何かを表現したり、伝えようとするために特別な言葉はいらない。(清風堂のおすすめ vol.20)
ご無沙汰しております。清風堂書店の谷垣です。前回からかなり時間が経ってしまいました。というのも、3月、4月とイベントを立て続けに開催しており、その準備やその他諸々の事情があり、なかなか時間が取れなかったのが理由です。毎週掲載しようと意気込んで始めたせいで、一度その予定が崩れるとなかなか再開できないという「完璧主義」もいかんなく発揮してしまいました。私の悪い癖です…。
とはいえ、これから心機一転、不定期に更新を続けていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。
普段は「これから出る新刊」を中心にご紹介していますが、今回はお休みします。その代わりに、一冊だけ本をご紹介させてください。
今年4月、私の親友が一人で出版社を立ち上げ、本を作りました。
『夏葉社日記』秋峰善/秋月圓
SNSでは入荷情報をさらっと載せていましたが、実は私にとってとても大切な一冊なのです。そういう本が一生のなかで五冊あるとすれば、この本はそのうちの一冊に入るでしょう。膨大な量の本(何万冊どころではありません)をこれから見届けることになる書店員にとって、この本に込められた思いは非常に特別で大きい。だからこそ、言葉を選ぶのに時間がかかってしまいました。いや、選ぼうとしていたのが間違いだったのかもしれません。
本書をSNSで紹介するとき、ああでもないこうでもないと考えてはいたものの、どこか「気の利いた一言」を探している自分に気づいてしまい、あえて「さらっと」紹介するに留めました。本当はもっと書くべきことがあるんじゃないかという気がずっとしていたのですが、取ってつけたような感想しか浮かばず、なかなか自分なりに納得のいく言葉が見つかりませんでした。刊行直前に寄せた文章のなかでも、本の具体的な中身については触れずに、『夏葉社日記』が出版に至るまでの話をしています。
とくに特別なことを書こうとはしませんでした。夜が更けても、秋さんとだらだら電話していたあの時間がただ楽しくて、それがいつの間にか本になろうとしている。私にとってはそれが全てでした。
大事なものほど、言葉にするのは難しい。どれだけ紙幅を費やしたとしても、目に見えるかたちで「本質」を言い表すのはなかなかできることではありません(これまでに星の数ほどの本が出版され、そしてこれからも出版されていく背景には、このことが関係しているのかもしれません)。
ここまで悩みながら書いてきて、やっと気づきました。だったら、何かを表現したり、伝えようとするために特別な言葉はいらないのではないか。
秋さんが『夏葉社日記』で暗に伝えようとしている(あるいは実践している)のも、まさにこのことではないかと。何かを表現したり、伝えようとするために特別な言葉はいらない。なんだったら「何ページの何行目のこの言葉が刺さりました」とかそんな感想を持つまでもなく、「なんかすごくいい本なんだよね」と言ってもらえる本。簡単には言葉にできないけれども大事な本というものがある。そういう本が人の心に残っていくのだと思います。
ここまで、私は『夏葉社日記』を紹介するために必要以上に頭を悩ませた結果、一周回って、その過程をただありのままに書こうとすることで『夏葉社日記』の意味を自分なりに浮かび上がらせようとしてみました。書評の体をなしているとはいえないかもしれません。『夏葉社日記』の内容に触れずに、秋さんの姿勢というか「文体」と言えるようなものについて迂回しながら記したつもりです。ぜひ手に取っていただけると嬉しいです。
(終)