日本語訳で気を付けるべき語句
「中国語の文章を日本語訳する際に、やりがちなこととして真っ先に挙げるのは何か」と聞かれたら皆さんならどう答えますか。
私なら「その中国語の語句がどういう意味かを考える前に、中国語の漢字に日本語の漢字をそのまま持ってきて当てはめる」と答えます。
中国語の語句と日本語の語句は漢字があっても意味が根本的にずれていることが多い。
でもこれって、日本語ネイティブの翻訳者がわかっているけどやってしまいがちなあるあるのミスなんですよね。意味が分からなかったり、どうしてもうまく訳せなかったりするときの「最終手段」として「えいやっ」とやってしまいがち。
一方でこれまで当noteでも私はあるごとに、「中国語の漢字をそのまま日本語訳にあてはめるな。当てはめる前に辞書を引くひと手間を加えろ」と口を酸っぱくして言ってきました。ツイッターでも思いついたときに度々言及して注意喚起しています。
以前のnoteでは中国語の「特别」と「特殊」の違いについて解説しました。
そこで今回はツイッター上で以前注意喚起したことがあるものを含めて、「日本語と中国語では同じ漢字であるにもかかわらず、ニュアンスを含めて微妙or大きく違う語句」を再度紹介したいと思います。
なお今回は「手纸=トイレットペーパー」などの初級者段階で注意喚起される語句というよりも、翻訳者向けの中級~上級者レベルの語句を用意しました。参考にしていただけると幸いです。
表现
この単語。日本語に訳すときに「表現(ひょうげん)」と訳していませんか?
しかし辞書で調べてみるとわかるのですが、「表现」を「表現」と訳すと誤訳になります。「表现」は人の立ち振る舞いなどを表す語句で、日本語では「態度」「成績」と訳されるからです。くれぐれも気を付けましょう。
なお、日本語の「表現(ひょうげん)」にあたる中国語の言葉は「表述」「形容」あたりでしょうか。
检讨
これも非常に間違えが多い語句です。そのまま「検討(けんとう)する」と訳すとやけどします。
これは「検討(けんとう)」ではなく「反省する」と訳されることが多い語句です。
なお中国現地の学校に行ったことがある人、現地の工場で勤務したことが人ならば「检讨书」を書いた人がいるかもしれません。あれは自分がミスを犯したときに書いて上級に提出する報告書で、則ち「反省書」、そこから「始末書」と訳されます。その経験があれば「检讨」=「反省」という意味だなと連想できるかもしれません。
日本語の「検討(けんとう)する」に当たる中国語の語句は「研究」が最適かなと思います。
なお注意したいのは、台湾では「けんとうする」の意味で中国語の「検討」を訳す場合もあるということ。現に台湾メディアでそのような使い方をしている語句を目にしています。このため臨機応変な翻訳を心がけるようにしましょう。
解读
この語句を「解読」すると訳す人。絶対いると私は予想します。現に私の会社の新人も、「解読する」と訳しては私に指導されていました。
「解読する」を国語辞典で調べると次のようなを見ることができるでしょう。
一方で中国語の「解读」は日本語ではどのような意味なのか。これについては中日辞典を引いてみれば「分析する」という言葉を得ることができるはずです。
この「解読する」に相当する中国語は「解码」「解密」ぐらいが適切かな?と私は考えます。
このように日本語の先入観を持たずに「おかしい」と思った時は迷わず辞書を調べることが重要です。
指摘
これも引っかかりやすい語句だと私は考えます。日本語ネイティブの翻訳者の中で何割かは「指摘する」とそのまま訳したのではと推察します。
でもこれも中日辞典を引いてみれば、別の言葉「非難する」「批判する」を目にすることができるでしょう。
つい最近でも外交部駐香港特派員公署報道官の談話で次のようなフレーズがありました。
実は中国メディアの報道の中では「无可指摘」というフレーズでつかわれることが多いですね。ですが、「指摘」単独で目にした時のことも考えて「非難」という意味だということをしっかり理解しておきましょう。
答案、答卷
最後はこの2つの語句です。「答案」は答案(とうあん)、「答卷」は解答用紙ぐらいに訳す人がいるかもしれません。
しかしここで注意が必要です。日本語における答案(とうあん)とは、答えそのものを表すこともあるのですが、現在の教育現場においては「答えがかかれた用紙」、つまり「解答用紙」「答案用紙」を指すことが多いからです。
一方で中国語の「答案」は「問題を解いた解答」「答え」という意味しかなく、「答えがかかれた用紙」という意味はありません。
このため、中国語の「答案」に対しては、必ず「答え」と訳すようにしましょう。
ここで「『答案』って『答え』って意味もあるんだから、『答案』っていう漢字をそのまま使ってもいいじゃん」と思う人もいるかもしれません。
しかし日本語においては「答案」に「用紙」という意味もある以上、「どちらともとれる訳語を当てはめる」ことは「基本」好ましくありません。読んで誤解する読者もいるかもしれないからです。
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どうでしたか?実はこれらの語句、私自身もともとほとんどが知らなかったものばかりです。しかし日々の翻訳の中で、そのまま日本語の漢字にあてはめて作った訳文に、日本語文としての違和感を感じて辞書で調べて発覚した、、という経緯があるいわくつきの語句であることも最後に申し添えておきます。