悪夢の映画館 #夢日記
2024/9/22
僕にとって、怖い夢というのはみんなと少し違っている。
恐ろしい化け物に襲われる夢や、ホラゲーのような残酷な夢といういわゆる悪夢というものもたまに見てしまうのだけど、それよりも怖い夢がある。
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映画館の暗闇の中、僕は大好きなアニメ映画を見ている。館内は満員で、大人から子供までいろんな年齢層が押し寄せている。僕は左に3人の家族連れと、右に2人の親子に挟まれた席に座っている。左隣には小学生低学年くらいの男の子、右隣にはアラサーくらいの女性が座っている。
映画は順調に進んでいく。主人公が大都会を自由気ままに飛行するシーンは爽快で、僕まで宙に浮いているような感覚になってくる。見たこともないデザインの戦闘機を煽るように飛ぶシーンは、ドラゴンボールの世界に入り込んだようだ。
物語は進み、メタバースの仮想世界にシーンは切り替わる。主人公の思考が具現化され、一面ホワイトの世界に情報という名の物や建物が飛び交っている。主人公の顔がアップされ、見開いたその眼球のなかに物語の回想シーンが映る。
その瞬間だった。館内のいたるところからスマホの光が点灯し出したと思ったら、そのシーンを待っていたかのように写真を撮り始める。興奮を抑えきれない様子の若者が友人に普通の会話のトーンでしゃべり出したかと思ったら、館内の人々が堰を切ったかのようにしゃべり出し、話し声であふれだした。容赦なく焚かれるフラッシュ。休日のショッピングモールのように溢れかえる話し声。映画の音や主人公の声など、もはや聞こえなかった。
僕があまりに突然の出来事に唖然としていると、前の方の席に座っていた中年男性が怒鳴り声をあげた。その内容は聞き取れないが、どうやら周囲のあまりのマナー違反な行動に憤慨し、怒鳴り声をあげたようだ。周囲は一瞬静まり返り、その後またしゃべり声で館内は満たされた。
怒鳴り声をあげたおじさんは奇異な目を向けられながら、館内をズカズカと出ていった。変な人もいるもんだね、と周りの人々はケラケラ笑っている。すると突然映画の画面がブラックアウトし、館内の明かりが点灯した。映画館の管理人らしき男性が入ってきたと思ったら、マイクを持ってたった今発生した人々の蛮行に対して説教を始めた。最初こそ管理人らしき人の話を聞いていた人々も、それが説教だと察した瞬間にぞろぞろと退出していくではないか。
動揺のあまり石のように固まって椅子に鎮座していたその時、左隣に座っていた男の子の帽子が僕の頭に乗っかってきた。それとほぼ同時に頭を軽く殴られるような感触が来た。どうやら帽子を取り上げるために伸ばした手が
僕の頭に直撃したらしい。僕はとっさに帽子をつかみ、帽子を奪われないように抵抗した。その手の持ち主を目でたどると、その男の子の隣に座っていた姉らしき少女だった。年は中学生といったところだ。僕は唖然とし手の力が緩み、その隙に帽子は奪い取られてしまった。
どうやら穏便には済まないらしい。相手は僕が帽子をその男の子から取り上げたと思い込んでいるらしいし、僕の話を聞く気はまったくないらしい。厄介なのは、その2人の子供の母親が躍起になっていることだ。この親にしてこの子あり。帽子を奪い取った少女は、僕の頭を軽く殴打したことなどもとから気にもしていない様子で、僕をゴミでも見るかのように睨みつけている。
僕は突然頭に帽子を乗せられたと思った瞬間に頭を殴られ、もはや訳も分からぬまま厄介事の渦中に引きずり込まれたようなもので、嘘でも謝罪を述べれば穏便に済みそうなのに、悔しさのあまり僕まで躍起になってその母親に文句を言ってしまった。その一部始終を見ていた斜め前の恰幅のいい屈強な男性が、運よく僕の見方をしてくれた。その母親が如何に倫理に反した行いと主張をしているかを理路整然と述べ、ついにそのキチガイママに謝罪を述べさせたのだ。その斜め前の男に対して。
僕は騒ぎを立ててしまった罪悪感から、右隣りの親子連れや前に座っているひとたちに対して軽く謝罪を述べる。すると、「そうやって自分は悪くないといいたいわけ?悪いのはあんたでしょ!!!」と、母親は割って入ってくる。
右隣の家族連れも前の客たちも呆れ顔である。左隣の男の子はさっきからずっと泣きそうな顔をして縮こまっている。
僕の母親の声が聞こえる。起きなさい。起きなさい。
ふっと目を開けると、そこはまだ映画館だった。どういう訳か母親がわざわざ起こしに来てくれたらしい。周りにはほとんど客は残っておらず、僕も急いで帰り支度をする。まだはっきりとしない意識のなか、逃げるように映画館のロビーまで歩いてきた。そのとき、ロビーのソファに高校の親友らしき人物がいることに気付いた。僕は、先ほどまでの理不尽な出来事を誰かに話したくて仕方がなくなっていた。嬉々として友人らしき人物の元へ駆け寄ると、それは全くの別人だった。僕は、突然無理やり背負わされた理不尽な憤りに行き場を失ったまま、ショッピングモールの喧騒の中に足早に消えていった。
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”怖い”という感情は、僕にとって、理解の範疇を超えた出来事に遭遇したときに抱く感情でもある。明らかに倫理に反した行動を目の当たりにしたとき、その理不尽さを僕以外の人たちも感じているとは限らない。もし、その場において僕が少数派だったとき、僕はどんな感情を抱くのだろうか。