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【魔戒ノ花】第13~16話


第13話「凶獣」

 クロウたち一派の騎士が行う、魔戒剣の浄化の儀式。それは、空井戸の底に封じた魔獣バルグの身体に剣を突き刺すことである。だが、たまたま雷牙たちが見学に訪れたタイミングで、運悪く封印は破れ、バルグは井戸を飛び出してしまう。
 魔戒剣の邪気を体内にため込むバルグと、ホラーの石板の欠片を体内に封じるマユリ。シンパシーを感じるのも無理はない。逃げたバルグを倒さねばならないと聞いた時、彼女はわずかに表情を揺らす。そして、皆が剣を向けるばかりのバルグに対し、マユリは静かにいたわりの声をかける。バルグもその声に応えるように、瀕死の身体でマユリを庇って一緒に逃げようとするのである。
 一般的な騎士にとっては、マ号ユリ型も魔獣バルグも使い捨ての道具でしかない。愛用の武器ならまだともかく、使い捨ての道具にわざわざ話しかけたりコミュニケーションを取ろうとする者はいない。実際、空井戸の中のバルグは覗き込むことさえ禁じられていた。触れ合うどころか目と目も合わせることは叶わず、これでは交流のしようもない。だからこそ情も移らず、使いつぶすことができるのだろうが……。
 だが、バルグに話しかけるマユリの姿を見たクロウは、彼女が紛れもなく人間=心の通じる者であると確信し、バルグの背から落ちた彼女を命がけで救う。わざわざ鎧を解いた腕を必死で伸ばし、それが駄目ならすべての鎧を解除して体中で庇うようにして地面へ墜落。鎧を着たままではマユリの脆い肉体を抱きつぶしてしまうという判断だろうか(まさか鎧姿では触れられないというわけではあるまい)。
 マユリはバルグを獣のまま死なせてやりたいと望むが、暴走したバルグはもはや魔物になり果ててしまった。マユリがそうしたように雷牙もバルグへ声をかけるが、バルグの耳に彼の言葉は入らない。已む無く黄金騎士は速やかな剣技でバルグの命を刈る。マユリを一貫して人間扱いしてきた雷牙がバルグも生き物として扱おうとするのは納得であるが、その思いが叶わなければすぐさま切り替えて脅威を排除できるのが騎士としての割り切りである。
 バルグを苦しませたくないあまり、マユリは自分の「力」を使ってバルグを体内に封じようとさえする。彼女の命を削るその行為は恐らく対エイジスの切り札なのだろうが、今回は騎士たちの制止により不発に終わった。ふと、マユリは自分の死にざまについてどう考えているのかと気になる。自らを道具と呼んではばからない彼女ではあるが、雷牙たちから人間としての扱いをされ続けることにより、いつか「人間として死にたい」と思ってしまうような日もくるのだろうか。


第14話「変身」

 マ号ユリ型の「所有者」である四道法師が、マユリの由来を語る。曰く、ホラーに取りつかれた妊娠中の魔戒法師が産み落とした忘れ形見がマユリなのだそうだ。我が子を守りたいという母の強い念を一身に浴びた彼女は、「籠」にホラーを封じる不思議な力を持って生まれた。生まれてすぐに殺されそうになった彼女を保護したのが四道法師だ。以来、マユリはホラー退治の「道具」となり、仕事のない時には元老院の地下で眠りについている。数十年前の出来事、と法師は言っていたので、眠りについている時には年を取らないのか、あるいは道具としていつまでも使い続けられるよう不老の処置がされているのか。
 眠るマユリを眺めて「綺麗になった」と嬉しそうに呟く四道法師。所有者というよりは、まるで親代わりのように見える。マ号ユリ型を心持たぬ魔道具に仕立て上げたのは確かに彼なのだろうが、それが彼女の命を救うための唯一の手立てだったのだとすれば、一概に責めるわけにもいかない。「ホラーに憑依された女の子ども」ではなく、あくまでも「魔道具」である、という建前のもとでしか、マユリは生きながらえることが出来なかったのだから。
 先日辛そうなマユリが食べていたマユリせんべい(……)が、籠の力を制御するためのものであることも明らかに。注射や外科的処置ではなく、あくまでもおやつの経口摂取によって体内の気の流れ的なものをコントロールしようとしているのが、四道法師の優しさに思えてくる。マユリは小さいころからこれを食べるように教えられてきたのだろうなあ。おせんべいタイプなら日持ちもするし、子どもでも持ち運んで食べやすいだろうしなあ……。


第15話「紅茶」

 総集編+αのお話。若者らしく前髪を気にしてコッソリ直すクロウが見られるのは「紅茶」だけ!(?)
 家にやってきたインタビュアーをもてなし、取材撮影に応じるゴンザのお話。魔戒騎士やマユリの事を知り、もっとエピソードを引き出そうとするインタビュアーは、当然情報収集特化型ホラーの変身した姿なのであった。
 基本的に画面はホラー(の持っているビデオカメラ)の主観で進む。後半でばたばた屋敷に駆け戻ってきた雷牙たちに包囲され、攻撃を受けてよろよろと壁の鏡の方へ移動するホラーの視点。鏡の中では雷牙が鎧を召喚しているのが見える。そのまま力が抜けたようにビデオカメラは床に置かれ、撮影者の居ないレンズの中で、ただのホラーに戻ったインタビュアーは黄金騎士に刺し貫かれる。戦闘後にビデオカメラを拾い上げた雷牙やマユリたちは、再生ボタンを探してみたりと興味津々の様子である。
 エンディングでの映像演出、円形の枠内で進行するマユリとゴンザの日常が最終的に雷牙の瞳に吸い込まれていくような一連は、まるで雷牙の普段見ている世界をそのまま映しているようだなあと思っていた。今回ビデオカメラごしに視聴者が目撃したのは、来訪者であるぽっと出のホラーがよそ行きのゴンザを映しているという、物語の外部とも内部ともつかない微妙な立ち位置からの映像だ。ホラーが消えた後も、テーブルにビデオを置くことにより顔の上の方が見切れてしまっている雷牙たちの姿は、なんだか自撮りによるオフショットやSNS用即席番宣動画みたいな趣がある。ビデオカメラを落としてしまって強制的に録画終了する終わり方といい、そんなギャップが何とも面白い。


第16話「絶叫」

 今回のホラーはマジシャンのような恰好の美女・キエラ。彼女が開発した絶叫マシーンは試乗した取引先の人間を恐怖と興奮の渦に巻き込んだ。中でもマシーンに取り憑かれてしまった一人の男はとうとう夜中にこっそり忍び込み、マシーンの秘密を暴こうとする。が、楽しむようなキエラに誘われて再びマシーンに乗り込み、彼は気付く。魔法のようなこのマシーンにはタネも仕掛けもなく、ただただ自分は命の危機に瀕しているのだと――。
 ザルバたちが解説して曰く、彼女は結界の中に獲物を誘い込むタイプのホラーである。チープなドクロのついた絶叫マシーンは、恐らく本物のキエラが生きていた時には見た目通りの素朴なマシーンだったのだろうが、ホラーの特性とうまくマッチしたことによって恐怖のびっくり箱へと変化してしまったわけだ。戦いのさなか雷牙が見たのは、見たことも無い荒野でクレーンに吊られ、一歩踏み込むたびにぐらぐらと揺れる棺のような箱である。不安定な足場から空中に飛び上がり、最後は上空から一気に剣を突き立てることでホラー・プロファンデスを滅した黄金騎士だったが、彼女が消えると同時にマシーンも消え去り、牙狼ははるか地底へと落下していく。素体ホラーが一面に群がるその縦穴は、魔界へと続く一本道だ。
 幸い異変に気付いたクロウが鎧をまとって飛び込み、その飛翔能力で間一髪黄金騎士を救い上げる。目上の存在である黄金騎士を連れて、さてどうやって地上へ戻るのかと思っていたら、腕を掴むでも腰を抱えるでももちろんお姫様抱っこでもなく、うつぶせ状態の吼狼に牙狼が仁王立ちするというまさかの人間サーフィン状態で飛んでいくからたまげてしまった。とはいえ、これなら黄金騎士は自由に剣を使えるし、吼狼も上半身をフリーにしたまま飛行に専念できるので、合理的と言えば合理的か。光るネットの波ならぬ黒い素体ホラーの壁を炎の螺旋で切り裂きながら、二人の魔戒騎士は地上へ帰還する。

 屋敷でゾンビものの海外小説を読んでいるゴンザ(JOHN A ROMEO『THE LIVING DEAD』、監督と脚本を混ぜてざっくりした感じ。第4話「映画」が思い起こされる)は、人間が恐怖に快楽を感じる理由をマユリに問われて言葉に詰まる。
 人は安全な恐怖を求める。それは、生きていることを実感したいからだと雷牙は説明する。安全かつ恐ろしいとは矛盾しているようだが(まるで二つの顔を持つプロファンデスのようだ)、命が絶対的に保障されていると分かっていてもやはり怖いものは怖いのだし、そこであたかも九死に一生を得るような体験をすれば「生きててよかった」と安堵してしまうわけだ。サウナで限界まで暑さを我慢した後、一気に冷水に浸かって「ととのう」のと同じような感じだろうか。落差が大きければ大きいほど、得られる快感もまた大きくなる。
 マユリも遊園地で絶叫マシーンにトライするが、特に面白くはなかったとのこと。確かにホラーとの戦闘を目の当たりにしている毎日の方がよっぽどスリリングである。マユリがマシーンに乗りたがった理由について、「生きてるってことを実感したかったんじゃないかな」と雷牙は推測しているが、これまでのEDの様子を見ていると単純な好奇心という可能性も捨てきれない。そして金網の外からじっと園内を眺めてマユリを待つ雷牙とクロウの保護者感……。一緒に入園して中で待っていればいいのに、どうしても平和な日常から一本線を引きたがるのは魔戒騎士の悪い癖である。
 エンディングではまたもホラー小説を読むゴンザと、うっかり肩に手を置いて大仰に驚かれるマユリ。毛布をかぶってゴンザを脅かそうとするマユリが愛らしい。いったいどこでそんな茶目っ気を身につけたのかしら!

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