中国語の主語が変わる条件って?
今回は久しぶりに翻訳者向けの話題を取り上げましょう。もちろん、中級者から上級者の中国語学習者にもためになる話題です。そう、中国語文における「主語がいつの間にか変わっている」問題です。
とは言ってもこれは、これまで当noteで何回も取り上げてきた問題でもあり、中日翻訳者なら一度は頭を悩ませた経験があるのではないでしょうか。
一般的に中国語の書き言葉というのは日本語と違い、カンマを挟み、文節を延々と2行から3行にわたり冗長に並べたといった文章が一般的となっています。
しかしこれらの文章を漫然と日本語に訳すと、「あれ?なんか変な文章になっているな」と気づくことがあると思います。なぜそのような違和感が生まれるのか。原因の一つとして、中国語の主語が変わっていることがあるからです。
そこで今回は、「中国語の主語が変わるパターン」として幾つか皆さんに紹介したいと思います。
①カンマの直前の語句が、カンマ以降の文節の主語になる
これはよく見かけるパターンですね。前の文節の最後の語句がそのまま、後ろの文節の主語になるというものです。中日のニュース翻訳で一番よくみられるのが国内の会議の記事で、最初のリードの部分でしょうか。こちらの国務院常務会議のリードの部分を例として出してみます。
ここの「~召开国务院常务会议」の主語は李強総理だというのは分かると思うのですが、カンマを挟んで「审议通过~」以降の文節の主語は実は直前の「常务会议」なのであり、これ以降は会議の内であるということを見抜かなければなりません。このため「李強総理は~会議を開催した。」「会議(で)は審議の末、~を採択した。」としなければなりません。
ちなみにこの文構造は、中日のニュース翻訳の世界では、共同声明や条約の署名記事、会議開催の記事などによく出てきます。
あとは次のようなパターン。例によってここの記事を例に取ってみましょう
。
見ていただくとわかるように、これは3番目の文節の主語がカンマを挟んで2番目の文節の最後の語句になっています(ここの場合は統計専門家ですね)。
②一番最初の主語の「属性」が、カンマ以降の主語になる
これは少しわかりにくいかもしれませんが、前の文節の主語が「AのB」になっていた場合、カンマを挟んだ後の文節の主語がAになることがあるということです。こちらも例文を出してみましょう。習近平主席とフィジー大統領の会見記事からです。
「中国的~」から「~主权和独立」まで文節の主語は「中国の太平洋島嶼国政策」であることはお分かりになると思います。問題はその後。カンマを挟んだ「不附加~」以降の文節です。
これ、結構微妙です。そのまま「政策」を主語にしてもいいのですが、私は②の条件を加味したうえで、文章の前後関係を考えるならば、やはり「中国」を主語にすべきかなとの考えに至りました。この私の考えを考慮した日本語訳はこうなります。
この②なのですが、前の主語が「AのB」の意味にさえなっていれば成立します。このため主語が「A的B」ではなく、間の「的」が省略されたパターンでも成立するということは頭に入れておきましょう。
➂後ろの文節にある主語(または主語の属性)が、先頭の文節の主語になる
これは比較的簡単です。われわれが良く接している文型だからです。典型的なマーカーとなる語句としては「作为」「值得」でしょうか。「要」も主語なしで先頭の文節として就くことがあります。例文として、習近平主席がガボンの首相と会見した記事を紹介しましょう
ここの先頭の文節である、「作为加蓬的真诚朋友」には主語が明確に示されていません。しかし➂の条件と、前後の意味の通りを加味して考えるならばやはりこの文節の主語は「我们」でしょう。
このため「われわれはガボンの真の友人として~戦略的目標の早期実現を心から願っている」という訳になるわけです。
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どうでしたでしょうか。これらの内容は私の過去のnoteでも言及しています。ぜひ見直してみてください。
最後に。「主語が分からん」と頭を悩ませる中国語の主語ですが、中国語は「基本的に」文中の内容にはない全く新しい語句が主語になる場合は、一つ一つその都度明記して言い表さなければなりません。
にもかかわらず省略されているということは、文中にその主語が隠されているということでもあります。直前の文節の主語であれ、目的語であれ、いずれもカンマを挟んだ後の文節の主語になり得るということを頭に入れ、日本語に翻訳する際には常に「日本語として通りはいいのか」ということを考慮してみましょう。
そして、これは裏を返せば、このような「主語が変わる」という中国語の特性を生かし、使いこなして中国語文を構築できれば、より「中国人っぽい中国語文」をつくれるということでもあります。ぜひ頑張ってみてください。