メモとサイコロを使わずにゲームブックの戦闘システムを作る ~『人魚喰らいの黄泉羅鬼滅羅』設計ノート~
『ゲームブック』というアナログゲームの一ジャンルをご存じだろうか。
きっとご存じだろう。
でなければ、この記事を開いてはいないはずだ。
この稿はタイトル通りゲームブック製作者向け、しかも戦闘システム設計についてというニッチなテーマを取り扱った記録になる。
「そもそもゲームブックって何?」
という人にとって、この記事は無用の長物に違いない。
よって申し訳ないが、ゲームブックについての基本的な解説は敢えて行わないので、それでも気になる人は『ゲームブック とは』などの文言で検索してから読み進めていただきたい。
あしからず。
さて……
いきなり私事になるが、我がサークル『オーングロリアム治安維持騎士団』では同人ゲームブックを一年に一冊ペースで刊行し、秋に行われるアナログゲーム即売会『ゲームマーケット秋』に殴り込むのが慣例となっている。
まだ累計で三作しか書いていないが、それでも三年だ。
最近は少しずつ板について来たと思う。
こんなご時世だが、そろそろ次回作の構想を始めなければならない。
色々思案した結果、前作『人魚喰らいの黄泉羅鬼滅羅』にて考案した、サイコロやメモを用いない戦闘システム『黄泉羅鬼滅羅システム』を発展させることにしよう……
と、思っていたのだが、最近Switchのダウンロード版でプレイした初代『ゼルダの伝説』に天啓を受け、今年は『探索』に重きを置いたゲームを作ることにした。
なので、新作に取り掛かる前に『黄泉羅鬼滅羅システム』のコンセプトや製作時の注意点などを文章に残しておき、せっかくなので公開しようと思った次第だ。
恐らく似た発想で作られたゲームブックは、私が観測していないだけで既に存在しているだろう。
車輪の再発明じみているかもしれないが、その過程を残しておくことで誰かの発想の助けになれば幸いだ。
あと言うまでもないことだが、メロンブックスさんにて好評委託販売中の『人魚喰らいの黄泉羅鬼滅羅』を読んでもらえるとよりこの記事の理解が深まると思うし、何より私も嬉しい。
〇『黄泉羅鬼滅羅システム』ってどんなシステム?
『黄泉羅鬼滅羅』システムは『剣戟』、つまり剣を用いた斬り合いを完全選択肢式に落とし込むことでメモとサイコロを廃し、ゲームブックながらアクションゲームのようなプレイ感を表現することを目標とした戦闘システムだ。
このシステムを採用することでゲームブックにありがちな、
・戦闘中に何度もサイコロを振る。
・サイコロを振る度にメモの体力欄を再計算する。
・計算結果を記録用紙に書き直す
などの煩雑な作業から解放され、スピーディなゲームプレイが可能となる。
百聞は一見に如かず。
まずは簡単なサンプルゲームをプレイしてもらおう。
〇第一問
お前さんの前には侍が一人、刀を構えて佇んでいる。
その目は血走り、息も荒い。
「覚悟ォッ!」
侍は殺気を発すると刀を大上段に振り上げ、縦に一閃。
お前さんに真っ直ぐ打ちかかってきた。
さあ、どうする?
次の内から選べ。
・身を低く屈めて剣を躱そうとするならば【A】の項に進め。
・身を横に躱して斬撃をいなそうとするならば【B】の項に進め。
【A】
縦に振り下ろされた斬撃は、屈んでも躱せない。
侍の一閃はお前さんの脳天をカチ割った。
GAME OVER!
第一問へ戻れ。
【B】
お前さんは縦に振り下ろされた攻撃に対して真横へと躱す。
侍の一閃は空を切るばかり。
「ぬぅ、ちょこまかと!」
侍は怒り狂う。
第二問へ進め。
〇第二問
「きぇぇぇいッ!」
侍は刀を横に構え、今度は真一文字に水平斬りを繰り出してきた。
さあ、どうする?
次の内から選べ。
・再び剣を横に躱そうとするならば【C】へと進め。
・今度は屈んで剣を躱そうとするならば【D】の項へと進め。
【C】
横振りの攻撃を横に躱そうとしても無駄だ。
侍の一撃はお前さんの胴を裂き、臓物を引きずり出した。
GAME OVER!
第二問へ戻れ
【D】
横振りの攻撃を躱すには上下に躱すのが適している。
身を低くしたお前さんの頭上を刃が通り抜けていった。
「ちぃっ!」
第三問へ進め。
〇第三問
「こうなれば、我が必殺剣『十文字斬り』を受けてみよ!」
侍は今までとは比べ物にならない殺気を放ち、刀を振り上げた。
恐らくは二連撃で刀を振ってくるつもりだ。
さあ、どうする?
・一撃目を屈んで躱し、続く斬撃を横に躱すならば【E】に進め。
・一撃目を横に躱し、続く斬撃をもう一度横に躱すならば【F】に進め。
・一撃目を横に躱し、続く斬撃を今度は屈んで躱すならば【G】に進め。
【E】
一撃目の縦振りで、お前さんの脳天はカチ割られた。
GAME OVER!
第三問へ戻れ。
【F】
お前さんは縦に振り下ろされた斬撃を最初と同じように躱したが……
「もらったぁッ!」
十文字斬り。
縦に続き、今度は真横に向けて繰り出された斬撃がお前さんを捉えた。
GAME OVER!
第三問へ戻れ。
【G】
お前さんは縦に振り下ろされた斬撃を横に躱し、続けて十字に交差するように繰り出された一文字斬りをも屈んで躱した。
「なぬ!?」
侍は、必殺剣を躱したお前さんに一瞬だけ隙を見せた。
お前さんは刀を侍の脾腹に突き入れた。
「ごぼっ……み、見事なり……ッ!」
刀を引き抜くと侍はどうと倒れ伏し、絶命した。
GAME CLEAR!
このまま続きの文章を読み進めよ。
……以上でサンプルゲームは終わりとなる。
察してもらえたと思うが、発想自体は単純だ。
第一問では『縦の攻撃は横に躱す』、
第二問では『横の攻撃は上下に躱す』、
といった具合に単純な斬撃への対処を学び、第三問ではこの二つのルールと
「十字斬りと叫んで最初に縦振りが来たら、二撃目は横振りだろう」
という簡単な推理を組み合わせた応用問題を解くこととなる。
要は、ジャンケンである。
相手がチョキを出して来たらグーを。
相手がパーを出して来たらチョキを。
相手がチョキとパーを連続して出して来たらグーとチョキを。
と、選択肢前の文章から相手の手を読み、それに勝つ選択肢を選んでいく『後出しジャンケン』。
これが、『黄泉羅鬼滅羅システム』の基本構造だ。
〇後出しジャンケン? それって面白いの?
一般論を言えば、後出しジャンケンはつまらない。
普通に後出しをしたら結果は分かり切っており、公平性もへったくれもない。
だがそれは、人間同士のジャンケンの話だ。
一人用ゲームにおける戦闘は、『プレイヤー』VS『アルゴリズムで制御された敵キャラクター』のジャンケン。
元々非対称な関係なのだから、非対称なルールを盛り込むのが道理だ。
例えば、2019年ゲームオブザイヤーに輝いたアクションゲーム『SEKIRO』では後出しジャンケン構造を持った駆け引きが採用されている。
敵キャラクターが『危険攻撃』という強力な攻撃を構えると、警告音と共に『危』の字が赤く表示される。
そこから派生して三種類の攻撃からどれか一つが放たれるのだが、その異なる予備動作から判断して、
・『掴み』 → 『後退する』
・『足元への斬り払い』 → 『ジャンプする』
・『突き』 → 『横に避ける、または『見切り』の技を使う』
と、それぞれに適した対処をすることで逆に敵キャラの隙を突いて攻撃を加えることが出来る。
この例にとどまらず、「相手が特定の予備動作を見せた時に正しく対処すれば、プレイヤーは得をできる」という広義の後出しジャンケン構造は、一人用ゲームに広く採用されている。
ゼルダの伝説シリーズの敵やスーパーマリオシリーズの敵などが分かりやすい例だろう。
ボコブリンが剣を振る前には必ず振りかぶるし、クッパが炎を吐く前には大抵大きく息を吸う(初代などの過去作ではそうでもなかったが)ものだ。
プレイヤーは敵キャラクターとの初遭遇から試行錯誤を繰り返し、成功したり失敗したりする中で対処法を学習していく。
『フロー理論』によって説明されているように、ゲーム製作者はこの学習の過程をデザインすることで面白さを作り出している。
後出しジャンケンは、そのための古き良き格好の題材なのだ。
〇面白い≒難しい後出しジャンケンを作るには
さて、工夫無しの後出しジャンケンは先ほどの第一問や第二問のように至極簡単だ。
相手が水タイプのポケモンを出して来たら草タイプの技をぶつける。
同じく草タイプには炎タイプ。
炎タイプには水タイプ……
と、最初はこれぐらい簡単でなければならない。
そうでないと、そもそもプレイヤーに基本のルールすら覚えてもらえないかもしれない。
その上でゲームを飽きずに楽しんでもらうためには、徐々にこの後出しジャンケンを難しくしていく必要がある。
再び『SEKIRO』を例としよう。
同作は難ゲーとして名高いが、決して理不尽ではない。
『危険攻撃』への対処も、最初は先述した簡単な三通りの判断だけだったが、徐々に難しくなるように調整が為されている。
私が気付いた部分だと、
・普通の攻撃よりも威力が高く設定されていき、失敗したら大ダメージという緊張感がプレイヤーを焦らせる。
・予備動作やAIの行動にバリエーションが加わり、いつ『危険攻撃』が仕掛けられるか予想が出来なくなる。
・中盤からは一部の敵が四種類目の危険攻撃『巴の雷』を使ってくるようになり、ジャンケンのルール自体が複雑化する。
など。
『SEKIRO』の面白さは後出しジャンケン構造だけで語れる代物ではないが、とにかく……たとえ後出しジャンケンであっても、あの手この手で難易度を調整することは可能だ。
こういった工夫の流れを汲むことで、ゲームブックでも同じ面白さの一端をエミュレートできるかもしれない。
というわけで、文章媒体でも採用できる方法をいくつか挙げてみる。
・時間制限を設ける。
→先ほどの『SEKIRO』でも例に挙げたが、時間制限を言い渡されると、人の判断力は下がる。学校入試やテストで、残り時間が少ないことに焦って解ける問題を取りこぼした経験は誰にでもあるだろう。
例えば、
『頭の中で10数えるまでに選択肢を選べなかったなら、靴占いで選択肢をランダムに選べ』
などと締め切りとその際の行動を設けるだけで人は混乱し、ミスをしやすくなる。
ただし、制限時間が短すぎるのは良くない。
最初は余裕を持たせ、少しずつプレイヤーを締め上げて行こう。
・組み合わせ問題にする。
例題の第三問のように『縦』と『横』、簡単な二つのルールでも組み合わせることで少しだけ複雑となる。これを三連撃にしたり、後述するように『驚異の数を増やし』たり、『解答を増やす』ことでまだまだ複雑にすることが出来る。
だが、組み合わせ自体を増やし過ぎると煩雑になり過ぎてしまい、せっかくのスピード感にストップがかかってしまうのには注意。
・脅威の数を増やす。
例題では『縦の斬撃』と『横の斬撃』という二つの脅威への対応を取り扱ったが、そこに『突き攻撃』や『飛び道具での攻撃』などを加えていく事で、プレイヤーの負荷を地味に増やす。これ単体では地味だが、上述した組み合わせ問題に盛り込むことでジワジワと効いてくる。
ただし、ルールを追加するときは必ずヒントやリスクの小さな例題をプレイヤーに解かせること。
習ってないことをテストに出されても生徒はポカンとするだけだ。
・正解の数を増やす。
例題では『縦の斬撃』に対して『横に躱す』という一通りの正解例だけを与えたが、例えば『刀で弾く』『刀で受けて鍔迫り合いに持ち込む』など複数の正答例を用意することで、正答例に幅を作る。また、それらの選択肢も一〇〇点の対応、六〇点の対応と幅を作ることでさらにプレイヤーの負荷を増すことができる。これも、組み合わせ問題になった時に真価を発揮する。
ただし、新ルールを追加する場合はやはり例題で提示し、結果も分かりやすく提示すること。
・変則ルールを取り入れる。
ボスや場所ごとに変則ルールを適用することでも複雑さを増すことができる。
例えば、蛇のような軌道の剣術を使うボスを出して、
「彼は縦に振ろうとした斬撃が横に、横に振ろうとした斬撃が縦に変化する」
という変則ルールを提示すれば、今まで覚えたルールの逆をしなければならないので、プレイヤーはミスをしやすくなる。
他にも、吊り橋の上で戦うシチュエーションなど、場所に注目するのも良い。
『縦の斬撃』が来たら『横に躱す』のが本来の正解だが、それをしたら橋から落ちてしまうので『剣で受けること』が正解になる……など。
既存のルールに変則を加えて組み合わせ問題にすることで、一つ一つは簡単なはずなのに、どんどん複雑さが増していく。
・他のクイズ要素を絡める。
『黄泉羅鬼滅羅』では、上で述べてきたような工夫だけでなく、文章だからこそできる工夫を盛り込んだ。
その一つが、『国語のテスト』だ。
敵ボスの過去回想をしれっと文中に差し挟み、ボス戦の土壇場で突如、その心情について現代国語のセンター試験問題のような選択肢式でプレイヤーに選ばせ、誤答だったらその度合いによって追試や死などのペナルティを課す。
覚えたルールを使いこなすので精いっぱいだったプレイヤーは死角からの攻撃に混乱してくれること請け合いだ(ただし、問題文と選択肢が離れすぎてしまうとプレイヤーが内容を忘れてしまうし、やり直した時に読みに戻れなかったりするので注意)。
あまり頻繁にやり過ぎると飽きられるが、たまにスッと差し挟むことでプレイヤーを死角から殴りつけることが出来るのでお勧めだ。
他にも、『ウォーリーをさがせ』のような図表や絵を盛り込んだクイズにしてみたりと、本媒体だからこそできるアイデアは無限にある。
などなど、思いつく限りを並べてみた。
これらの方法を注意深く組み合わせていくことで、ゲームブック一冊分のゲームプレイに相当する難しさは表現できるかと思われる。
恐らく私が思いついていないだけで他にも後出しジャンケンを面白くする工夫はたくさんあると思うので、色々試してもらえたら幸いだ。
〇実際にシステムを導入してみた感触・課題
さて、今まで述べてきたようなアイデアを盛り込み、『人魚喰らいの黄泉羅鬼滅羅』を書いた。
架空の島国『逝原』を舞台に、人魚を食べた少年『黄泉』を巡って幕府の刺客たちと死闘を繰り広げる剣戟バトルアクション物だ。
正直、かなり手応えがあった。
簡単過ぎず、その反面で死んだとしてもボスの直前からやり直せるように設計することで、死に覚え系のアクションゲームとしての軽快さを表現できていたように思う。
その一方で、問題点も見つけた。
一つは、防御にこだわり過ぎた点だ。
後出しジャンケンは文字通り『後出し』なので、相手が何かをしてきてからこちらが手を返さなければならず、どうしても受け身の判断になってしまう。
『あらゆる行動は、防御、攻撃、移動という3つのカテゴリのどれかに分類される。戦争であろうがボクシングであろうが、それが戦いである限り。』
とはイギリスの軍事理論家ベイジル・リデル=ハートの言葉だそうだが、ゲームの戦闘である以上、防御以外も盛り込みたい。
ゲームブックで戦闘中の移動を表現するのはかなり難しいが、せめて攻撃についてもう少し掘り下げておけばよかったと、ゲームが完成してしばらくしてから思い至った。
そのためには、後出しジャンケンで行った学習過程を攻撃の分野でも表現する必要がある。
それがこのシステムの当面の課題となるだろう。
また、これは作り手側の都合だが、戦闘に文字数とパラグラフが大量に消費されてしまうのも気になる。
ボス戦一回で大体一五~三〇パラグラフ、文字数換算だと三〇〇〇~五〇〇〇字ほどかかった。
電子書籍ならば気にしなくてもいいと思われるかもしれないが、本という媒体自体がゲームブックの強みかつ『黄泉羅鬼滅羅システム』が持つ軽快さのキモなのでかなり切実だ。
メモを廃した分探索パートが必然的に短くなるため、そこで紙幅を補えばよいのだが、そうすると今度は戦闘に続く戦闘で、プレイヤーの心が休まる暇がなくなってしまう危険がある。
これはアクションゲームそのものが有する課題かもしれないが、上手くプレイヤーのテンションに緩急を付けることについても考慮が必要だ。
〇総括と注意点
総合すると、良くも悪くもアクションゲームに近い軽快な風味が付けられたかな? という感じだ。
もし『ゲームブックで探索要素を削ってでも軽快かつ複雑な戦闘をやりたい!』という稀有な人がいたら、参考にしてもらえると幸いだ。
最後に、『人魚喰らいの黄泉羅鬼滅羅』を書いていて常に感じていた不安、注意点を一つ書き残しておく。
ゲームブックではありがちな事なのだが、このシステムでは特にやってはならないと感じた禁忌がある。
『プレイヤーが理不尽と感じる死』だ。
『黄泉羅鬼滅羅システム』は通常のゲームブックのような数値計算を介さずにプレイヤーを死のパラグラフへと運んでいく。
その死にはどんなに複雑でもいいから理由が必要で、事前にプレイヤーがその判断材料を有してなければならない。
でないと、筆者が作り出した勝手な自分ルールによって主人公が死んだとプレイヤーが感じてしまう。そうなれば、読者は死に戻りの面倒くささも相まって、容易く本を閉じて放り出してしまうだろう。
学校の先生になったつもりで、自分の授業を聞いてくれた生徒のためにテスト問題を作る様な気持ちで戦闘を作るべきだ。
プレイヤーを殺すのではなく、プレイヤーを試し、ミスをさせ、正解者には丸を付けてあげなければならない。
それが『黄泉羅鬼滅羅システム』の最大の注意点だ。
未知のルールに初めて出会った時は簡単な推理で解けるレベルまで落とし込み、以降はそのルールを徹底し、組み合わせる。
とにかくその繰り返しであることを何度も強調し、この稿の締めくくりとしたい。
〇余談:サイコロとメモは不要か?
『黄泉羅鬼滅羅システム』は『メモとサイコロを廃することで軽快な読み味のゲームブックが作りたい』という願望を出発点としている。
ゲームブックは同人ゲームを作るのにとても適した媒体だ。
インディーズゲームと比べても遥かに低コストながら、きちんとゲームの構造を持った作品を作ることが出来る(私がキチンとしたゲームを作れているかどうかは別として)。
私はゲームブックが持つ簡便性や本という媒体の物質性に魅かれながらも、『メモとサイコロ』は低コスト製作のための必要悪、アルゴリズムの代替品に過ぎないと考えていた。
だが、『黄泉羅鬼滅羅システム』で探索要素をバッサリ削ぎ落としたことでスピーディーさを得た半面、探索系RPGが持つ謎めいた緊張が失われてしまったのを感じた。
特にメモ。
フラグ管理やプレイヤーの成長、謎解きを短期記憶以上の量と質で表現するためにはやはりメモが必要だ。
何もこれはゲームブックに限ったことではなく、例えば『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』において写真機能や地図マーカー、クエスト管理リストなどで行ってくれている情報管理を自分で行う事には、それ自体に意味がある様に思うのだ。
さっきチラと話したように、次回作は初代『ゼルダの伝説』などの探索系アクションRPGの流れを汲んだ作品にしようと思っている。
そこでは栞の代わりにもなるメモ、『冒険記録紙』を採用することになると思う。
サイコロは……どうだろう?
乱数発生は替えが利きそうだが……
〇余談:参考資料
『レベルアップのゲームデザイン』
有名ゲームデザイナー、スコット・ロジャーズさんがゲーム製作についてあらゆる面から解説してくれるガイドブック。
一時期本屋でゲームデザイン関連の書籍を漁っていた時期があったのだが、この本が一番良かった。通常のゲーム製作のみならず、ゲームブックや小説執筆にも役立つ、『面白さ』についての色々な考え方が載っている。
少々値は張るが、ふと何の気なしに風呂で読むくらいにはお気に入りの一冊。
『SEKIRO』
フロムソフトウェアによるアクションゲーム。
『黄泉羅鬼滅羅』の執筆が半分進んだぐらいの頃に発売されてしまい、本作のシステムにも多大な影響を与えてしまう。
同作のプロデューサーである宮崎英高さんが『DARKSOULS』のアートワークスでゲームブックについて言及していたことが、私のゲームブック作りの発端となっている。
『人魚喰らいの黄泉羅鬼滅羅』
去年のゲームマーケット秋で発表した新作ゲームブック。
『黄泉羅鬼滅羅システム』を真の意味で理解するための必須教材……
というより、もう単純により多くの人にプレイしてもらいたいので買ってほしい。