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【魔戒ノ花】第5話~第8話


第5話「星図」

 星を愛するシリアルキラーとホラー・ステラスがガッチャーンコ! 今までは好みの得物を殺して星にしてあげるだけだったが、ホラーとなってからはさらにその新星を舌と胃袋で味わうことができるようになったのであった。触ったり匂いを嗅いだりしたいほど星好きな彼にとっては願ったりかなったりであろう。
 対するは雷牙とマユリ、そして正式に雷牙の助手を務めることになったクロウである。星好きらしく空を飛ぶことのできるホラーには、同じく飛行の機能を有しているクロウがベストマッチ。とはいえ、一度訓練で成功しただけの能力を顔色一つ変えずにいきなり実践投入するあたり、クロウ氏、相当肝が据わっている。忍者の度胸すごい。


第6話「風鈴」

 風鈴を媒介に分身を現し、人々を食らうホラー。ホラーに取りつかれた熟練の風鈴職人は、雷牙にとって忘れられない存在であった。幼いころ、工房に迷い込んだ雷牙は、手作りの風鈴を作らせてもらっただけでなく、受け継がれてきた職人の心についても教えてもらった。職人たちの心は一つ一つのガラスに吹き込まれ、それをそよがせる風が声となってその思いを響かせる。
 夜の神社の境内で、雷牙と職人は立ち回る。頭を覆うガラスのドームがぱりんと砕けてしまったようなホラーのデザインがどこか物悲しい。雷牙も鎧を召喚して応戦するが、幾度となく挟み込まれる二人の素顔のカットインは、あたかも雷牙たちがホラーと騎士ではなくただの人間同士として向かい合っているかのようにも見える。力を受け継いできた者と、受け継がせるのに失敗した者。だが失敗したと思っているのは男の過剰な思い込みである。彼は息子以外の弟子にも、きちんと職人の心をバトンパスしていたのだ。
 雷牙の母から受け継がれた浴衣を着て、ひとり路地裏をそぞろ歩きするマユリのかわいさ。このまま写真集が出せそう。


第7話「神話」

 体内にたまったホラーの邪気を払うことができるという「英霊の塔」。雷牙は幼いころ、ここへ父母やゴンザと共によく来ていたのだという。塔の中には、かつてガロの称号を戴いていた者たちの魂が収められている様子だ。
 父母と離別したまま成長した雷牙は、青年となり、自らもガロの称号を継がんと英霊たちに申し出る。だが、当初その申し出はすげなく却下される。別の世界でガロの称号を持ち、戦っている者がいるというのがその理由だ。それはすなわち、称号を息子に譲る前にどこかへ消えてしまった彼の父親のことである。
 息子である雷牙には父親の消息は分からないが、英霊ともなると異世界の声を聞くことも可能であるらしい。結果、雷牙の希望を容れた父からの譲位により、雷牙は晴れてガロの称号を受けることが出来た。この場合、異世界にいるはずの父親はただのハガネになってしまうのだろうか? 世界が違えばうまいこと称号も並び立ったりするのだろうか。
 ともあれ雷牙は黄金の鎧と共に、父母がまだ生きているという確信を手に入れることが出来た。その希望があるからこそ、彼はいつも機嫌のよい表情で過ごしていられるのかもしれない。
 そして今回、久々に英霊の塔を訪れた雷牙は、彼を追って屋敷までやってきたホラー・ザジとの戦いの中で、新たな力・轟天を手にする。轟天を授けてくれた英霊の声は優しく力強く、「強くなれ」と雷牙を励ます。黄金の鎧をまとった英霊の姿に、雷牙は一瞬父の面影を見るが、それは英霊自身によって否定される(つまり、父は変わらず生存しているということかも)。父に似ているが父ではない、しかし雷牙の事をずっと見守ってくれている存在。ご先祖様にしては親愛の込められたまなざしは、英霊がガロの系譜に連なる者の中でも雷牙に近しい距離にある者であることをうかがわせる。例えば、父の父とか。
 父から騎士としての本格的な手ほどきを受けることは叶わなかった雷牙だが、黄金の道を外れずにここまで歩んでくることが出来た。ホラー百体を倒した実績と、恐らく父も貰ったであろう激励の言葉がその証拠だ。ザジとの戦いでへとへとに疲れ果てながらも、どこか嬉しそうな雷牙。見ているこちらまで、なんだか胸が温かくなってくるようだ。

 ザジとの三連戦はなかなか変則的である。初戦は屋敷の訓練場。牙狼剣はザジの張った封印の外へはじき出されてしまった。徒手空拳の雷牙は拳を繰り出しながらザジと揉みあい、最終的には訓練に使っているアイテムでとどめを刺す。普段は天井からぶら下がっている、巨大な両刃斧のような仕掛け。床に突き立っているその刃へ、ザジの顔を容赦なくおしつけるというがむしゃらなプレイング。在るものを上手く使ったというか、結構必死な感じがする。
 二戦目は食堂からザジの術で転移し、森の中。樹の幹を皮ごと削り取るようなザジの爪と大剣が雷牙を襲う。が、剣と鞘の二刀流で敵の攻撃を裁きつつ、斬り飛ばした太い枝をザジの眼孔にねじりこむというパワープレイによって隙を作り、大きく胴体を斬り上げてフィニッシュ。騎士らしい剣術主体の戦い方であった。
 そして最後の三戦目、舞台は瓦礫の漂う宇宙空間である。鎧を召喚して戦う雷牙はここで轟天を手に入れ、斬馬刀で身の丈より大きいビルをいくつも撫で切りにしながら、巨大化したザジへと突進していく。CGならではのぬるっとした動きがまたよし。
 どの戦場もそれぞれに見ごたえがあって牙狼らしく、一粒で三度おいしい感じ。英霊ガロは、ザジとの戦いが雷牙にとって己の闇と戦う試練に等しいと述べていた。闇に向き合うことが、過去に向き合うことでもあるのなら、確かにこの戦いたちは連綿と連なる「ガロらしさ」のおさらいであるともいえよう。

 エンディングでの様子を見るとだいぶ冴島家に馴染んでいる感じはするが、それはそれ・これはこれか。


第8話「家族」

 苦しみも哀しみも、その人間が生きて来た証であると雷牙は言う。「それを奪う権利など、お前たちには無い!」……両親の不在という逆境を糧に、ゴンザという「家族」に愛されて育ってきた雷牙だからこその台詞であろう。マイナスの感情を己の礎とし、プラスの力に転化することは、そうやすやすとできるものではない。現に冒頭のサラリーマンは、今にも首をつって自らの「証」をこの世から消し去ろうとしていたではないか。
 とはいえ、辛苦の処理の仕方はやはりその持ち主にゆだねられるべきだ。被害者たちのようにそれを乱暴に奪われてしまうのは、たとえ最終的な結果が一致していたとはいえ、そこに至る手段がよろしくない。

 デリィータスはおびき寄せた人間を空鍋に閉じ込めて食ってしまうが、その前段として具だくさんの鍋を提示し、獲物を安心させようとする。大人一人がゆうに浸かれるほど大きな鍋には肉などの他に丸ごとのニンジンや長ネギが放り込まれていて、幻覚の精度が高いんだか甘いんだかちょっと面白い。人間の魂を丸ごと踊り食いするホラーには、下ごしらえの文化は無いのかもしれない。
 平屋の中での戦闘シーンは長い牙狼剣を振り回すのに向いていなさそうだが、閉じられた襖の向こうから聞こえる乱戦の音、そして突き破られた襖紙の穴からちらりと見える戦いの様子が、見えないからこそ逆に想像をかきたてる。おそらくはさぞや人間離れしたバトルが繰り広げられていたのであろう。左右の襖の間に雷牙が陣取り、飛び出してくるデリィータス一家を斬り捨てていくシーンも、かちっとしたフォーマットの中で舞うように動く剣さばきが目を引いた。コメント有識者の「剣の軌跡がGAROの文字を描いている」という指摘を読んで見直したら確かにその通りで、思わず感嘆してしまった。完成度高けえなオイ!
「おじいちゃん」と素手で勝負するシーンは言わずもがな。剣以外の戦い方をしばしば披露して来た雷牙の面目躍如である。パンチを首のひねりで避けてニヤッとする雷牙の表情が良き。

 ラスト、団欒する家族の様子を眺めた雷牙は「この窓の明かりが好きだな」と微笑む。彼にとっての「明かり」はゴンザであり、今は(エンディングでたくさんの蝋燭を灯している)マユリもそこに含まれる。雷牙は自分の生い立ちを引け目になど思っていないのだな、ひがんだり寂しがったりする暇もないほどゴンザに大切にされてきたのだな、となんだかほっとしてしまった。

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