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引用商標「EMPIRE」のステーキ屋(長野県上田市)をリベンジ【EMPIRE STEAK HOUSE事件 結合商標の類否】


1.知財高裁 2023.1.17判決 令和4年(行ケ) 第10087号 

1-1.事件概要

 本願商標・商願2018-4441「牛の図形 + EMPIRE STEAK HOUSE」(43類「ステーキ料理の提供」等)は、「EMPIRE」の文字部分が要部となることから、引用商標・登録5848647号「EMPIRE」(43類「焼肉料理・海鮮料理およびその他の飲食物の提供」等)と類似するとして(商標法4条1項11号)、拒絶審決となったため(不服2021-7251)、原告は審決取消訴訟を提起した。

本願商標・商願2018-4441(左)、引用商標・登録5848647号(右)

1-2.判決(棄却・商標法4条1項11号に該当)

  • 牛の図形部分、「STEAK HOUSE」の文字部分は、「ステーキ料理の提供」との関係において、自他役務識別機能を有しないか又は同機能が極めて弱い。

  • 「EMPIRE」の文字部分が、本願商標の要部となる。 

  • したがって、商願2018-4441「牛の図形 + EMPIRE STEAK HOUSE」は、登録5848647「EMPIRE」と類似する商標であるとして、登録が認められなかった。

 同図形部分と同文字部分は、それぞれが独立した構成部分として、視覚上十分に分離して認識され得る

 「EMPIRE」の語から生じる「帝国」の観念や「エンパイア」の称呼が、……役務の提供の場所、質、……その他の特徴、数量又は価格と関連性を有することは想定できないから、「EMPIRE」の文字は、「ステーキ料理の提供」を含む本願商標の指定役務との関係において、自他役務識別機能が強いといえる。

 牛の図形部分は、本願商標の指定役務中「ステーキ料理の提供」との関係においては、提供される料理の食材が牛であるという印象を与えるにすぎないといえ、実際の取引においても、ステーキハウスを含む牛肉等に関連した料理を提供する店舗において、食材である牛の全身又は一部をモチーフとした図形を用いる例が見受けられ……広く一般的に行われていることといえる。

 「ステーキ料理の提供」を行う業界においてこの語が普通に用いられている例が見受けられこと……からみて、広く一般に定着した語と認められ、……ステーキ専門店を意味する「STEAK HOUSE」を表すると認識されるものと認められる。そして、「STEAK HOUSE」の語が本願商標の指定役務中、「ステーキ料理の提供」に使用される場合には、役務の提供の場所、質を意味するものといえる

知財高裁ウェブサイト https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/732/091732_hanrei.pdf

2.本願商標「EMPIRE STEAK HOUSE」について

 本願商標「EMPIRE STEAK HOUSE」は六本木にあり、米国から進出してきたニューヨークスタイルのステーキ屋です。休日真昼間からステーキランチコースで9800円を散財してしまいましたが、それに見合う高級感溢れる内装や、妙に落ち着いたウェイターの接客は、自らを「皇帝」と錯覚させるのでした。

EMPIRE STEAK HOUSE
ステーキランチコース(9800円)

 いいえ、「皇帝」と思ってたのは私の勘違いだったようです。実は、ニューヨーク州のことを別名「The Empire State」といい、「ニューヨーク」スタイルを標榜する本願商標も、これが由来なのでしょう。REPUBLICの米国には皇帝なんて居ませんから、むしろ、自らを「ゴッドファーザー」と錯覚する方が本当は正しかったのかもしれません。

 そうすると、商標類否の争い場面においても、本願商標の「EMPIRE」の文字部分は「ニューヨーク州」を暗示することから、その構成全体で「ニューヨークスタイルのステーキハウス」の一体的観念が生じるため、本願商標は一体不可分であるといった主張も、もしかしたらできたかもしれません(認められる可能性は多分5%)。

 ちなみに、本願商標以外にも、国際登録1722231「EMPIRE PRIME STEAK HOUSE」が出願され、こちらは特に拒絶理由もなく登録されています。本願商標「EMPIRE STEAK HOUSE」の登録が認められず、使用することが原則できない以上、ギロッポンのステーキ屋は「EMPIRE PRIME STEAK HOUSE」と改名する日もそう遠くないと思われます。

国際登録1722231

3.引用商標「EMPIRE」について

 引用商標・登録5848647号「EMPIRE」は、長野県上田市のステーキ屋「NEWYORK STYLE DINING BAR EMPIRE」です。こちらも本願商標と同じく「ニューヨークスタイル」を謳っていますが、これは先ほども述べたとおり、「EMPIRE」が「ニューヨーク州(The Empire State)」を暗示させるものであることから考えると、偶然の一致でしょう。

NEWYORK STYLE DINING BAR EMPIRE

 ちなみに引用商標は、その商標権者自らが使用している訳ではなく、第三者に通常使用権を許諾した上で使用させているものであり、これは、引用商標に請求された不使用取消審判からも確認することできます(取消2021-300999・登録維持)。 

3-1.予約必須の人気店である

 さて実は、「NEWYORK STYLE DINING BAR EMPIRE」には、2024年春頃に軽い気持ちで行ったことがあります。本願商標はギロッポンでドレスコードがある一方で、引用商標の方はカジュアルな店だったので、私は少し侮っていたのです。
 だがしかし、実はかなりの人気店で、当日も満席御礼のため予約客以外はお断りの情態でした。そのため、このためだけにワザワザ上田に来たのにトボトボ帰った思い出があります。まさに、安土桃山時代の2度にわたる「上田合戦」(1585年・1600年)にて、徳川家康・秀忠が真田氏の上田城を攻略できずに撤退した歴史を令和の世で再現してしまったのです。

真田氏の居城「上田城」跡

 時は下り2024年末、再び「NEWYORK STYLE DINING BAR EMPIRE」にチャレンジする機会が巡って来ました。徳川氏は真田氏に2敗しましたが、私は同じ轍を踏みません。今度はウェブでちゃんと予約したので、勝利を確信しました。

 もちろん、「DINING BAR」を名乗るだけであって、バーカウンター席があるので、おひとり様でも大歓迎です。ただし、実際に来店してみると、私の両隣がカップルだったので、人間的には負けた気がしました。

バーカウンター席

3-2.ピザと地産地消メニューが特徴

「NEWYORK STYLE DINING BAR EMPIRE」店頭看板

 「NEWYORK STYLE DINING BAR EMPIRE」では、店頭看板に「STEAK & PIZZA」と書かれているとおり、ステーキだけでなく、ピザも売りにしています。確かに、ニューヨーカー、即ち米国人はピザ食べてるイメージが強いので、ニューヨークスタイルといえばそうかもしれません。しかし、ココで提供されるピザは、生地からこねて石窯で焼かれた本格的なものなのです。

ピザの石窯
ピザ(アメリカンクラシック)

 そして肝心のステーキの方も、国内外の様々な牛ステーキを提供しており、特にココらしいと思うのが、長野県産の黒毛和牛・峰村牛のステーキです。木製プレートに乗った希少部位ステーキを楽しむことができます。その他にも、長野県産ワインを提供しており、地産地消なところが特徴です。

峰村牛のステーキ

 私が両隣のカップルに挟まれていたのもあり、一般的にデートとかで行くイメージが強そうなステーキ屋ですが、「NEWYORK STYLE DINING BAR EMPIRE」は、長野旅行に行った時、蕎麦以外にも何か長野っぽいものを食べたくなったらおススメな店だと思いました。

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