電車を待ちながら1

電車が事故で三十分ほど遅れてるんです。

A駅からB駅まで電車に乗って○分に着く、そうしたらあれがこうなって此れはそうなってという予定は全部おジャンだ。

くさくさしまさぁね。でもまあ、しようがない。ふっと、そこで私は電車ではなくロケットを待ってるんだ、と想像致しました。三十分遅れなんて、平気の平左。サッと乗って、ピュっと行けば、事に寄っちゃぁ時間を遡って予定時間の一時間前に着いちゃったりして、それはそれでまあ、大変なことになりますが。


(目線を随分高くあげて)
あ、これがロケットかい?はあ、こりゃ初鰹みたいにピカピカで豪勢なもんだね。(目線を下げて頓狂な声で)ええ?はあ、お前さん小さいのに学があるねぇ、偉いねぇ、ロケットが光より早く飛ぶなんて、光速だなんて、そんな難しいことをよく知ってるもんだ。こっちへおいで、小父さんが小遣いをやろう。はは、ご縁がありますようにって、ほら五円遣ろう(遠くに子供が駆けて行くのを見送るような仕草)

(往来を歩くような仕草で独り言)しかし何だね、そんなに光より早く出掛けて済まさなきゃならない急ぎの用事でもあるのかねぇ、宇宙とやらにさ。そんなに早く動いちゃ見えるもんも見えませんよ、物見遊山なんてできるのかねぇ。
それに、せっかく宇宙に行けたって、おてんとさんだってそんな近くで見てしまったら偉いもなにもない。遠くから眺めるから風情がある。

そんな遠くまで行ってさ、宇宙なんて難しい事、放っておけばいいんじゃないのかい?なんでもかんでもわかろうってのは、ええ、悪い性分だ。欲張っちゃ不可ないよ。でもまあ、折角だ、ここは一つ、話の種にあたしもロケットくらい乗らないでもない。昔っから気にはなっていたんだが、お月さんにどのくらい兎が居るのか数えに行ってみよう。お月さん見物から帰ったら、ふふ、かみさんに自慢してやろう。

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