性自認が法律に盛り込まれるとき、セックス(性別)は抹消される
パート2 (パート1はこちら)
女性の生活と人権に与える影響
★公的・政治的生活と意思決定の場における女性たち
公的・政治的分野と女性の関係をみると、女性は、女という制約の下で社会化され、男性とは別の不平等な基準、不平等な機会や待遇に置かれている。教育の欠如、家庭・家族・子育ての偏った負担、雇用機会と賃金の不平等により、見えない多くの壁に直面せざるを得ない。公職におけるパリテ(女性50%、男性50%)とは、公選機関の資格、政府の政策立案と実施に参加、公職の地位を得るうえで、女性と男性の間の格差を減らすために、政府が用いる主要な積極的差別是正措置(被差別者を優遇する)のことである。
性自認というイデオロギーの広がりとともに、女性のための地位が、トランス女性を自認する男性に奪われつつある。例えば、公職に就く女性専用リスト(Fain, 2020)では、女性独自のニーズや利益は代表されず、割り当てられる人的・財政的資源は少なく、女性のための政策も少なくなっている。さらに、セックスに基づいた指標がないため、公的・政治的生活に関する格差の改善について調査することができない(Gallego, 2021)。
★各国で起こっていること
例えばメキシコでは、2018年に19人の男性がトランス女性として公職選挙に立候補した(Plazas, 2018)。ムクセス(オアハカのサポテカ文化圏で女性の格好をする男性)のグループは、これを公然と非難し、同性愛の男性が女性としてふるまう伝統を悪用したものだと訴えた。(Plazas, 2018)。
また、性自認は、企業や非政府組織、市民団体、国際機関の理事会におけるクォータ(定数)を横取りするために利用されている(Garnier, 2020)。 インドでは2021年1月、ボンベイ高等裁判所は、アンジャリと名乗るトランスだという男性が、女性枠の地区から「女性」として村のパンチャヤット(町議会)選挙で戦うことを認めた。裁判所はアンジャリのような人は 「自己識別したジェンダー」を認められる権利を有すると判断している。(Joshi, 2021)。アンジャリはこの判断を受けてそのまま選挙に勝利した。2021年3月、ケーララ高裁は別のトランスだという男性のNCC(National Cadet Corps国民軍事教練隊)への参加を認め、入隊基準を変更するよう求めた。アヌ・シヴァラマン判事は、次のように述べている。「2019年法の具体的な規定に鑑みれば、トランスジェンダーの人はトランスジェンダーとして認められる権利だけでなく、自己識別したジェンダー、すなわち、女性のジェンダーであると認められる権利を有する。」(Hindustan Times, 2021)。
★女性の領域に入り込む、女性と名乗る男たち
トランス女性と名乗る男性はまた、自らをフェミニストと呼び(Camboa、2020)、女性学プログラム(Johnson、2020)や学会(ハーバード大学、2017)で地位を占めている。彼らは多額の資金を受け取り(Lowrey, 2018)、イベントやスペースに参加し、月経衛生、中絶、女性器切除、性と生殖に関する健康と権利など、女性の身体に関わる問題を専門に扱うことさえある。その一例が、今日ベルギーで「女性副首相」を務め、「女性欧州議会議員」(Moens, 2020)や「人口と開発に関する欧州議会フォーラム」(The European Parliamentary Forum for Sexual and Reproductive Rights, n.d. )の議長でもあるペトラ・デ・スッターのケースである。最近の「女性取締役登用法」のガイドラインの中で、スコットランド政府は、この法律は女性の代名詞と女性の名前を使う人全てに適用されると宣言した(Murray et al.、2020b)。この法律は、最近、法廷で争われた(Davidson, 2021)。
★若い女性と脱性別移行(デトランス)する人々
~不安に乗じて強いられる性別移行~
家父長制の社会では、少女たちは常に美の基準、ステレオタイプ化された性役割の表現、性的なモノとして描かれたポルノから逃れることはできない。彼女たちは、身体違和感にさらされ、自分の体に不安を感じる傾向が強くなっている。それは出生時に「間違った性」を割り当てられたからではなく、日常生活の中で身体的、性的、心理的、経済的な男性の暴力に耐えなければならないからである。
「NGOストーンウォール」は、LGBT包括カリキュラムガイドを2019年にイギリスの小学校で開始した。子供たちが、内なる性自認を持っていることを学ぶためである。その性自認は、ドレスやロングヘアなどの「女の子もの」を好むのか、又はスケートボードなどの「男の子もの」を好むかによって判定できる。つまり、男性的、女性的と振り分けられたステレオタイプどおりに振る舞うことを拒否するのかどうかで明らかにできるものなのだ。(ストーンウォール、2019年)。同様のプログラムは、学校カリキュラムが性自認を必須化していく一部として、世界的に導入されつつあり、カナダ(Charlotte, 2020)からスペイン(Carrasco, 2020)まで広がっている。社会的標準に順応しない少女に向けられたメッセージは、彼女たちに根深いホモフォビアやレズビアンになる恐怖を抱かせる。これによって、少女たちは「男の子」に移行するよう圧力をかけられるのだ。
美容業界、大手製薬会社、医療業界、ファッション業界は(Bilek, 2021)性別移行ビジネスを推進してきた(Bilek, 2018)。こうした業界は、利益のために、さらにファッション業界までもが、法的な性的二形(social dimorphism)を解体することを企業の課題としている。(Bilek, 2020)。その結果、ステレオタイプ化された男性に移行する少女や若い女性が急増している。多くは、うつ病、不安、焦燥感を経験しており、彼女らの混乱した感覚と繋がるオンラインチャットグループがそこに深く関与している。彼女たちは、節度を守る意見(親を含む)を敵とみなすよう奨励され、拒食症や自殺を肯定するカルト的な言葉を口にする。
以前は男の子になるために「移行」することを決めた女の子も、今では急増する「脱性別移行」に加わっている。彼女らはますます自分の本当の想いに気づき始め、米国やラテンアメリカのネットワークに参加している(Jeffreys et al.2020)。彼女らは、乳房切除、子宮摘出、思春期ブロッカーによって不妊となり、そして、声が永久に低くなってしまったことを後悔している。そして、これらの痛みを伴うプロセスの後、自分たちが永遠に変えられてしまったと実感している。
★女性に対する男性からの暴力
レイプ、近親姦、セクハラ、妻への暴行、殴打、人身売買、買売春など、女性に対する男性の暴力は世界中で蔓延している。女性は、保護、トラウマ治療、心と体の回復、エンパワーメントのために女性だけのスペースを必要としている。カナダ最古の女性緊急避難所であるバンクーバー・レイプ被害救援シェルターは、トランス女性を自認する男性政治家のロビー活動の圧力により、2019年に自治体の資金援助を剥奪された。理由は、そのシェルターが女性だけのサービスを提供するという法律上の権利を行使したためで、それが差別的で排除的であると、そのトランス政治家が非難したのである(Hopper, 2019)。カナダでは、心身を癒すスペースを生物学的な男性と共有したくない女性被害者は、シェルターから追放される(Brean, 2018)。女性用トイレ、ジム、女性専用スペースがトランス女性だと自認する男性にも開放されるようになるにつれ、女性への身体的暴行やレイプが何百件も記録されている(Anti-female-receipts, 2016)。そして、彼らトランスの態度に対する反撃や彼らを含めることへの不支持も生まれている。(ブリンク&ダン, 2018)。
★自分は被害者だと強調したい、女性を自認する男たち
サンフランシスコ図書館で行われたアート展では、トランス女性が「ターフ」(TERF:トランス排他的急進的フェミニスト)からの抑圧の犠牲者として描かれている。「ターフ」は中傷表現であり、ミソジニーの用語である(Intellectual Takeout, n.d.)。この展示は、女性を自認する男性が、斧やバットなどの武器を持った女性から脅されている様子を描いている。この偽りの被害者の状態を表現する展示は、通常危害を加える側と、それを被る側を逆転させている。「加害者あるいは犯罪者は、その行動を否定した上で、対峙している個人を攻撃し、被害者と加害者の役割を逆転させ、加害者が被害者の役割を装い、真の被害者(あるいは内部告発者)を容疑者に変えてしまうのです。」(Freyd, 1997)。心理学者はこの戦術を、Deny-Attack-Reverse-Victim and-Offenderの頭文字をとってDARVOと表現している。
★性自認批判で職を追われる女性たち
公的な議論において、「間違った身体に生まれた」という言説に疑問を呈し、生物学的な性の存在を述べることは「ヘイトスピーチ」として制裁され、トランスを自認する人々に対する「文字通りの暴力行為」として描かれる。トランス活動家による女性に対する多くの暴力行為の中には、身体的暴行(Davidson, 2019)、職を奪うこと(Forstater, 2019)、作家J・K・ローリングの本を燃やすこと(Nolan, 2020)、サイバーリンチを加えること(Schon, 2020)、嘘に基づいて不当に訴えること(Volcanicas, 2022)などが含まれる。Reddit(英語圏で利用されている掲示板サイトのこと)では、6万人のジェンダー批判的な女性が追放されている(Chart, 2020)。2020年10月現在、例えばイギリスでは、2019年から2022年の間に、裁判所、ジェンダークリニック、学校、大学、NGO、政府で性自認の弊害を争う訴訟が少なくとも25件あり、現在、15件が進行中である(Legal Crowdfunding、n.d. )。これらの訴訟は、女性たちと2人の男性によって自己資金で行われている。多くの学者、フェミニスト、知識人がその職を解かれ、また、「ターフ」や「トランス差別者」のレッテルを貼られるのを恐れて沈黙を選ぶ人もいる(Murphey, 2020)。
★刑務所では
刑務所では、男性の性犯罪者が女性と一緒に収監されている(Shaw, 2020)。そして性自認法がまだ存在しないところでは、それを可能にする規定の導入が進んでいる(例:ニューヨーク州、SB 4702A, 2019)。スコットランドの元刑務所長によれば、女性収容所に移送される男性トランスジェンダーの人数は、やがて女性刑務所の女性収監者の数を上回るだろうと語っている(Hotchkiss, 2020)。
★レズビアンとバイセクシュアル女性
~性自認勢力に乗っ取られたLBGの多くの団体~
レズビアンやバイセクシュアル女性は、性的指向、同性愛、両性愛によって差別されない権利と平等な権利を享受するために闘ってきた。しかし、世界中のほとんどのLGBT団体は乗っ取られ、その資金は「性別多重スペクトル」下でトランスの権利を促進するために使われている。(Funders for LGBTQ Issues, 2018:LGBTQ問題のための資金提供者)。性自認法のもとでは、ヒゲとペニスを持つ異性愛者の男性が女性を自認し、事実上レズビアンになることができる。彼を性的パートナー候補として拒絶するレズビアンは、トランスフォビア、偏見、憎悪のレッテルを貼られる(Cotton ceiling, n.d. )。レズビアンたちは、プライド・パレードや活動において、レズビアンが運動から抹消された事実を糾弾している。と同時に、同性愛は同性に惹かれること、性は二元的で現実であり、スペクトラムではないことを明確にするために、新しいレズビアン・グループ(Get The L Out of UK, n.d. )やレズビアン、ゲイ、バイセクシャル・グループ(LGB Alliance, n.d. )が作られている。性自認法(Self-ID法)がある国の元LGBT活動家の多くは、性自認の危険性を知ってLGBT団体から去っている(Salakova, 2020)。
★売春とポルノで性的搾取を受ける女性たち~深刻な人権侵害
売春が女性と少女に与える被害は深刻だ。人権侵害、組織的レイプ、家庭内暴力、拷問、人身売買、身体・精神の健康問題(複雑な心的外傷後ストレス障がい、不妊、依存症、自殺、望まぬ妊娠、中絶など)が指摘される(Farley,n.d.)。売春女性たちは、しばしば「失踪」する。つまり殺されたまま二度と発見されないという意味である。これらの殺人はフェミサイドである。女性や少女は、売春やポルノにおける搾取によって深刻な被害を受け、その影響は子どもたちにも及ぶ。
★性自認勢力は「セックスワーク」の名のもとに
性売買の合法化のために働く
ゲイ男性やトランス自認の男性は、公の議論において「セックスワーカー組合」という法人格のない事業に参加し、中心的に担っている(欧州セックスワーカーの権利の国際委員会、n.d.)。彼らは、ポン引き、人身売買業者、セックス仕入れ業者(sex buyer)を含む性売買の完全な非犯罪化を提案し、人身売買を経済移民として正当化しさえする(DecminNY, n.d. )。彼らは法廷も利用する。ステレオタイプ化した女性と自分を同一化し、自らを「セックスワーカー」と呼ぶ典型的な男性たちに対する警察の暴力事件が起きると、法廷での戦略的訴訟を指導する。これをもって、政府に圧力をかけ、ポン引きや人身売買の非犯罪化を促す。「セックスワーク」の名の下で、売春を合法化させるためである(IHRC、2021)。グローバル・ノース(先進諸国)の強力な慈善家(Diez, 2019)、性産業への資金提供団体(Sex Work Donor Collaborative, n.d.)、アムネスティ・インターナショナル(2015)や国連機関などの国際組織は、売春やポルノにおける女性や少女の性的搾取を促進しようとする世界規模の取り組みに加わっている。彼らは婉曲表現を使い、ポルノや、オンリーファンなどウエブカメラを使ったオンラインビジネスモデルを含む「セックスワーク」の合法化/完全非犯罪化を推進している。
二つの産業、女性搾取性産業と性自認推進業界は、トランスジェンダーの人々の利益を代表する一方で、ニューヨークなどのポン引きの完全非犯罪化のための法律を求めて活動し(Arnold, 2019)、インドなどの貧困国やアルゼンチンからローマまでの性別移行手術や強制去勢の商業化(Madaik, 2021)のために働く。ここに、両者の産業の結びつきを見ることができる。
★代理出産で搾取される母親と女性たち
女性は長い間、有害な影響から妊娠と出産を守るために闘い、雇用を失うことなく有給の産休と社会的給付を勝ちとってきた。また、育児施設を獲得し、両親が平等な子育て責任を負うために活動してきた。
性自認の枠組みのもとで、法律上の母親を必要としない一方で、母親や妊婦といった言葉は、「月経のある人」「授乳する人」(Slaazar, 2021, Feb 12)、「妊娠している人」「人乳」「生殖の意志」「連帯妊娠」といった中立・無性の人物に機能が付け加えられた概念に置き換えられようとしている(Young, 2018)。例えば、マルタの法律に性自認とジェンダー表現が導入されて以来、マルタの出生証明書には母親と父親はなく、親1と2となっている(Delia, 2020)。フランスやイタリアでも同様の変更が提案されている。さらに、裁判の判決はますます奇妙になっている。アメリカでは、女性が授乳していることを理由に解雇された。会社側によると、それは性差別には当たらないとのことである。なぜなら、男性も特定の状況下で授乳できるからである。(Marcotte, 2015)。
性自認ロビーとの共同の取り組みで、バイオテクノロジーの助けを借りて、代理出産や代理妊娠という婉曲表現のもと、新しい生殖搾取産業が出現した(生命倫理・文化ネットワークセンター、2013年)。2016年、ベルギーの男性議員であるサッター博士が、ヨーロッパにおける代理出産を規制する決議案を提案し、物議を醸したのは偶然ではないだろう(European Post, 2016)。
性自認ロビーは、性的指向や性自認のために子供を持てない人々が、女性の身体を「代理母」として使用するのは人権だと主張し、それを法律に導入しようと活動している。子どもは、生物学的な母親から切り離すことができ、買うことのできる製品に変えられてしまう。同時に、トランス女性を自認する男性は、赤ちゃんを産むために子宮を移植する権利を主張する。法律が制定されるのは、裕福な国だが、この産業に利用される女性たちは貧しい国である(Klaine, 2018)。女性たちの精神的・肉体的な健康への影響は顧みられることはない(Lahl, 2018)。代理出産で搾取される女性の多くは、貧しい背景や戦争・紛争地域からの移民女性で、移動の自由と身体の自己決定権が侵害されている(ENoMW、CIAMS、2022年)。この女性たちの多くは売春をさせられていたか、あるいは、客の楽しみのためにさらに売春をさせられる(ロバーツ、2014)。また、代理母の依頼主の中には、COVID-19のワクチンが注文した子どもに影響するのではないかという不安から、ワクチンを打つことを望まなかった者もいる。その間も、依頼主の方は普通にワクチンを接種していた(Domín guez, 2021)。
★スポーツに携わる女性たち~壊される女性競技
女性は、スポーツに積極的に参加するために、男性と同じ権利と機会を獲得しようと闘ってきた。フェアプレーの概念は、現代のすべての競技スポーツの基礎となっている(Fair Play for Women, n.d. )。この概念のもと、異なる体型を性別、年齢、体重のカテゴリーにグループ分けすることで、有意義な競争を促進する。パフォーマンスは、筋力、体力、心肺機能や代謝機能などの生理的要因に強く影響されるため、男性が女性より有利であることはよく知られている(Donovon, 2020)。例えば、男性は上半身の筋肉が66%、下半身の筋肉が50%多く、水泳、短距離・長距離走、ボート、カヤックでは女性より速い(Save Women's Sports, n.d.)。
近年、世界中のほとんどの国内・国際スポーツ団体が、女子スポーツ部門に、女性を自認する男性アスリートにも開放している。2015年の国際オリンピック委員会のガイドラインでは明確に次のように規定している。男性から女性に移行するアスリートは、テストステロン値を少なくとも1年間10ナノモル/リットル以下に保てば、手術を必要とせず、女子部門で競技ができる(Ingle, 2019)。現在、このガイドラインは、ほとんどのスポーツ団体で採用されているものの、男性の骨密度や筋肉密度、筋肉の記憶、バイオメカニクスに基づいて、非科学的(Fair Play for Women, 2019)とみなされている(Reuters, 2019)。2014年9月、総合格闘技のタミッカ・ブレンツはトランスの対戦相手ファロン・フォックスと戦い、1ラウンド中にブレンツは脳震盪や頭蓋骨骨折などの重傷を負った(Presley, 2019; Sarmah, 2022)。インドでは2018年、ケーララ州の大学で、トランスを自認する男子が女子スポーツに参加し、その結果、女子が当然勝ちとる地位を奪ってしまった。一年目の学位学生 「リヤ 」(トランス学生)は、3キロウォーク、走り幅跳び、ハンマー投げで1位となった。彼は女子部門に出場しただけでなく、年齢別グループからも外れて、競技に出場した。当局は上限年齢を25歳と定めているが、28歳の「リヤ」は競技に出場し、優勝したのだ(Mili, 2018)。これらは特異なケースではない。スポーツの包括化に向けた動きは、女性や少女に悪影響を与えている。グループ別を含む女子スポーツのすべてのレベルで行われるべき有意義で公平な競争が、女性たちから奪われていく(Save Women's Sports, n.d. )。
★少女と子ども
性自認プロジェクトは、子どもの最善の利益の定義を別のものに変えてしまった。少女の乳房の拘束などの有害な習慣や、ホルモン治療や手術などの医学的性別移行について、親より子どもの同意の方を優先することが、子どもの最善の利益になるというのだ。レイプやトラウマの対処メカニズムとして性別違和に苦しむこともある多くの子どもたちに心理療法やトラウマ治療を行うのではなく、医療が行っているのは、解離した少女や少年を生涯にわたって医療制度の患者にすることである。思春期ブロッカーは、脳にダメージを与え(Cauffman & Steinberg, 2001)、骨を短くし(Vlot et al., 2017)、思春期で体の変化があるはずの少女に幼い外見をもたらしている。子どもは代理出産市場で誰でも買えるようになり、その他、子どもの性的な利用を許す社会装置の中で、売春やポルノに子どもを利用することができる。さらに、性交渉や結婚の同意年齢を引き下げることで、近親姦やペド犯罪行為(子どもへの性的虐待)に市民権を与えようとする圧力もある(Falcon、2021年)。
まとめ
★性自認特別利益集団
性自認プロジェクトは、米国の少数の有力なトランスセクシャルによって漸進的な運動として始まった。運動の目的は、社会から女性として見られたいという欲望を持ち、身体醜形症やオートガイネフィリア(自己性愛)に苦しむ男性、(統計的にまれと思われる)を支援することであった。彼らはこの欲望を、十分にプログラムされた積極的なプロジェクトに転換させ、生物学的性別(女性/男性)に基づくセックスの法的概念/観念を解体し、抹消してきた。このプロジェクトは、2006年に書かれた拘束力のないジョグジャカルタ原則という文書や、国連システムやその他の超国家機構に対する相当な国際的資金提供とロビー活動、また、他の男性至上主義産業(性と生殖の搾取産業など)との共同事業によって急速に成長した。
国連に対する働きかけによって、「ポリシーキャプチャー」を生み出すことができたのである。「ポリシーキャプチャー」とは、国際経済協力開発機構(OECD)が「政策の公的な決定が、絶えず、繰り返し、公共の利益から特定の利益へと向けられつづけることで、不平等を悪化させ、民主的価値が損なわれていく」(経済協力開発機構、2017、n.p)状況として定義されている。
彼らは強力なプロパガンダによって、国際人権法やその基準で作られた国内法を密かに弱体化させ、自らの商業活動を無制限に世界規模で拡大させてきた。生物学的性別の記録が正当な効力をもたない法的枠組のために取り組み、彼らは以下の条件を作り出すことができた。
(1)ヒト生物学の改変と商品化を標準化すること:収益性の高い産業用ハイテク/医療市場(手術、生物遺伝学、移植、ホルモン、不妊治療など)は、女性のステレオタイプと女性の生物学に基づいており、生涯にわたる医療患者を抱えることができる。性・生殖搾取市場では、脆弱な個人(主に女性と少女)を無限に供給できる。
(2)男女間の不平等を見えなくする:国家と国際機関は、人権侵害を監視し、性別に基づく指標によってのみ測定可能な男女間の平等のために働く責任を負うが、それを弱める法的状況が作られている。および
(3)女性や少女に対する男性の暴力とその搾取を標準化すること:人身売買、性的・生殖的搾取、売春、ポルノ、強制妊娠・結婚、女性器切除、レイプ・セクハラ、フェミサイドなど、女性や子どもに対する主に男性による無数の犯罪を特定し、処罰することが不可能となる法的状況(The Williams Institute at UCLA School of Law, 2018).
★性自認はセックスに基づく差別である
性自認プロジェクトは、セックスに基づく差別を根絶するという課題から人々の関心を削ぐ最も目に見えるポリシーキャプチャーとなった。女子差別撤廃条約(CEDAW)は、第1条において、セックスに基づく差別とは、
セックスに基づき行われるあらゆる区別、排除又は制限であると定義している。配偶者の有無にかかわらず、女性は、男女平等を基本に、政治、経済、社会、文化、市民その他あらゆる分野における人権及び基本的自由が承認され、享受し又は行使するが、それを損ない又は無効にする影響又は目的を有するものがセックスに基づく差別だと定義したのである(CEDAW, n.d )。
その後、CEDAW委員会は、締約国の中核的義務に関する2010年一般勧告第28号(1.5)では次のように述べている。
セックスという用語が男女の生物学的差異を指すのに対し、ジェンダーという用語は社会的に構築された男女のアイデンティティ、属性、役割のことであり、および、生物学的差異に対する社会的・文化的意味を含む。結果として男女間の階層的関係、男性を有利にし、女性を不利にする権力と権利の分配をもたらすものである。このような女性と男性の社会的位置づけは、政治、経済、文化、社会、宗教、思想、環境要因の影響を受け、文化、社会、地域によって変化しうるものである。
★欧州評議会イスタンブール条約で「ジェンダー」を示唆する表現が現れる
同時に、CEDAWは第5条で、「男女いずれかの劣等性や優越性、あるいは男女のステレオタイプの役割に基づいている偏見や慣習法、その他すべての風習の撤廃を達成するために、男女の社会的・文化的行動様式を修正する」必要性を述べている。この条文は、後に多くの国際法文書の中でジェンダーと呼ばれるものを含んでいる。これは、欧州評議会のイスタンブール条約においてはじめて、「ある社会が女性と男性にふさわしいと考える社会的に構築された役割、行動、活動、属性 」と明確に定義された。
★ジェンダーはセックスに基づくもの
フェミニストたちは、生物学的性別を理由に女性に科された束縛と闘わんとして、ジェンダーという言葉の使用を取り入れ、女性の劣性は宿命なのだとする考えに異議申し立てをした。ジェンダーは言語学に端を発し、1960 年代に米国の性科学者が性転換症の研究において提唱した概念である(Stoller, 1968)。フェミニストは、女性の劣等性が文化的ステレオタイプではなく、生物学に基づくものだとするのは、家父長制だと主張した。古典的なフェミニストの解釈では、ジェンダーとは、性別に基づいて人々に影響するすべての規範、ステレオタイプ、および価値観を指す。ジェンダーはセックスに起因するものであるため、その語を使用する時はセックスと密接に結びついているはずである。
締約国が除去し是正すべき問題は、セックスの定義や記録ではなく、女性が女性として生まれたことに基づく男女間の差別や不平等な関係、また、女性を男性より劣等または従属させる偏見やステレオタイプ化された役割、慣習などであることは明らかである。このため、セックスはCEDAW第1条に規定される固有の差別事由を構成し、国連全加盟国が参加する持続可能な開発目標(SDGs)などの国際的枠組みにおいて、男女間の格差を評価する際の重要な指標や比較対象として、このセックスが導入されているのである。
★性自認プロジェクトと女性の権利の衝突
CEDAWの女性差別の定義では、実質的な平等には、人間の尊厳に基づく同一待遇と性差に基づく差別待遇の両方が必要であると考えられていた。しかし、この条約が書かれた時点では、セックスに基づく区別がなくなることや、女性の権利の承認、享受、行使を無効にする独断的な行動を招くだろう、とは予見されていなかったのである。しかし、この独断的行動こそが、女性や少女の利益を無視し、自分たちの利益のために、性自認活動家が実現したことなのである。セックスとジェンダーおよび性自認を徐々に合体させ、結果としてセックスの区別を侵食し、セックスに基づく保護や特別措置を弱め排除することは、女性の権利を排除し制限することにつながったのである。このことは本稿の前のセクションで立証してきたことである。
このトランスジェンダープロジェクト(性自認プロジェクト)と女性の権利の衝突は、女性に対する間接差別として現れる。なぜなら、中立的に見える施策は、歴史的な差別や不平等を認めず、女性にとって平等な結果をもたらさないからである。女性は、機能が「中立的な身体」にくっついた人間に成り下がっている。
★CEDAW条文と女性の実質的平等の侵害
~性自認によって侵害される女性の基本的権利~
法律上のセックスを排除すること、および/または、この用語を、性自認、ジェンダー表現、セックスの特徴のカテゴリーへ置き換えることは、国際法およびセックスに基づく差別の法的拘束力について誤った判断をし、悪用することになる。また、女性と男性のステレオタイプ化された役割を是正、女性差別の根絶にむけ、実質的または事実上の平等を獲得するために設計された法律、暫定措置、公共政策のポリシーキャプチャーを生むことになる。性自認をセックスに含めたり、法律上のセックスを性自認に置き換えたりすることによって、締約国が実質的な平等を実現する義務そのものが不可能または無力化されるのである。
いくつかの条文と一般勧告の説明が、性自認プロジェクトにより侵害されている。そこには以下のものが含まれている。CEDAWの前文、母性の社会的意義に関する4.2条、5b条、子どもの原初的利益、健康と生殖に関する11.1 f条を含むの健康と生殖、5条、10cの男女のステレオタイプ化された役割の排除、10dの奨学金や学習補助金の恩恵を受ける機会の平等、7条と8条の国内および国際レベルの公的、民間、非政府組織で公選されることに関するもの。10gはスポーツにおける機会均等、11cは雇用保障と自由な職業選択と就職、11dは平等な報酬と待遇、6条は女性の人身売買や売春の搾取のない生活、GR19と35は他の形態のジェンダーに基づく暴力、15bは同性関係を含む配偶者を選択し結婚する権利である。さらに、GR14は女性器切除から女性を保護し、GR24は最高の身体的・精神的健康を得る権利、GR36は教育を受ける権利を保障している。
性自認によって侵害されているその他の基本的権利は、女性の事実上あるいは実質的な平等であり、その達成には次の3つの基準が不可欠である。
a. 差異を認めつつ、平等を確認すること。
b. 不平等な権力関係や結果を生み出す恣意的、不公平、不当な行為を是正すること。
c. 女性に、平等な機会、その機会へのアクセス、結果、そして利益を提供すること。
これらはすべて、性自認プロジェクトによって侵害されている。
性自認プロジェクトに対する世界のフェミニスト&進歩的 レジスタンス
性自認プロジェクトが引き起こしてきた、長期にわたる深い(社会の)構造変化によって、努力の末獲得してきた女性と少女、レズビアンとゲイ、子どものための保護と権利、そして言論、思想、集会の自由が損なわれてきた。それでも、世界的に、フェミニスト、活動家、作家、ジャーナリスト、医学専門家がこの問題を調査、記録、執筆、発言を通して、一般の人々の関心を喚起し、情報を伝え続け、さらなる被害を防いでいる。
女性のセックスに基づく権利宣言(the Declaration on Women’s Sex -based Rights)は、国際宣言であり、キャンペーンである。「ジェンダー」や「性自認」ではなく、セックスに基づいて女性と少女を保護する言葉を守るよう各国に働きかけている。現在では、CEDAW(女性差別撤廃条約)の言葉を守るために会合を持ち、支え合う女性たちの世界的な運動の基礎となっている。女性のセックスに基づく権利宣言は20カ国語に翻訳され、160カ国、約33,300人の個人の女性と463以上の団体によって署名されている。
★立ち上がる草の根の女性たち
イギリスでは、数年にわたる草の根の女性たちが立ち上がり、性自認を法律で規定することに反対する運動に立ち上がった。その結果、2020年9月22日に国務長官が性自認の要求を拒否する声明を発表した(Government Equalities Office & Truss, 2020)。同じ頃、スコットランドでは、フェミニスト団体「フォ・ ウーマン・ スコットランド」が起こした裁判が成功し、スコットランド最高裁は、政府に対し、女性代名詞を持つ男性であれば、女性枠である公的委員会の役職に就く資格を得られるとする「公的委員会の女性法」(Women on Public Boards Law)の変更を撤回するよう命じた。(Opinion of the Court, 2022年)。
イギリスでは2018年以降、フェミニストやその他の人権擁護者によって、性自認クリニック、刑務所、公共・民間機関に対して、合わせて、少なくとも30の訴訟が行われている。その結果、女性、子ども、同性愛者、学生、市民の平等と保護に対して性自認がもたらす差し迫った被害に世間の注目を集めることになった。2021年にイギリスで起きたキーラ・ベルの訴訟は、トランスジェンダー業界が推進する非倫理的な思春期ブロッカー治療から子どもたちを守るための画期的なものである(Doward, 2020)。その後、注目される英国の性自認クリニックであるタヴィストックをめぐり、英国政府だけでなく民間の人々によっても一連の告訴が行われ、ベルの訴訟は、その一つとなった。国の委託調査を経て、(Cass、2022)、最終的には懸案事項の保護のためにクリニックは閉鎖された(Lane, 2022)。同じ頃スウェーデンでは、2022年2月に国立保健福祉委員会が、18歳未満の性別違和の患者に対する思春期ブロッカーと性別移行のホルモンの処方業務を公式に縮小し、性別違和の若者に対するホルモン介入の根拠が乏しく、ホルモン治療にはリスクを伴う可能性があると結論づけている。
マヤ・フォ―ステータ裁判も、英国では画期的な裁判だ。彼女は、性自認を批判し、性自認をセックスというカテゴリーに置き換えることに反対する立場を表明したため、仕事を解雇された。2年間の法廷闘争の末、いわゆる「ジェンダーに批判的な信念」を持っているという理由で、雇用やサービス利用上、不利益を被ってはならない、差別やハラスメントから法的に保護されるべきだという判決を勝ち取った。(Sex Matters, 2021)。現在、彼女は、規則、法律、政策、言語、文化においてセックスが重要であることを取り戻すために、公共政策、法律、文化のセックスについて明確するよう訴え、そのための教材の制作を行っている。(NGO Sex Matters (n.d.).
教育専門家、性別不適合児の親、脱性別移行の人々が組織され、他の人に情報を提供し、すべての子どもが生まれたままの体を受け入れるように活動している。彼らはウェブページを持っている。 例えば、トランスジェンダートレンド (n.d.), 突発性発症性別違和の親の会(Rapid-Onset Gender Dysphoria, n.d.), ジェンスペクト (n.d.)、(「ジェンダーに疑問を持つ」子どもの親を擁護することを目的とした20の親と専門家のグループによる国際的団体)や、アマンダ(Amada_Familias, n.d.) や No Corpo Certo (n.d.) などは、主に子どもや若い少年少女への影響について教育するジェンダー批判の専門家たちである。
★学者、研究者、ジャーナリストたちからの反撃
国際的には、関連する科学者、医療従事者、研究者、学者によって、専門家グループやイニシアチブが形成されている。エビデンスに基づくジェンダー医学研究会(SEGM)(n.d.)、プロジェクト・ネッティー(生物学的性別を支持する科学者たち(n.d.)、ソートフルセラピスト(n.d.)、Rethink Identity Medicine Ethics(n.d.)、Stats for Gender(n.d.)(n.d.)、フランコ・ベルギーの組織Le Petite Sirene(n.d.)などである。
学者や専門家も、トランスジェンダーが地球規模で展開する産業について包括的な分析を提供する書籍をいくつか出版している。ヘレン・ジョイス著「トランス:イデオロギーと現実が出会うとき」(Trans: When Ideology Meets Reality)、キャサリン・ストック著「マテリアルガール」(Material Girls)、ジャニス・レイモンド著「ダブルシンク」(The Doubethink)、カーラ・ダンスキー著「セックスの廃止」(The Abolition of Sex)、アビゲイル・シュリアー著「取り返しのつかないダメージ:トランスジェンダー・ブームが娘を誘惑する」(Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing Our Daughters)、「ドイツとハンガリーの性差」(エスター・コヴァーツ著)などである。
アメリカでは、「アメリカ平等法と女性」(n.d.)が議会で審議中である。男性が女性と一緒に刑務所に収監される問題は、いくつかの女性団体によって異議が唱えられている。女性解放戦線(n.d.)、アイルランドの女性スペース(n.d.)、スペインのContra el Borrado de las Mujeres (n.d.) 、ブラジルのNo Corpo Certo (n.d.) 、その他女性や少女に対する権利を骨抜きにする地元の法律や政策と闘う重要なキャンペーンがその活動を担っている。最後に、フランシス アーロンのようなラップ歌手はクラウンフィッシュ(2021年)を用いて、批判的に伝達する方法もあることを示してくれている。
裁判官も訴訟に反応している。米州人権裁判所の裁判官であるエリザベス・オディオ・ベニートは、勇敢にも二つの異論を書いている。ステレオタイプ化された女性を自認する男性問題と取り組む女性を保護する基本的な法的枠組みの使用に関するものである(Odio、2021年、2022年)。
★新しい形を変えた家父長制の登場
この新しく形を変えた家父長制の登場で、新しい世代の女性たちは、真のフェミニストの価値、国際標準のCEDAWの価値を取り戻している。彼女たちが人類の半分がセックスのために従属させられてきたという認識を抹消する世界的な流れを逆転させることに期待を込める。
著者略歴
この論文は、2019年から2022年の期間、女性宣言インターナショナル(WDI)のセッションに毎週集まり、幅広く訴える活動を共同で行ったヨーロッパ、アジア、北米、ラテンアメリカ、アフリカの無数のフェミニスト活動家、研究者、専門サービス提供者の証拠収集と分析をまとめたものである。
推奨引用
ヨーロッパ、北米、アジア、中米、アフリカのフェミニストたち。(2022). セックスの抹消。性自認活動家による性の世界的な略奪と、女性と少女の権利への影響。Dignity: A Journal of Analysis of Exploitation and Violence(搾取と暴力の分析誌). Vol.7, Issue 4, Article 1. http://digitalcommons.uri.edu/dignity/vol7/iss4/1 で閲覧可能。https://doi.org/10.23860/dignity.2022.07.04.01
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