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エッセイ 「リレー」

やさしいってなんだろうな。

自分の家族や親しい人にやさしくできても
知らない人にやさしくするのはなかなかハードルが高いのでは
ないだろうか。
そんなことを思ったある日の通勤電車。
乗っている人達は知らない人。
毎日同じ人と乗り合わせても、顔も覚えない、名前だって
もちろん知らない。
ある朝、駅のホーム、白い杖をついた人が床をつつきながら歩いている。
「ちょっともっと左に寄らないと危ないよ、落ちちゃうよ」
心のなかでつぶやく。でも”声”にならない。
私の隣の人も同じように頼りなげに床をつつき歩く彼女をみている。
他にも気付いているひといるみたい。でも誰も”声”は出さない。

そこに差し掛かったおじいさん、彼女の左ひじを引き、
「危ないよ」
そう、それ、私が言いたかった言葉。

おじいさんが彼女に「電車乗りますか?乗りますね」
彼女が答える「はい。ありがとうございます」
おじいさんは彼女の肘にそっと手を携えふたりは電車にのる。      あいにく空いている席はない。優先席にはじっと携帯を眺めている面々。
彼女は入口近くに立ち、銀色のポールをしっかりつかむ。

おじいさんが次の駅で降りてしばらくするとその目の見えない彼女は入口で急にしゃがみこむ。

「どうしたんだろう、調子悪いのかな・・」

だれも彼女に”声”をかけない。座っている人も相変わらずうつむいている。
あのやさしいおじいさんはもう降りてしまった。
座っている人、だれか彼女に「どうぞ」って言わないのだろうか・・。
「私たちだってコロナでいま大変なの」そんな言葉が返ってきそうだ。

「大丈夫ですか?具合悪いんですか?」
やっと私の口から”声”が出た。
そこからは、あれあれ・・スルスルっと・・。
「どなたか、あの席を譲ってくれませんか?」
さっきより少し大きな声が出た。

「あっじゃここ」
お兄さんが立ち上がって席を空ける。私よりずっと若いお兄さん。

「座れるみたいですよ」
 彼女に声をかける。さっきのおじいさんみたいに彼女の肘をつかんで席を誘導する。
「ちょっとめまいがして・・。すみません。この席はシートの端ですか?」彼女が聞く。
「そうです。端の席です」私が答える。
 「ありがとうございます・・」
と彼女がほっとした表情をみせる。
そうか・・自分が座った場所、聞かなきゃわかんないよね・・。

自分が降りるまでは近くにいよう。

ガタッと電車が大きく揺れる。私が降りる駅に停まる前はいつもこうだ。
「じゃあお気をつけて」
座る彼女に”声”をかける。

次はだれかお願いしますよ・・・。

そんなふうに思いながら、電車を降りる。
やさしいリレーをするには、ほんの少し勇気がいるかもしれない。
でもその後、ちょっと自分にもやさしくなれる気がする。

               



#やさしさにふれて

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