【魔戒ノ花】第1話~第4話
第1話「化石」
相変わらず時系列を把握しないまま、ふわっとした感じで見始めてしまう。どこから見たって面白いので別によいのだ。冴島雷牙、たしか鋼牙の息子だっけか。ほかの冴島の男たちに比べて随分物腰柔らかに思えるのは、やはり母方の影響なのだろうか。
絵本風の昔話から始まり、ドラマの舞台は現代である。博物館の夜警をしている警備員が、展示室を巡回している。カメラはその様子を、ガッと口を大きく開いている肉食恐竜の化石ごしに映し出している。監視カメラのようなアングルでもあり、まるで警備員がその牙に食われるかのようでもあり。
謎の人物が石板に呪符と短剣を突き立てたことにより、そこに封じられていたホラーたちが一斉に解き放たれていく。祓うべきホラーの邪気を使って、さらに大きな災厄を封じ込める技はもしかしてテッパンなのか? つい先日も同じようにして巨大なゲートが封じられていたように思ったが……。
放たれたホラーは依り代を求める。運悪く、警備員はホラーたちが自由になる瞬間に居合わせてしまった。人を驚かせるのが大好きな水と魚のホラー、アズダブ。欠点は飽きっぽいところで、散々驚かせた後は小魚のファンネルを大量にまとわりつかせ、一気にお食事タイムに入ってしまうのであった。
雷牙もまた、黄金の鎧に連なる者である。その実力はもちろん折り紙付きだ。軽口を叩きながら少女とアズダブとの間に割り込むと、コートの裾をはためかせながらいきなり全力キックを一閃! きちっきちっと拳をさばき繰り出していく様子も流麗。テクニカルな足さばきに見とれてしまうな……。
逃げるアズダブに大跳躍で先回りし、微笑を崩さぬまましかとその顔を見据える雷牙。余裕だ! ついに魔獣の本性を現したアズダブに対し、雷牙も鎧を召喚する。青く澄んだ瞳はあどけなさも感じさせるが、ゆっくりと顎を引いて睨みを利かせれば、その凛々しさが際立つ。
足を前に投げ出すようにして一歩ずつ近づいてくる黄金騎士、その爪先や小手には明るい炎が燃え上がっては消える。かかとから着地するような歩き方は見ようによっては少しきざで、アズダブの繰り出す攻撃をものともしない気軽さがあるのだが(これはこれでとても好き)、とうとう真正面にたどり着いた騎士の足はがっしりと地面を踏みしめていて力強い。敵の攻撃を肩でいなして下腕で払い、掌で吹き飛ばす寸刻みの動き! 剣によるとどめの一撃を繰り出した後の残心も、ガタイが良いだけに堂々たるお姿。格好いい~!!
魔戒剣では封じられないアズダブの欠片を、自らの掌に取り込むことで封印した少女・マユリ。元老院から派遣された魔道具だと自己紹介する彼女は、棺のような箱の中から悪夢と共に目覚めた。敷き詰められているのはマットレスというよりは緩衝材のように見える。体中に巻き付いた白い細布は、まるで包帯を巻かれたミイラのようだ。彼女もまた石板のように、古の眠りから覚めた者なのだろうか。
元老院との連絡係を担っていると思しき小さな使い魔さん、着ぶくれたお洋服が妖精みたいなサイズ感で大変かわいい。マユリといいこの連絡係さんといい、お人形のようなかわいい子がたくさん出てきて眼福。
第2話「害虫」
魔道具マ号ユリ型、通称マユリ。白の管轄からやってきたという青年騎士クロウは、さも当然のようにその名称を口にする。エイリスを封じたアディの石板はもともとクロウの管轄にあったというし、いざというときの再封印手順としてマユリの存在についても教えられていたのだろうか。
マユリはエイリスの種が潜むホラーを見分け、また魔戒剣で封じることのできないホラーをその身体に封じることができる。彼女曰く、器なのだそうだ。エイリスそのものを封印したことは無いが、「石板にいたホラーの邪気を集めることで、エイリスの封印が可能になる」という。つまり、失われた石板の代わりに自らの身を使おうということだろうか。アディの石板に9体のホラーを封じたように、マユリの体内に9体のホラーの欠片を収める。それがすべて果たされたとき、マ号ユリ型魔道具はエイリスを封印するための入れ物となるのだろう。
冒頭の女性が子猫のふりをしたホラーに身体を乗っ取られたように、そもそも人間はホラーを体内に入れて正気でいることなどできない。その時点で命は失われ、肉体はホラーの意のままとなる。ゆえに欠片とはいえホラーを手のひらに取り込んで封じているマユリは、やはりただの少女であるとは言い難い。
それでも雷牙は「ホラー狩りに女の子を連れていくのはなあ」と渋り、ゴンザも「危のうございます!」と全力で同意するのであった。見た目のまま、彼らはマユリを一人の女の子として扱っている。世にも聞こえた黄金騎士が外見で物事を判断してよいのか、と一瞬思いそうにもなる。が、むしろ名称やカテゴリだけで判断しているクロウの方が表面的な部分しか見ておらず、マ号ユリ型の奥底にあるマユリとしての人格をしっかり捉えているのは雷牙たちの方なのかもしれない、とも思う。エンディングで魔法衣のミニドレスを身につけ、部屋の姿見に全身を映して眺めている姿は確かに魔道具というよりはひとりの女の子だ。前話の夢の様子を見るに、どうやら何か訳アリのようでもあるし……。
おっかなびっくりというか、あからさまに不審そうな目をしていたゴンザであるが、素性が割れてしまえば百パーセントのおもてなしモードに突入である。よくできた執事! スープやオムレツにパンのバスケットを添えた朝ごはんが何とも美味しそう。豪華すぎず質素過ぎず、丁度良いボリューム感。
怪訝な顔のマユリは「これを食べるのか?」とゴンザに尋ねていたが、この台詞はどちらの意味だろう。「朝食というのは目の前の料理を食べる行為のことを指すのか?」なのか、「ホラーを封印する魔道具の自分に人間の料理を食べろと言うのか?」なのか。
番犬所を訪れた雷牙に、美しい女性の姿をした神官が託宣を告げる。白いお召しと被り物は、雷牙の白いコートと同色だ。
司令通りエクスタを追う雷牙の前に現れたのは、鴉の濡れ羽色のコートを纏うクロウである。さきにエクスタと交戦してその逃げ足の速さを知っていた彼は、手裏剣のようなものを投げつけて敵の居場所を察知できるようにする。忍者なのか? 自分が助太刀した相手が黄金騎士だと気が付くと、すぐに丁寧すぎるほどに頭を下げていたが、その口調にはどことなく慇懃無礼の四文字がちらつく。雷牙自身は全く気にしていないようだが……。
ごみ袋や自動販売機など様々なものに擬態するエクスタが、最後に変化したのはショベルカーである。巨大車両の機動力を生かし、いくつもの棘を発射しながら迫りくるエクスタ。対する雷牙は鎧を召喚すると、背中の突起をアンカーとして左右の壁に突き立て、文字通りのワイヤーアクションでひと跳びに空中へ。そのまま逆落としの要領で、落下しながら真っすぐに剣先を叩き込む! 一手ずつ型を披露するような素面アクションも最高によいが、鎧でのダイナミックな動きもまたよいものだなあ。
第3話「温室」
花は自然が生み出した最高の芸術作品である、と芸術家のエリナは言う。死をテーマにした自らの作品を彩るため、彼女は温室で色とりどりの花を栽培している。自然の産物であるはずの花の命を、管理しコントロールしているという矛盾。生を操る術を持つ彼女が、同じく自然の産物である死をも思いのままにしたいと願うのは、ある種当然の帰結であったのかもしれない。
展示会場に呼び出した男を剪定ばさみで刺し殺し、その裸体を花で飾りつけたエリナ。完成した作品は死体のくせに生々しくグロテスクだ。エリナも作品の良し悪しとは別に、自らがその仕事をやり遂げたという達成感でひどく興奮しているように見える。
その後、サキュバスと一体化したエリナは、今度はファンの女性を温室におびき出し、芸術作品に変えてしまう。女性はまるで魔法にかかったようにその身体をマネキンに変え、眼窩などから鮮やかな花を咲きほこらせる。作品第1号に比べると完成度は段違いだ。ホラーの性能を手に入れたことで、殺しはよりスマートになり、生み出される作品も洗練された。エリナにとってはいいことづくめである。
そして三人目の花器として目を付けられたのが、当てもなく街を歩き回っていたマユリであった。確かに器とは言いましたけれども、そういう意味じゃあないんだよ!
鎖でマユリの両手を拘束し、サキュバスは新しい玩具のように彼女を品評する。曰く、「まるで無だ」「死を恐れないということは、生きている実感もないはず。まるでモノと一緒だわ」。怖がりもせず淡々とついてきてされるがままになっているマユリのことを、知ってか知らずかサキュバスはモノ扱いする。
だが、「彼女は生きている」と雷牙は反駁する。初めて出会ったときから、雷牙はその姿勢を一度も揺るがせない。「この世に生まれて今を生きている。生と死を、お前よりも重くその心に刻んでいる」。そして、生きているがゆえに、マユリは魔道具ではなく人間である。「人間を守るのが、俺の使命だ」。
ホラーを倒し人々を守る魔戒騎士にとって、死は甘美な癒しにはなりえない。死と美を結び付けて高みを目指そうとするサキュバス=エリナを、雷牙は明確に否定する。「花は自分のことを美しいなどと考えていやしない」、花々はただ一生懸命に生きようとしているだけであり、「生きようとするもの、すべての命こそ美しいんだ」。雷牙が頑なにマユリを人間扱いする理由が、少しわかったような気がする。誰が彼女を魔道具と呼ぼうと、マユリは雷牙の前で生きて呼吸をしている。マユリを動かすまるで命らしきものを、雷牙は見たままに命として尊重している。
雷牙の蹴りを紙一重で避けたり、雷牙の腕が痺れるほどの一撃を入れたり、サキュバスはなかなかの強敵だ。だがアウェーの環境も何のその、黄金の鎧は危なげなくホラーを封じることに成功する。サキュバスが倒されてただの人間に戻り、あんなに恋焦がれていた死の瞬間を目前にして、エリナは初めて死への恐怖を覚える。見るのとやるのとでは大違い、というか……。
「人間を守る」という雷牙に助け出されたマユリは、「私は人間なのか?」と疑問を口にする。「当たり前だ」とよどみなく答える雷牙。ニコニコ人当たりが良いように見えて、実は結構頑固な一面もありそうだなあ。
エリナが散らした花びらが、マユリの頭ちょこんと乗っかっている。無表情なマユリと鮮やかな花びらの対比に、雷牙は思わず笑いだす。「いや、失礼。かわいいなって思ってね」。命の美しさとはまた別の、マユリ個人に対する親しみ。こういうことをさらっと言えてしまうのが雷牙のイマドキっぽさか。
今回のEDは生け花編。ゴンザがちょっと目を離したすきに乱入し、勝手にユリの花を突き立てていくマユリかわいや……。
第4話「映画」
古い洋画風の特殊OPで始まる第4話。気合入ってる~!
古びたミニシアターで映画技師をやっているハリマは、無類のホラー映画好きである。オーナーの目が行き届かないのをいいことに貴重なホラー映画のフィルムを大量に買い集め、夜な夜な上映しているようだ。ポスターを貼ったり玄関前を掃除したり、甲斐甲斐しく我が城を守っているハリマだが、てんで理解のないオーナーは無慈悲にもシアターの閉館を宣言する。ハリマが白手袋でフィルムを扱っている映写室に、スナック菓子をぼりぼり食べながらのんびり入ってくるオーナーの様子が、いかにも映画に興味なんてないと言わんばかりだ。
そんなオーナーは当然ジョージ・ロメロの『ゾンビ』も見たことがなく、急に映画の世界に閉じ込められても全く対処法が分からない。その点、後からやってきたマニア氏は見るからに嬉しそうに角材を振り上げ、ゾンビ達の頭部に渾身の一撃を食らわせていく。映画には「お約束」が付き物であり、そのルールさえわかっていれば何も恐れることは無い(無論、「油断したら死ぬ」もルールの一つであるが……)。
映画の世界に巻き込まれた雷牙とザルバももちろんホラー映画のことなど知らないので、ハリマがいくら気合を入れて名画オマージュの世界を作り上げようとも、しらけた顔で否定するだけだ。それだけだとまるでホラー映画をくさすような善悪の対比になってしまうが、被害者の癖に一番楽しそうなマニア氏のおかげでうまいことバランスが取れているように感じる。我々の業界ではご褒美ですってか! さすがに最後の方はもうこりごりという感じであったが。
自分の愛するホラー映画を貶されたという怒り、自分の城が無くなってしまうという焦燥感に、ホラー・イルギシンはぴったり寄り添う。マユリに映画フィルムの仕組みを教える姿は、あたかも本当に映画好きのハリマが無表情のマユリにやきもきしているかのようだ。
生前、いつかホラー映画にも日の目が当たると呟いていたハリマ。ホラーと化して映画フィルムの中へ飛び込んだ後でも、ホラー映画による賞レースへの出馬や、ホラー作品の持つ高尚さについて切々と訴えかけようとする。が、歯牙にもかけない雷牙たちの前であふれ出した本音はずばり「映画の価値は人がどれだけ無惨に殺されるか!」、カンヌやベルリンに招かれるような気取った映画よりも、ジャンクなホラー映画の方が「百倍、いや一億倍おもしろい!」。マニア氏はスマホの情報を頼りにやっとあの上映館へたどり着き、ハリマのお手製看板を見て狂喜している様子であった。おそらくシネコンでは絶対にかからないようなニッチな作品、あるいはエログロをふんだんに盛り込んだ、観客を選ぶような作品。そういう作品こそ、本来ハリマが愛してやまないものだったのかもしれない。
ならばハリマはマニア氏を映画の世界になど引きずり込むべきではなかった。マニア氏のあれほど見たがっていた作品を最後まできっちり上映し、その後で握手を求めに行くのが正しいやり方であった。小さな映写室に閉じこもらず、外の世界へ同志を求めに行くことこそ、城を失うハリマがこの先生きていくために必要なアクションだったはずだ。
だが、今の彼はもうイルギシンに身体を明け渡した身である。ハリマの遺志を汲んでいるように見えて、ホラーはやはり人間を捕食することだけを至上目的としている。人間の強く暗い願いを汚すように利用する彼らは、やはり正しき魔戒騎士によって倒されるべき存在なのだなあと思う。
EDはお絵描き編。本編中では雷牙がゴンザの絵を描いていたが(そして絵心はないようだが;「絵心は誰に似たのか」というちょっとした一言が嬉しくなってしまう)、今度はゴンザがマユリの絵を、マユリがゴンザの絵を描こうとしている。生け花に引き続き、マユリがゴンザの行動を真似することで、少しずつ人間らしいあれこれを学習しているようにも見えてくる。エイリスを封じるためのホラーを集める、という自らの任務には全く関係のないところで、こんな風に好奇心を出して活動しているマユリを見るとほっこりするなあ。だから雷牙に人間って言われてしまうのだ。