないけれども、適度にあるのがよいということでした。小川洋子などは特に先行研究がとても少ないらしく、困難がつきまとうそうです。

(しかし聞き込みをしてみると小川洋子で卒論を書く同期が3人いるため、私が小川洋子で卒論を書く決意が足りなかったのだろう、と今は思います)

何度も面談をしながら、そのたびに先生がそれぞれの学生の気質や好みを聴いたうえで小説を勧めてくださり、それを読むことになっているのですが、私はたとえばこんなのを読みました。

・小川洋子「シュガータイム」
・岡本かの子「金魚繚乱」
・吉本ばなな「N・P」

どれもおもしろかったし、やり甲斐もありそうだと素直に思った、しかしどの作品にも、自分の中ですとんと、何か胸にはまるようにしっくりとくる感覚はなかった。

「なぜ私がこれで卒論を書くのか」
「本当にその小説で書きたいのか」




という点が、私の中ではどの作品も弱かったのだと思います。

きっと書こうと思えばどれでもそれなりのものは完成するだろうけれど、だからと言って中途半端に決めたのでは、おそらく卒論の勉強に身が入らないだろうと、そう思いました。

そんなふうにもやもやした状態の私に、先生が最後に勧めてくださったのが、澁澤龍彦の「高丘親王航海記」でした。

「高丘親王航海記」は、1985~1987年に『文學界』において連載された作品。作者の死の翌年に読売文学賞を受賞しており、「儒艮」「蘭房」「獏園」「蜜人」「鏡湖」「真珠」「頻伽」の7章から成っています。

〈あらすじ〉
 幼いころ、父・平城天皇の寵姫である藤原薬子によって天竺への憧憬を植えつけられた高丘親王は、エクゾティズムの徒と化していた。親王は貞観七年(865年)正月、齢六十七歳にして、安展・円覚の二人の僧、そして脱走した奴隷と思しき少年・秋丸と共に、唐の広州から海路天竺へと旅立った。遍歴の途中、親王一行は様々な異郷の不思議と遭遇する。下半身が単孔の鳥女が侍る真鍮国、夢を食う獏を飼育する盤盤国、男根に鈴をつけた犬頭人たちのアラカン国、幽霊船や人食い花、卵生の女……脅威博物誌の世界に遊ぶ親王は、やがて真珠を呑み込んだために病を得ることとなるが……。

ゼミの発表のレジュメより

「ミーコに死をもたらすのが、この真珠よ。でも、それがこんなに美しいのよ。美しい真珠をえらべば、死を避けることはできませぬ。死を避けようとすれば、美しい真珠を手ばなさなければなりませぬ。さあ、この二者択一をどうなさいます。むろん、どちらをえらばれようとミーコの御自由ですけれど。」

「高丘親王航海記」本文より


ちなみに、小説は近藤ようこさんによって漫画化されているので、気になる方はぜひ読んでみてください。とっても不可思議なお話なのですが、作品の世界観を壊すことなく漫画になっていて驚きました。すごく素敵です。

(下にamazonのリンク貼っておきますね、全部で4巻あります)


私は先生から聞いてこの小説のことを昨年の夏から知っていました。しかしいざ卒論の作品をこれに決めたのには、主な理由が3つあります。


理由その1 わくわく感があったから

1つ目は、その小説をわくわくしながら読めたこと。

大学生に入ってからいろいろな小説を読んできたけれど、ここまでわくわくしたものは初めてだった。私はファンタジーに育てられたので、大人になってもファンタジー小説に目がない。

その点、この小説はなんとまあ幻想的で不思議な小説だったことか…

実在の人物を登場させた歴史ものであると同時に、幻想的な物語の先が知りたくてどんどんページをめくり、主人公の高丘親王とともに冒険しているような感覚で読むことができた。

「小説を読み解いてやろう」「どこがどこに呼応しているか、対応しているか、なぜこういう構造なのか、全部解き明かしてやろう」と、大学で学んだ小説の読み方について思いを馳せながらではなく、何も考えず、好奇心の赴くまま純粋に楽しんで言葉を追えたこと。

勧められた他の小説では小難しいことをあれこれ考えてしまったけれど、「高丘親王航海記」はそうではなかったということ。

これが1つ目の理由です。

理由その2 仏教との縁が感じられたから

2つ目は、作品を取り巻いているのが「仏教」というものであること。

noteを読んでくださっている方はちらりと見てご存知かと思うのですが、私はお寺生まれの田舎娘です。実家は緑豊かな山の上にある真言宗の寺院で、幼いころから「お寺」や「仏教」というものに親しみがあります。

この「高丘親王航海記」は、平城天皇の皇子である高丘親王を主人公にしたものです。高丘親王は「真如親王」とも呼ばれていて、真言宗の開祖である空海の弟子のひとりでもあり、そして作中には空海も登場します。

「他でもない私自身」が、「他のどの小説でもないこの作品」で卒論を書くということを、卒論を書いている最中も、書き終えたあとも、ずっと誇りに思うことができるだろうということ。この作品で卒論を書くことと、私が他のどこでもなくお寺に生まれ落ちたこととが、リボンの端と端を蝶々結びをするように、きゅっと無理なくきれいに結びついたこと。

これが2つ目の理由です。

理由その3 同じ作品を扱った先輩がいたから

そして3つ目の理由は、私の2歳年上の先輩が、同じ研究室の同じ教授のもとで、この作品で卒業論文を書いたということを知っていたから。

その先輩とは小学校、中学校、高校、そして大学も同じで、しかも中学校と高校での部活動まで同じだった(それぞれ吹奏楽部と文芸部)。

顔も名前も知っていて、とても素敵な感性を持つひとだったので尊敬していました。やわらかで穏やかで、文学を愛していた。私は先輩付き合いがへたくそで、思うように声をかけたり仲良くなったりはできなかったけれど、ひそかに尊敬していました。

そんなひとがこの作品で卒論を書いたことを、夏やすみごろから先生に聞いていて、だから私は無意識のうちに「彼女と同じものに挑戦したい」と思ったのかもしれません。

作品を決めるもっと前から、知っているひとと同じもので書くというのはできれば避けたいと思っていたし、私がこの小説に決めてからもその理由に彼女の存在を入れていなかったけれど、やはりそれは、今思えば、私がこの小説を選んだ理由のひとつに含まれているのだと思います。

だからそれが3つ目の理由です。

*4月の動向*

4月はゼミが何度もありましたが、最初の方はガイダンスを受けながらあたりをきょろきょろ見渡し、なんとなくメンバーを把握する程度でした。

しかし説明が終わると少しずつ発表へうつっていかなくてはならず、あいうえお順の最初のひとと最後のひとでじゃんけんをして発表順を決めるよう先生に指示されました(じゃんけんに勝ったひとの方から順に発表)。

そして私は出席順がいつも最後になるような苗字なので、じゃんけんをすることになり、しかも勝ってしまった。発表は私からになりました。

ちなみに1度目の発表は自分が扱う作品の紹介をするという軽い程度のものだったので、なんとか無事に終えられました。

そしてゼミの後、研究室の掃除もしました。そこでゼミのみんなにある程度自分から話しかけておしゃべりできたことが、今の私の最も大きな出来事。みんなと話しつつ、この本と埃だらけの研究室が私の大学時代の象徴となるのだものね、と思って一生懸命掃除もした。

今は少しずつ先行研究を調べたり、作品や作家に対する知識を得ている途中です。5月は2度目の発表もあるし、もう少し身を入れてしっかりやらなくては、と思っています(4月はすこしゆったりしていたからね…)。

*ゼミの仲間について*

私の所属している近代文学ゼミは、他の教授のゼミと比較しても最も人数が多いゼミです。先生と院生の方を入れると17名、同期だけで15名いる。

だから仲良しのひとも多くいます。今までの私のnoteに登場していて、おそらく今後も登場するであろうひとびとがたくさんいます。

そして彼ら彼女らの一体誰が、どの作家のどの作品を取り扱うのかということは、自己紹介的レジュメの発表や聞き込み調査でなんとなく分かってきていて、分かったところまでは次のような感じ。

・夏目漱石「行人」
・小川洋子「密やかな結晶」
・小川洋子「ミーナの行進」
★川端康成「山の音」
・岡本かの子「生々流転」
★三島由紀夫「金閣寺」
★夢野久作「少女地獄」
★川端康成「みづうみ」
★福永武彦「忘却の河」
★村上春樹「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」
★泉鏡花「草迷宮」

★のついているひとびとは、今までnoteにちらっと、あるいはどどん!と登場してきたひとびとです。こう見ると結構いろんなひとのことを書いてきたのだな。おそらく★のついていないみんなのことも、今後書くことがあると思います。

そして何を扱うのかまだはっきり知らないひとも何人かいるので、次回のゼミでの発表がとても楽しみ。

そして当然のことながら、同期のみんなとそれぞれの決めた卒論の作品とは私の中で強く結びついてしまい、きっと今後その文学作品に触れたり、思い出したりするたびに彼ら彼女らとの記憶さえ引っ張り出すようなことになるのだと思うと、小説それぞれがとても愛しい。

みんながどうか分からないけれど、私は同期たちの決めた作品は全部読もうと思っています。読んだことあるものも、ないものもあるけど、その作品を入り口にそれを書いた作家の世界へ踏み込んでいけたらこんなに素敵なことはないのではないか、と思う。

そんなこんなで、4月の記録はこれで終わります。5月は教育実習もあって非常に苦しい展開になりそうではあるけれど、何事にも一生懸命取り組んでいけたらと思います。

ここまで読んでくださり、ありがとう。

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