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新たな時を刻む |原美術館 ARCでのタイム設定ワークショップレポート
「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」というコンセプトに基づき、デジタルカウンターを使った作品で知られる現代美術家・宮島達男が、東日本大震災の犠牲者の鎮魂と震災の記憶の継承を願い、東北に生きる人々、そして東北に想いを寄せる人々と共につくりあげる「時の海 - 東北」プロジェクト。
「9〜1」とカウントする3,000個のLEDガジェットが巨大な空間に設置される想定の作品は、3,000人の人々がワークショップやウェブから参加し、LEDの数字がカウントするスピードをそれぞれが希望する秒数に設定することでつくり上げられていきます。現在、各地でワークショップを重ねながら参加者と出会い、2027年の作品完成を目標に活動を展開しています。
現在、参加者は1,516人となりました(2022年10月10日時点)。
本記事では、今年9月23日、24日に原美術館ARCで開催したタイム設定ワークショップの様子を、「時の海 - 東北」プロジェクトにインターンシップで関わっている大学生・西塚笑子がレポートします。
執筆:西塚笑子(女子美術大学 3年)
編集:嘉原妙(「時の海 - 東北」プロジェクトディレクター)
撮影:木暮伸也
■原美術館ARCで「タイム設定」ワークショップを開催した理由
原美術館ARCには、2021年1月で閉館した東京・品川の原美術館で常設展示されていた宮島の作品『時の連鎖』が移設され、現在も継続展示されています。同館との宮島の関係は深く、作品『Sea of Time』(1988年)を初めて発表したのも同館でした。今回の「時の海 - 東北」プロジェクトのタイム設定ワークショップは、そんな宮島にとってもアーティスト人生の思い出深い美術館での開催となりました。
■新たな出会い、想いをつなぐ。今年2回目の対面でのワークショップ
今回は、9月23日に「美術を学ぶ学生のためのバスツアー」(主催:原美術館ARC、助成:一般財団法人MRAハウス)のプログラムの一環として、翌9月24日には、午前午後の2回「タイム設定ワークショップ」(主催:「時の海 - 東北」プロジェクト実行委員会、原美術館ARC)を開催し、総勢93名の方にご参加いただきました。
ここからは、2日間に渡って開催した原美術館ARCでのタイム設定ワークショップの様子をフォトレポートとしてお届けします。
実は、開催日の少し前に発生した台風がだんだんと接近するなかでの開催でした。当日の朝も、時折雨脚が強まったり弱まったりを繰り返す不安定なお天気のなかで、準備がスタートしました。
まだまだ不安定な状況が続くため、新型コロナウイルス感染症対策なども含め、準備や進行の確認をしっかり行いました。
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お天気は心配でしたが、和気あいあいと準備は進みました。
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■「美術を学ぶ学生のためのバスツアー」
ワークショップ1日目、9月23日は、「美術を学ぶ学生のためのバスツアー」のプログラムとしてタイム設定ワークショップを開催。ツアーバスは、新宿駅から出発し、高校生から大学生まで総勢30名の参加でした。なんとなかには、山形から参加してくれた学生も!
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美術館入口にて青野館長によるオープニングトークが行われました。
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美術館から見える山並みの景色もとても美しいです。
■ワークショップ1日目スタート!
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アーティストの想いを語っています。
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最近制作した作品『Painting of Change』についても解説がありました。
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■何秒にしよう。じっくり考えるタイム設定の時間。
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ワークシートに、それぞれ希望する秒数とエピソードを書き始めます。
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■学生たちとの交流
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それぞれが決めたタイム設定 に対する想いを宮島が聴いていきます。
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■最後は全員で記念撮影
1日目は台風の影響もあり少し心配な1日のスタートでしたが、学生のみなさんが到着後には雨も止み、なんだかお天気も歓迎しているようでした。東日本大震災当時、過ごした場所も、年齢も一人ひとり異なります。参加した経緯もさまざまでしたが、私も美大で学ぶ学生の一人として、同世代のみなさんのたくさんの想いや思い出が込められた秒数を受け取りながら、震災当時の自分の経験や命についていろいろなことを振り返りました。そして、改めて「時の海 - 東北」プロジェクトは、現在と過去、そして未来を紡いでいるプロジェクトなんだと感じました。
この日、とても印象的だったのが、美術を学ぶ学生のみなさんが、「時の海 - 東北」プロジェクトの作品に携われることへの喜びや宮島の作品に興味を持ち、熱心に宮島と対話されている姿でした。きっとこれからの学生生活や作品制作にとって、いろいろな刺激を受けられたのではないかと思います。ワークショップを終え、お帰りになるみなさんが乗るバスを見送りながら、私もがんばろう!と気持ちを新たにしました。
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■ワークショップ2日目
9月24日ワークショップは、天候にも恵まれ秋晴れの暖かい1日でした。この日は、午前と午後の2部制で総勢63名のご参加でした。ご家族やご友人、美術館に来館されワークショップのことを知った当日参加者など、多くの方に参加していただきました。新たなつながりや、出会いが生まれた2日目の様子をレポートします。
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参加者のみなさんも熱心に耳を傾けてくださいました。
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参加した理由やタイム設定した数字 についての想いなどをご記入いただきます。
■参加者一人ひとりとの対話の時間
ワークショップでは、参加者一人ひとりと対話しタイム設定を通してさまざまな想いに耳を傾けます。そして決められた設定の秒数とその想いを大切に受け取ります。
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タイム設定ワークショップでは、年齢を問わずご参加いただけます。
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家族同士で、お互いの決めたタイムを共有するのも素敵な時間です。
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■最後に参加者のみなさんと記念撮影
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2日目もたくさんの方々にご参加いただきました! みなさま、ありがとうございました!!
(※集合写真は、撮影時のみマスクを外しています)
日本の現代美術を牽引し、宮島とも縁の深い原美術館ARCで開催した今回のワークショップ。たくさんの新しい出会いがありました。前回の直島のワークショップを知り参加してくださった方、東北に縁のある方や震災当時、東北で暮らしていた方など、本当にたくさんの方から、震災の経験や東北への想いを伺うことができました。
「時の海 - 東北」プロジェクトタイム設定ワークショップを通して、参加者の大切な記憶が、作品に熱い想いとして加わっていくのを体感する時間でした。
■できることを探しながら、東北に関わり続ける
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実は私も前回の直島のワークショップに参加した一人です。
私は大切な人に関わる数字にしました。私自身、何秒にしようかと考えている時に、遠くに暮らすあの人のこと、もう会うことができないあの人の顔が思い浮かび、たくさんの思い出やこれまで一緒に過ごした時間を思い出しながら設定しました。それは、記憶のなかで、大切なあの人に会いに行くような、探しに行くような感覚でした。それは時に、少し辛さも伴うものです。でも、自分の想いを込めてタイムを決める時間は、楽しかったり、たくさん笑ったりした日々を思い出す時間でもありました。
「時の海 - 東北」の作品が完成した時、自分が設定したガジェットを、そしてまた同じように他の多くの人が設定したガジェットを見て、私はきっといろいろなことを思い出すでしょう。私自身、東北ともつながりが多いです。震災当時のことは、今でもとてもよく覚えています。学生の自分にできることはまだわずかですが、そのなかでできることを探し、これからも東北に関わる活動に取り組んでいきたいと改めて感じました。
「時の海-東北」プロジェクトでは、震災の記憶と経験と思いを紡いでいく場を育む、こうしたワークショップを全国各地で取り組んでいきます。ぜひ、またどこかの会場で、新しい出会いやさまざまな想いに触れる時間を過ごせたらと思います。
(text by 西塚笑子|女子美術大学 3年)
【デモンストレーション展示「時の海 - 東北」は11/9まで開催中!】
現在、原美術館ARCでは、11月9日(水)まで「時の海 - 東北」のデモンストレーション展示を開催しています。また同館では『雲をつかむ:原美術館/原六郎コレクション|第2期(秋冬季)』が開催中です。少しずつ紅葉もはじまり、過ごしやすい季節。ぜひ、お越しください。
【第3弾「タイム設定ワークショップ in 別府」開催!】
次回のワークショップの開催が決定しました!
第3弾ワークショップ開催地は、大分県別府市です。2022年11月13日(日)に、開催される『ベップ・アート・マンス2022』のプログラムのひとつとして、タイム設定ワークショップを開催します。
大分県は、NPO法人BEPPU PROJECTに招聘いただき、2006年に別府市で『Counter Voice in the Earth』の滞在制作・発表や、国東市成仏地区には住民のみなさんとワークショップを通して制作した『Hundred Life Houses』が恒久設置されている、宮島達男に縁のある場所での開催です。
みなさまのご参加をお待ちしています!
※タイム設定は、お一人様につき 1 回のみの参加です。過去、本プロジェクトのタイム設定を行われた方はご参加いただけません。
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