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D.S.(Short Story)

私という人間は、ほんとうにしょうもない。
自分から危険だと分かっている人に手を出して、案の定、溺れる。

好きかどうかなんて、まだ分からない。
ただ、連絡があるとうれしい。会いに来てくれるとうれしい。
明日もおいでと言ってくれたら、うれしい。
誰かとつながっていることが、うれしい。
それだけ。

経験を重ねたって、何にもうまくならない。
人と長期的な関係を築くのが苦手。
初めに距離を詰めすぎる。
詰めすぎるから、飽きられる。

あ、この人、私のことそんなに好きじゃないな。と、
この前なんとなく気づいてしまった。
不必要な感覚ばかりが研ぎ澄まされていく。

鈍感でいたい。と思う。
自分の感情にも、他人の感情にも。
そしたら、傷つかないで済むのに。

考えすぎるところが私の悪いところだ。
何も考えずに突き進めたらいい。

この前、スイちゃんがLINEをくれた。
あれから、たまに電話で話す。
あの時よりも、関係性はいいような気がする。
私は、幾分か素直に話せるようになった。

スイちゃんは、相変わらず思わせぶりだ。
この後に及んで、「幸ちゃんとは波長が合うからなあ」なんてことを平気で言ってくる。

私は、相変わらずスイちゃんが好きだ。
結婚するならスイちゃんだ。といまだに思っている。

今は、「スイちゃん、私と結婚する?」なんて軽口を叩ける。
スイちゃんは、笑う。
「それもいいかもなあ」なんて、思ってもないことを口にする。
うそだと分かっているけれど、それでも私はうれしくなる。

楽譜の記号にダル・セーニョという記号がある。
D.S.まで演奏したら、指定された小節まで戻って、同じ部分を演奏しなければならない。

私の恋愛は、終わりが記されていない楽譜みたいだ。
ある一定の場所に、D.S.の記号があって、
同じところをずっと彷徨っているような気がする。

鈍感でいたい。と思う。
他人の感情にも、自分の感情にも。

私は、多分あの人のことがそんなに好きじゃない。
この前気づいてしまった。
きっと、これは執着だ。
だって、スイちゃんに感じたみたいな、誰かの幸せを無条件に願うような、そんな気持ちには到底ならない。

終わりはどこだろう。
ああ、スイちゃん。スイちゃんがよかったなあ。
でも、私はスイちゃんの幸せを願う。それが愛だと思うから。


2021/7/3


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