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ダメージレンズを楽しむ/TELE-ELMARIT 90mm F2.8
年末にネットオークションで手に入れたTELE-ELMARIT 90mmは所謂オールドレンズというもので、シリアルナンバーから判断すると1973年製のもの。
沈胴式のLマウントなんかに比べれば随分と若いレンズだけど、自分が生まれる前からこの世界の ”場面” を切り取ってきたベテランだと考えると、教えを乞うつもりで写真を撮らせてもらっている感じがしなくもない。
オールドレンズを購入するときに気を付けるべき点は、以下の記事によくまとめられている。
ここで紹介されている「オールドレンズの新しい教科書」は僕も愛読している良書。
ネットでオールドレンズを買うことは悪手でしかないのは承知しているけれど、いつでも最善手を打つことができないのが人というものだろう。
オールドレンズを選ぶ理由。
独特な描写もさることながら、"既にどこかしらキズがついている"ことが僕にとって魅力の源泉になっている。
新いカメラを買って自分で第1号のキズをつけたら心が痛むけれど(そして数日気に病むと思う)、既にキズがついているレンズに新しいキズが一つ増えても精神的ダメージは比較的少ない。
要は臆病者なのだ。
いま手元にあるTELE-ELMARIT 90mmはオールドレンズの中でも、ダメージレンズと言いえる種類のもの。
後玉の状態が酷い。
周辺部のカビが薄くレンズをくもらせている。中央部には拭きキズもあり、写りに影響することは必至。
店舗でこのレンズを見ていたら買わなかったかもしれない。
ネットだからこそ手に入れたレンズ。
ウェブサイトの画面からは判別できない瑕疵が沢山あったけれど、このレンズで撮れる写真は結構好みだったりする。
写りに及ぼす影響が "悪影響" かどうかの判断は撮る人間に委ねられる。
高解像で綺麗な写真はG9。
雰囲気のある個性的な写真はM9。
2台の ”9” が僕の写真の楽しみ方を広げてくれている。
ビビットな色合いのものはレトロなフィルターをかけたような感じに写る。
背景の玉ボケはレンズのくもりのせいで輪郭がファジーになって雰囲気が良い。
フレアのせいかもしれないけれど、背景が不思議な感じにボケている。
オールドレンズ好きはゴーストが出ると喜ぶ。
この個体は全体的に白くもやが掛かったような描写になるけれど、時にビビット過ぎるM9の発色には良い影響を与えている。
きっとモノクロでも良い画が出せると予感させる描写。
空の青さも若干柔らかくなっている。
金属の硬質感が失われ、全体的に柔らかい雰囲気の画になる。
これを眠いと呼ぶか幻想的と呼ぶか。
往々にして幻想は眠りの中にあるものだけど。
フレアとゴーストと白いもやが絶妙な立体感を生み出している。
被写体や光の加減、絞り値によって表情の違った画が撮れる。
これが経年劣化のせいなのか、元々のレンズの性格なのか。
均質な画を作ることは難しいけれど、出てくる画が想像とは違ったものになる楽しみは、レンジファインダー機を使う楽しみと似ている。
90mmという焦点距離は普段多用することはないけれど、非常にコンパクトなレンズなので、50mm、35mmに次ぐ3本目のレンズとして持ち歩いても良いかもしれない。
オールドレンズの沼は深い。
その深さを知ってなお、沼に近づくことを避けられないのが人というものだったりするのかもしれない。