モンスターも人の子
我が家のモンスターの祖である父にも親がいる。
私の祖父母だ。
この2人も、父を育てただけあって、なかなかのモンスターである。
父の妹、私の叔母はあの中では比較的常識人で、家の異常さに気づいていたのか、私の親が離婚する頃には結婚していなくなっていた。
この叔母は優しい人だった。
私の記憶の中では。
自分が結婚し家を出て、私の親が離婚したあとも私を連れて旦那さんと一緒に食事に連れて行ってくれたことがある。
私は「この人が本当の母親なのでは?」と妄想するほどに、温かい人だった。
けれど、叔母はある時を境に姿を見なくなった。
私の従姉妹に当たる2人の娘とも会わなくなった。
原因も理由も当時の私には分からない、分からないが、きっと彼女は上手く逃げられたのだと信じたい。
そして、どうか叔母夫婦と従姉妹がこの家に二度と関わらずに幸せになっていて欲しいと願ってやまない。
モンスターの親はモンスター
祖父母も例に漏れず、いや…それ以上におかしい人間だったのだ。
祖母は保険会社で働いていた。
しかし定年を迎えた祖父は働かずに愛人に貢いでいた。
これだけでも歪な家だとわかると思う。
祖母は稼いだ金を家と父に渡し、父はその金で海外に行ったり、女と遊んでいた。
クズの本科の見せ所である。
父の弟である叔父も叔父で真っ当ではなく、私たち兄弟の面倒を見てくれる優しいさがある反面…他人に対してとても人間性に欠ける言動が多い人だった。
女にだらしなく
金にだらしなく
そして、凡そ人として相手に敬意を払えないその姿。
悪い血が全て集約された存在、それが父で、その全てを受け継いでいるのが、長男なのだ。
とても不快な存在であることは容易に想像でき、DNAの強さを此処だけで充分理解していただけるだろう。
父は祖父と同じ事をして、長男と次男は父と同じ事をしているのだ。
それに気づいた時、心底自分の中に流れる血が不愉快で仕方なかった。
叔母の姿を見たのは中学生のお正月だったと思う。その日を境に叔母とは二度と会えなくなった。
でも、叔母もきっと苦しかったのだと思う。
それなのに、姪である私に唯一幸せな時間を与えてくれた事に感謝しかない。
自分の父母である私の祖父母が、自分の兄である私の父が、自分の甥っ子である長男が私を不幸にしている事にきっと気付いていたのだと思う。
だからきっとあれだけ優しく接してくれたのだろう。
でも私は叔母の娘ではない、叔母には叔母の人生がある。
そして本当の娘が生まれた。
守るべきものができた。
何も言わずにそっといなくなったのは、叔母なりの気遣いだったのではないか、
叔母の気持ちを私が推測するのは僭越な事だろう。
でも、あの家の中で私を守ろうとしてくれたことは今でも感謝してもしきれない。
モンスターの子どもが全てモンスターになるとは限らない。
モンスターの子どもだって人の子だ。
よく少年犯罪で「家庭環境」が取り上げられるが、地獄のような家庭の中でも真っ当に生きようと努力している子どももいる事を忘れないで欲しい。
「助けてあげないなんて」「周りの大人は何をしていたんだ」とTwitterやニュースでバッシングする人たちもいる。
しかし、私はその人たちにも問いたい。
その時、その場で、その瞬間に立ち会った時、同じように行動できるのか?
棒切れ一本で魔王に挑むようなものだ。
本物のモンスターは「普通の顔」をして隣に何食わぬ顔をして座っている。
本当に、誰も気づかないことが多い。
もし、あなたの近くでSOSを出している子どもがいたならお金をあげるとか何か食べさせてあげるとか、そんなことしなくてもいい。
ただ、紙切れに「あなたを助けてくれるところが此処にある」と書いて渡してほしい。
それだけで救われる子どもがいる。
モンスターの子どもだって親を選べるなら選びたかった筈だ、少なくとも私は選びたかった。
でもそれはもう無理な話だ。
生まれちゃったもん。
人の心を持ったモンスターの子どもだっている。
だから、尚更、自分の親がモンスターだとわかっていても止められない。
人間だから人間を信じようと優しさが出てしまう。
これを世の中の人は「血の絆」だといい言葉で片付けようとするが、そんなもの全くいらない。
声の小さな人間が虐げられ、声の大きなモンスターが目立ち、真っ当に生きてる人間の邪魔をしているだけだ。
それは、きっと自分の間近にモンスターがいる者にしかわからないことかもしれない。
だけど、忘れないでほしい。
モンスターの子どもだって人の子なんだ。
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