うそつきヒーロー(『仮面ライダーX』第7話、『仮面ライダーウィザード』第14~15話)
先日、『仮面ライダーX』第7話「恐怖の天才人間計画!」を見た。
天才人間を作り出さんと研究を続ける大文字博士をGODに引き込むため、助手の「瀬山」として博士の研究所へもぐりこんだ鳥人イカルス。被験者の少年少女たちに暗示をかけては墜落死させ、博士のメンタルを揺さぶるのがそのやり口である。計画通り、「瀬山」は大文字家に受け入れられ、博士は次第に自責の念に駆られていく。
大文字博士の愛娘・冬子は、瀬山の正体を知らないまま彼に好意を抱いていた。自分も父の被験者の一人であったために、冬子もまたイカルスに殺されかかる。だが、間一髪で助けられた彼女は「瀬山がイカルスに襲われるかもしれない」と心配し、駆けだしてしまう。
瀬山と対峙するXライダーは、近づいてくる冬子の声に焦り、「早く姿を変えろ」と已む無く攻撃を加える。流石に人間の姿のままでは分が悪いと踏んだ瀬山は、ようやくイカルスの姿となり、Xライダーとの決戦に臨む。
戦いはXライダーの勝利に終わり、イカルスの散った後には天使をかたどったペンダントが落ちている。冬子が瀬山に送ったものだ。ペンダントを拾い上げた冬子に、神敬介は「瀬山は遠い所へ旅立った」と声をかける。瀬山君は君に「よろしく」って、と。
この話について考えていた時、ふと思い出したのが『ウィザード』の第14話「帰ってきた映画監督」ならびに第15話「ラストシーンの後は」であった。
神敬介が冬子に「瀬山は旅立った」と嘘をついたように、晴人もゲストヒロイン・千鶴に「悟史は旅立った」と嘘をつく。実際には彼女の思い人・悟史はとうにファントム・リザードマンになっており、その記憶を利用してゲートである千鶴から新たなファントムを生み出そうとしていただけなのだ。
リザードマンは千鶴の心の支えを「大学時代に作った自主製作映画のフィルム」だと見込み、そのフィルムを破壊することで彼女を絶望させようとする。だが、晴人は千鶴の本当の希望を見抜く。それはフィルムそのものではなく、悟史と一緒に映画を作った時間の記憶である。悟史の存在そのものが、千鶴の心の支えだったのだ。
ゆえに彼女を絶望させないため、晴人は千鶴に優しい嘘をつかざるを得なかった。悟史はもう死んでいて、先ほどまでそこにいた偽悟史はたった今自分が倒しました――なんて、口が裂けても言えやしない。
千鶴も冬子も、自分の愛した男の結末に薄々感づいているようなフシがある。それでも、最後に手に入れた遺留品(天使のペンダントと映画のフィルム)をよりどころに、彼女たちは素直にヒーローの嘘を受け入れる。それがヒーローの優しさだと、悲しみの中で理解しているからだ。喪失の悲しみはそのワンクッションによって緩和され、彼女たちを絶望の淵から踏みとどまらせる。ヒーローによる見え透いた嘘は、決してただの誤魔化しではない。そこに込められているのは、「貴女が彼を思うように、自分も貴女の命を大切に思っているのです」というメッセージだ。
正義の味方は悪を憎む。「嘘つきは泥棒の始まり」と親が子どもに言い聞かすように、「嘘」は基本的には「悪」の部類の行為である。人を騙すことは裁かれるべき罪だ。清廉潔白な英雄に、嘘をつくなど似合わない。
だが、その禁を破っても、神敬介と操真晴人は嘘をつく。
この『ウィザード』15話を初めて見たのは何年か前のことだが、話の展開に少しびっくりしたのを覚えている。「キャラクターの死亡を隠すため、そのキャラの恋人に嘘をつく」というシチュエーションはままあるものだが、まさかそれを「仮面ライダー」がやってみせるとは。「ちびっこのヒーローが嘘を美化してよいのか!?」とぐるぐる考えてしまって、自分の中でとても印象深い一話となった。
とはいえ、日本には古来より「嘘も方便」という良い言葉がある。
悪を討つことだけが、仮面ライダーのお仕事なのではない。カイゾーグも魔法使いも、大切な人を失ったときの、世界から取り残されたような寂しさは身に染みて知っている。か弱きものの涙に寄り添い、その心を守ることもまた、ヒーローに課せられた大切な役目なのである。
冬子と千鶴のために、ライダーたちは心の底から、心を込めて嘘をついた。それは、イカルスとリザードマンをその手で討った彼らにしかつけない嘘なのだ。
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