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【HCD的観光課題解決】オーバーツーリズム対策をしたときに大切にしていたこと

昨年末から外国人が来日するに当たっての制限が緩和され、観光産業が復興していこうとする中人員不足も可視化されまくって、解決のためにはすわDXだ!と掲げるも人が足りない中どうやるの?というような塩梅で、観光業界のテンションが乱高下している昨今。
観光事業者の末席で副業をしている身にも、期待と不安の声が方々から聞こえてきております。

コロナ禍に突入する直前は、2019年にラグビーワールドカップが開催され成功し、2020年の東京オリンピックを目前に外国人観光客の推移も右肩上がりで伸びておりましたが、そんな中取り沙汰されていたのはオーバーツーリズム(観光公害)についてでした。
特に国内外共に人気の観光都市である京都におけるそれはしっかりと可視化され、観光産業で身を立てている住民とそうでない住民との意識格差も見えてきていました。

そんな中で京都市におけるオーバーツーリズムの対策で啓蒙コンテンツの企画・作成を主導しつつ啓蒙活動にも参加した者(多分2023年段階では日本で唯一結果が出ているオーバーツーリズム対策コンテンツを作った人間だと思う)として、どのようにすればよいのかという点について少し書いてみようと思います。

まずは結論から

オーバーツーリズムという課題に対して人間中心設計の知見をどう活かすかとする場合、以下の考え方や流れが大切だと考えています。

  • 観光地を一つのプロダクトとして捉えること

  • 観光客(ユーザー)と地域生活者(ステークホルダー)のゴールを明確にすること

  • プロダクトを活用して課題解決に向かうため、必要なゴールまでのストーリーとメッセージを定めること

  • メッセージを伝えるため、ユーザーのコンテキストを理解し表現すること

結果的に改善が見られたことは前述のリンクにあるため、おおよそ上記考え方は実証されたのかなと思います。一方ユーザーおよびステークホルダーに対するリサーチが時間的に足りなかったことも間違いないため、まだまだ改善の余地はあるなとも考えています。

その辺含め、以下に詳細を書いていこうと思います。

前提としてのオーバーツーリズムについて

オーバーツーリズムとは端的に言うと、観光客の急増によって地域生活者の不便が生じることです。地域生活者の不便というのは、観光客による迷惑行為もそうですし、観光客が増え過ぎることでの生活にまつわる不便なども含まれます。

ここでひとまず、そもそも観光というものを考えてみます。
観光を構成する要素をを分けてみようとすると、大体こうなるかなと思います。一つは観光客、そして観光対象となる地域。そして観光地には地域そのものに加え地域生活者と地域経済が含まれます。
地域生活者が生活をすることで地域経済が循環し、その結果として地域が活性化する。そのためのドライバーとして、観光地においては観光客が活用されています。
そのためオーバーツーリズムとは、地域活性化のバランスが崩れるほどの過供給がなされることと言えます。

ここで一つポイントがあります。地域にはいくつかの対立項目があるということです。
例えば地域経済には2つの要素があります。
ひとつは住民の収益。そして、地域の収益(税金)です。
また、地域住民の生業に合わせ、観光客に対するスタンスも様々です。観光客を顧客にしている場合と、地域住民を相手に商売をしている場合だけで分けてみても、観光客に対する見え方の違いは想像できるかと思います。

こうなるとオーバーツーリズムに関する視点は、観光地域における立ち位置によって数多く取り得ると考えられるのではないでしょうか。

観光地を一つのプロダクトとして捉える

先に書いた通り、観光において考えなければならないのは、観光地そのものです。
観光地が観光地たらんとする要素には、自然や景観、文化とその具現化された物や体験、もちろん文化を具現化させる人も対象となるでしょう。周辺要素として、滞在するための手段や滞在先での娯楽も含まれます。ラスベガスのように娯楽が主要素となるようなケースももちろんあり得ますし、その地域ならではの温泉や食事を楽しむことも、自然の楽しみ方としてポピュラーです。
これらを観光客が楽しむことで、観光地が活性化されます。

上記の通り要素を分解していくと、自然景観にせよ歴史や文化にせよ、また意図的に造成された滞在目的にせよ、それぞれ観光地にはコンテキストがあります。また、そのコンテキストをどのように提供するのかという手段すべてが、ひとつのプロダクトとして捉えることができます。

自然が観光の主要素でありコンテキストなのであれば、自然をどのように提供するのか。
山の景観を楽しむための手段として、登山という切り口もあればパラグライダーという手段もあります。登山にも自力で登るケースもあれば交通手段を用いる方法もあるでしょう。山菜やジビエというのも、山の楽しみ方の一つです。
また、海を楽しむのであれば海水浴やダイビング、釣りやクルージングとこれまた様々あります。
温泉であれば温泉旅館、極端なところだとテーマパークなどは、それそのものがパッケージでありプロダクトと言えるでしょう。

ちなみにこれら景勝地を管理監督する自治体も、プロダクトの一部であることは言うまでもありません。

そして観光都市の場合、その都市の成り立ちと文化と歴史、そして脈々と続く生活者の生活を取り巻く様々なものごとが、コンテキストでありシステムであり、プロダクトになります。

京都市におけるオーバーツーリズムは、そうしたコンテキストの中で生じた課題だと言えます。

観光客と地域生活者のゴールを明確にする

観光における観光客のゴールは、誤解を恐れずに一言で言うと
「楽しむこと」
に尽きるかなと思います(もちろん楽しみ方はそれぞれですが)。

一方で観光地の生活者にとってのゴールが
「楽しんでもらうこと」
になるかというと、全員にとって決してそんなことはないよね?というのがオーバーツーリズムにおける問題です。

そしてオーバーツーリズムにおいてもう一つ問題となるのは、観光客の「楽しみ方」もストレートなポイントです。
そのため、このゴールを明確にするという言葉の中には、以下の内容が含まれます。

  • 観光客にとって観光地の楽しみ方を分解し構成要素を明確にする

  • 地域生活者にとっての観光客および観光産業との関わりを明確にする

オーバーツーリズムにおいて問題となるのは前述の通り、観光客による迷惑行為そのものと観光客そのものが増加することによる生活の不便の両面があります。
そのためまずは観光客にとっての楽しみ方が可視化されることで、迷惑な振る舞いのピックアップが可能となります。
そして観光地の楽しみ方を分解するということの中には、観光地における移動状況の把握も含まれます。位置情報を活用し移動状況がわかることで、移動に合わせたアナウンスや出店計画の検討、時間帯に合わせた道路の制限などもできるでしょう。
このように、観光客にとってのゴールを明確にすることで、観光地の楽しみ方を阻害しない対策を講じることが可能となります。

また、地域生活者と観光との関わりを明確にするということは、同じく必要なポイントです。
地域生活者には観光の直接的な受益者もいれば、間接的な受益者もいます。受益者にはこうした事業に取り組む自治体職員も含まれます。
そして実際に取り組んだ事例における地域住民のように、観光客向けの商いをしていないにも関わらず街並みと文化が評価されて観光地扱いされてしまい迷惑を被っているというケースも、やはりあり得ます。
こうした場合、ステークホルダーである地域生活者にとってのゴールが複数生じるということになります(あるあるですが、頭の痛い内容です)。

実際に当時状況のリサーチをしようと自治体の方々と一緒に地域住民の声をヒアリングしましたが、外国人観光客が押し寄せてかつ彼らによってなされる迷惑行為に辟易しており、関所を設けて出入りを管理したいという声まで出てきていて、こりゃ大変だ!と思った次第でした。

なおこの同席していた自治体の方々にとってのゴールがまた難儀で、「地域の顔役の要望を解決したい」というのと「観光による税収は確保しておきたい」という内容で、これまた大変だ!と思ったものでした。

とはいえゴールを明確にしておかないことにはプロセスも落とし所も見つけられないため、とても大事なポイントです。

課題解決に必要なゴールまでのストーリーとメッセージを明確にする

それぞれの関係者を起点とした観光にまつわるゴールイメージとそのプロセスを見定める中で、同時にペインポイントも見えてくるというのは前述の通りです。
ここからHow Might Weを洗い出していく訳ですが、特に観光というプロダクトを扱うために大事なポイントが一つあります。

それは、全員が当事者であるという意識を醸成することです。

オーバーツーリズムという問題に対し、

  • 観光客には振る舞いによって観光地の可能性を閉じないように

  • 地域の生活者には文化というコンテキストの担い手である意識を

  • 観光事業者や自治体側には観光地というプロダクトを維持する矜持を

  • そしてサポートする事業者(例えば当時の自分自身)はこれらを前に進めるドライバーとして

それぞれがそれぞれの立場で当事者であるというように、舵取りをしていくことがもっとも重要だと考えています。
モノやデジタルデバイスのように使い方が定まっていない観光というプロダクトの中で人間中心という考え方を活かすにあたって、「どのように」という視野・視座・視点を定めるには、共通の目的と共通のゴールを示すことが誰にとっても腹落ちすることだと考えています。特にステークホルダー間でゴールイメージにズレがある場合などは、この腹落ちをさせるためのコミュニケーションが最も重要です。

その腹落ちさせるためのコミュニケーションを取るにあたって大事なのが、ストーリーとメッセージを明確にするプロセスです。

ここで、最初に掲げた観光地を一つのプロダクトとして捉えるという取り組みが、モノを言います。

観光地をプロダクトとして見る場合に大事なのはコンテキストだと述べましたが、ストーリーに落とし込むために必要なのはこのコンテキストに対する共感をどのように醸成するのかになります。
観光地の構成要素、文化を形作る歴史、前提としての意識と知識の共有。地域に住まう人々の生活と取り巻くルール。その上で禁止したい迷惑行為を明示する。
これらをストーリーとして組み立てた上で、分かりやすいワンメッセージに落とし込む。背景理解があるからこそ納得感のあるメッセージに組み上げられたとき、ようやくステークホルダー間にとって腹落ちがしやすい状況になるのではないかと考えます。
一方これらが観光客に対し、一方的なリスペクトの強要となったりメッセージの押し付けとなっては駄目で、あくまで観光地のコンテキストの一部であるという背景が必要です。

オーバーツーリズム対策というのは、一言でいうと観光客の迷惑を取り締まるという、それだけのことです。
単なる迷惑行為に対してはそれでも良いのかも知れません。もとより犯罪行為に対しては粛々と対応すべきです。
一方で観光地を愛し選んでくれた観光客を公害としてラベリングするのは、少なくとも観光立国を考えるのであれば本末転倒です。

極論するとオーバーツーリズム対策という取り組みが、観光客にとってのお土産になり得るレベルにまで洗練された時、本当の意味での成功した取り組みだと言えるかと思います(そこまでできたら良いなという、希望です)。

メッセージを伝えるためユーザーのコンテキストを理解し表現すること

禁止したい内容、伝えたいメッセージは定まりました。最後に考えるべきは、どのように伝えるべきか。
ここで最も大事なのは、観光客に受け入れてもらうことです。そしてそのためには、どのようにすればよいのでしょうか。

ところで、ここまでは一口に観光客と書いていましたが、当然ながら様々な人がいます。国籍、文化、宗教、年齢などなど多種多様。そのバックボーンに合わせて価値観も幅広いものです。
そしてオーバーツーリズム対策に限らずではありますが、異文化間で何らかのメッセージを伝えようとする場合、相手の持つ文化的なバックボーンを考慮することはとても重要なことです。
一方で残念ながら、こうした取り組みを進めるときに立ちはだかるのは予算の壁、そして期日の壁です。観光客を幅広くリサーチし適切な発信を出来るのであれば良いのですが、世の中上手くいかないものです。

そのため、ここでもプロダクトに着目することにします。
プロダクトから見たユーザー、すなわち観光地の楽しみ方という切り口で、ユーザーのコンテキストを理解する試みをします。
自治体で集計しているデータの中に、当該観光地を訪れる訪日外国人に関する調査資料が展開されています(以下は例)。

こうした調査資料をベースに、実際現地を訪れている観光客にヒアリングすることで、ある程度の傾向を探ることは叶います。

その上である程度ターゲットとなる観光客のセグメントに的を絞りつつ、共通するメッセージの伝え方を考慮します。
この時議題に上げたのは、以下の4つのアプローチです。

  • ルールとして訴えかける

  • モラルに語りかける

  • マナーとして啓蒙する

  • エチケットとして共感させる

そもそもシンプルなのはルール化です。法整備がされている場合、観光客に対しても遵守させるのは問題ない内容です。この内容は地域住民には広い共感を得ましたが、クライアントである自治体職員には不評でした。当然ではありますが、それは彼らの望むゴールの違いからです。
一方クライアントに評判のよかったのはエチケットとして共感を得るという内容でした。

モラルに語りかけるという手段は、人間中心設計に取り組んでいる身としてはチャレンジしたい試みです。一方これは対象の文化的背景をきちんと理解することが必要だと思っていますし、本章の冒頭で難しいと示した内容でもあります。

という訳で取ったアプローチは、マナー啓発という方針です。
そして前項のストーリーにマナー啓発というメッセージの方向性を組み合わせ、ピクトグラムによるコンテンツを制作しました。
※余談ながらオリンピックの開会式でピクトグラムが出ていて、やっぱり異文化コミュニケーションはこれだよね!と勝手に盛り上がっていました。

その結果はどうだったでしょうか。
多少なりとも改善につながって、ホッとしたことを覚えています。

まとめ

以上、長くなりましたがオーバーツーリズムへの取り組み方について、記載してみました。

文中でも何度となく書いていますが、ルールと罰則を定め規制していくことが、手段としては手っ取り早いものです。そして限度を超えた害には毅然として対応することが必要です。
一方、人口減少に加え産業の拠点としての格差も生じている今の日本で観光立国として進んでいくことを考えると、観光客をより戦略的に招き入れる取り組みが必要となります。
そのためより良い形での共存共栄が成立するよう、取り組んでいくことが必要だと思っています。

さて、結果的にはデザインプロセスに則って人間中心的な取り組みとして落ち着けることができたかなと思えますが、実際にこのオーバーツーリズム対策を講じている時、僕自身は人間中心設計の実務者として取り組んでいたのかと言われると正直首を傾げてしまうところでした。
それは単純に観光客や様々なステークホルダーの声に巻き込まれ、「人間 is 誰?」という状態に陥っていたからです。

とは言え結果的に自分にとって大切だとしている考えをベースに、様々な交渉をやってのけたなとの自負はあります。
一応ちゃんと結果がついてきたので、まあ自慢していいのかなと思い、書いてみました。

オーバーツーリズム対策についてご用命があれば、TwitterのDMでもいただけると嬉しいです。

余談

何がとは言わないけれど、受託から3ヶ月後にコンテンツリリースって、無茶振り過ぎるよね。


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