【医師×レバレッジETF】基礎編⑧レバレッジETFは順張り投資
今回はレバレッジETFについて、
「運用の仕組み」
という角度から解説してみたいと思います。
以前の記事で、
「減価と複利」の関係について書きましたが、
それらについても別の角度からより深く理解できる内容かと思います。
1.なぜ3倍の値動きを実現できるのか
今回もSPXLを例に取ります。
SPXLはS&P500の1日の値動きの3倍を取るETFです。
意外と見過ごされがちですが、1日の値動きというところは大きなポイントです。
まずSPXLの純資産を100億円と仮定します。
この時のSPXLは、100億円で運用されているわけではなく、
実際には300億円分のS&P500の先物を持っている状態になります。
※足りない200億円分は借金をして運用することになるため、ここに金利コストが関わってきます。
ある日、S&P500が10%上昇したとすると、
持っているS&P500の先物は300億円→330億円に増えます。
すると、30億円の利益が出ていますので、SPXLの純資産は100億円→130億円となり、
S&P500が10%上昇した日に、SPXLは30%上昇することができるのです。
10%下落した際も同様で、上記と同じ場合で仮定すると、
先物は300億円→270億円になり、30億円の損失が出ます。
すると純資産は100億円→70億円となり、30%下落することになります。
2.運用額の修正
さて、ここまでが1日の値動きを3倍にする仕組みですが、ここからが本題です。
先程のケースで10%上昇した場合、
純資産は100億円→130億円
先物は300億円→330億円
になりました。
次の日も3倍の値動きを実現するためには、再び先物ポジションの修正をしなければなりません。
純資産が130億円であれば、先物は390億円必要になるため、
60億円分の先物を新たに買い増ししなければいけないのです。
逆に10%下落した場合はどうなるでしょう。
純資産は100億円→70億円
先物は300億円→270億円
になっています。
今度は先物を210億円とするために、
60億円分を売却することになります。
つまり、レバレッジETFは
上がった次の日には買い増しを行い、
下がった次の日には売却する
ということを毎日自動的に繰り返しているのです。
そのため、レバレッジETFは常に順張り投資を行なっていることになります。
一応、誤解のないように書いておきますと、
「買い増し」、「売却」という用語を便宜上用いていますが、
これはETFの内部で行われているだけなので、
「買い増し」の際に資金を要求されることもなければ、
「売却」の際に現金がもらえることもありません。
買い増しの際には、S&P500の先物がタダでもらえる
ただし売却の際には、先物は勝手に消滅する
というイメージで捉える方が良いと思います。
3.3倍の額のS&P500を持つこととの違い
S&P500を3倍持つこととの違いを考えてみると、
毎日順張りされていることがより実感できると思います。
たまに
「100万円のSPXLを持つこと」と
「300万円のS&P500を持つこと」は
同じことだという誤解をしている人を見かけますが、
これまでの仕組みが理解できれば、
その二つが全く違うことであることが分かります。
S&P500が1%上昇したとすると、SPXLは3%上昇しますので、
SPXLは100万円→103万円
S&P500は300万円→303万円
となります。
どちらも+3万円ですから、最初の1日だけは同じリターンになるのですが、
2日目にはSPXLを既に103万円保有していますので、これはS&P500を309万円保有しているのと同じになります。
2日目のS&P500は303万円しかありませんから、SPXLと同じ動きがしたければ、6万円を買い増す必要があるのです。
例えば、S&P500が5日連続で1%上昇した時、
100万円のSPXLは、およそ15.9万円のリターンになりますが、
300万円のS&P500は、およそ15.3万円のリターンになります。
上昇時の買い増しによって、
リターンに差がついていくわけですね。
逆に、S&P500が5日連続で1%下落した時、
100万円のSPXLは、およそ14.1万円の損失が出ますが、
300万円のS&P500は、およそ14.7万円の損失が出ます。
これも下落時の売却によって、
損失が小さくなるケースです。
こう考えると、SPXLは確かに毎日順張りされていることが分かりやすいと思います。
この順張りの動きを排除したい場合、
FXに代表されるような、元金に直接レバレッジをかける取引方式(CFDといいます)を行えば、
100万円の元手で、300万円分のS&P500を保有することもできます。
しかし、それはSPXLを保有することとは全く異なる投資方法になるということです。
どちらも「レバレッジ」という言葉が使われるので混同されやすいのですが、
「レバレッジETF」と「CFD」は異なるものであるということは、しっかり押さえておきましょう。
値動きにレバレッジを掛けるのがレバレッジETF
元金にレバレッジを掛けるのがCFD
と理解することもできます。
4.減価の捉え方
ここまで分かると、減価や複利もまた違った捉え方ができると思います。
※ちなみに減価=複利ですが、それらについての詳しい説明はこちらをご参照ください。↓
まず、同じような株価でずっと上下を繰り返す、いわゆるボックス相場では何が起こるでしょう?
当然、上がった時に買い、下がった時に売ってしまっているので、損失が出てしまいますね。
このことは巷で言われる「減価」として捉えることができます。
次に、リーマンショックのように長期間、株価が下がり続けた場合はどうなるでしょうか。
この場合は、下がるたびにポジションを売却していきますので、自動的に下落を抑制する方向に働いてくれます。(もちろん、同額のS&P500よりは大きく下落するのですが、3倍の下落率にはならないという意味です。)
最後に、長期的に上昇した場合はどうなるか。
この場合は、上がるたびに次々と買い増ししていくことになるため、リターンは3倍以上になります。
以前に、1988年1月4日〜2020年1月3日のS&P500の値動きを3倍にして最終的なリターン差を検証したところ、
その差は36倍に開くことが分かりました。
これも同じ記事に記載した内容です↓
これらは全て順張り投資の効果として捉えることができますね。
5.順張り投資の是非
このような順張り投資というのは、
結局、良いのか、悪いのか?
というのが気になるところかもしれません。
単純に、
上がった時に買い、下がった時に売る
と聞くと、損失が出そうな気がしますね。
むしろ、
下がった時に買い、上がった時に売る
という方が上手くいきそうです。
しかしそれは、短期のトレードで利益を出そうとする場合です。
通常、株価というのは短期的には、
一方向のみに動き続けることはなく、
上昇と下落を繰り返します。
そのような相場で利益を出すためには、当然、
下がった時に買い、上がった時に売る
という行動が求められます。
そう考えれば、
レバレッジETFは短期のトレードに適していない
ということが分かりやすくなります。
十分に分散されたS&P500のような指数は、
短期的には上下を繰り返し、
長期的には上昇する
ということが共通理解となっています。
短期的なボックス相場で運用することを避け、
長期的な上昇の波に乗り続ける
それがレバレッジETFの仕組みを最大限に活かす方法だと、私は思います。
6.まとめ
今回は、過去の株価の推移ではなく、
実際のレバレッジETFの仕組みを考えることで、
改めて、その長所や短所が見えたのではないかと思います。
この記事が
レバレッジETFと適切に向き合ったり、
自身の取っているリスクを冷静に評価したり、
そういったことの助けになれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。