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私が知的財産業界を目指したときのこと

もう10年以上前になりますが、資格試験を足がかりにして、IT業界から知財業界への転身を試みたことがありました。結果として1級知的財産管理技能士 (1級知財技能士) を取得しました。この1級知財技能士というのが結構レアで、腹八分さんよりリクエストを頂きましたので、1級知財技能士取得含め知財業務への転身を目指した頃のことを書いてみようと思います。


ことのきっかけ

大学を卒業後、私は業務SEになりました。業務内容はシステムの受託開発がメインでした。ただ、入社する前の段階で『3年は頑張り、その後独立したい』と考えていました。実際に入社から3年後に転職して、さらに技術に磨こうと努力していましたが、結婚して子どもができると、チャレンジングな独立を目指すのも難しくなってしまいました。またその頃、仕事では設計やコーディングのような技術的なことだけでなく、リーディングも徐々に求められる状況になり、SEの仕事を十分に楽しめなくなっていました。そこで、SEというキャリアを活かしたキャリアチェンジを模索して、知財業界へ興味がわきました。

知財といえば、弁理士・特許技術者・知的財産部などが連想されます。当時の私の感覚では、弁理士は①訴訟代理もこなす理系の弁護士、②独立も可能、③SE経験が活きる、そんなイメージでした。(特許系の) 弁理士業務では技術への理解力を必要としますが、私もIT技術にある程度の自信がありましたし、相性良く感じていました。何よりも、私の目に弁理士はかっこよく、知財業界はキラキラしていました。日本が知的財産立国に向けて動いていて、知財業界が注目されていた時代でした。それらが理由になり、割と軽い気持ちで弁理士を目指してみようと考えました。このときはまだ知的財産管理技能士制度がありませんでした。

弁理士試験

弁理士になるには弁理士試験に合格するか、特許庁で経験を積む必要があります (他にもルートはありますが割愛します)。特許庁に採用されるのも至難の業ですし、そもそもSEとして働きならがらチャレンジしたかったので、弁理士試験に挑むことにしました。しかし、弁理士試験は本当は大変難しい法律系国家資格です。そして他の法律系国家資格の試験とは違った特色があります。

  • 法律系資格なのに出願者の約7割が理工系

  • 選択科目免除資格を見るに、出願者の3割ほどは修士・博士、または技術士

  • 出願者の出身大学がすごいことになっている
    ※2022年度の出願者数は1位東大、2位京大、3位早大、4位阪大、5位理科大

  • 最終合格者の出身大学も当然すごいことになっている
    ※2022年度の最終合格者数は1位東大、2位京大、3位東工大、4位阪大、5位東北大

  • なのに競争試験であり、合格率が低い。
    ※2022年度の合格率は6.1%。

弁理士試験の統計情報は当時から特許庁HPに掲載されていましたが、同じように受験者層がとてつもなく高学歴でした。私も理工系の端くれではあったものの、平凡な大学の学部卒の私なので、この受験者のハイレベルさには躊躇しました。しかしながら、私の出身大学にも合格者がいるので『なんとかなるかも』との思いでした。志に学歴は関係ないですね。

弁理士をはじめ、士業は業務独占資格である場合が多く、経験を積んでからその経験をもとにしてノリと勢いで合格するようなことは困難です。また、弁理士試験を受ける方々には知財業務経験がない方も多いです。そのため、高難度ではあるものの、スタートラインは皆一緒と考えれば幾分気が楽です (もっとも他の受験生と私とでは自頭も学力も勉強スキルも大きく異なりますが)。なお、知財部員や特許事務所勤務の方であれば、関連する経験が積めるので、知識ゼロの場合よりかは飲み込みが早い可能性はあります。

選択科目免除狙いの情報処理技術者試験

そして、弁理士試験で重要なのは選択科目免除です。選択科目免除の詳細は特許庁HPを参照頂きたいですが、私はSEでしたので情報処理技術者試験による免除を狙いました。ソフトウェア開発技術者 (SW試験) は選択免除を得られる試験の一つで、私はFE試験・AD試験に合格済、SW試験も受験経験があったので、自然ななり行きとしてSW試験の合格を目指しました。なお、SW試験に合格した暁には会社から報奨金 (7万円) が出るため、1粒で2度おいしい試験でした。

マイルストーンとしての知的財産検定

弁理士試験の短期合格が難しいことはわかっていたし、また業務未経験の立場でしたので、30歳までの合格を目標にがんばってみることにしました。一方で、短期目標としては知的財産検定を活用しました。現在でいうところの知的財産管理技能検定になります。知的財産検定は弁理士受験生が能力測定、マイルストーン、勉強の成果を得るなどの目的で受けることがあり、私も同じように、まずは知的財産検定2級合格を当面の目標としました。

学歴を補う箔付けが必要(?)

皮算用でお恥ずかしい限りですが、『もし仮に弁理士になったとしても平凡私大の学部卒なので、それを少しでもカバーする箔付けが必要』と考えました。そこで考えたのが、技術士 (情報工学部門) と甲種危険物取扱者の2資格を取ることでした。

技術士は合格するのも難しいし、そもそも経験を満たしていないので、とりあえずは1次試験合格を目指すことにしました。また、私は化学系の学科を卒業していたので、ささやかではありますが、化学系学部生の定番資格である甲種危険物取扱者にも挑戦しようと考えました。本来の目標はあくまでも弁理士試験合格、技術士1次試験や危険物はノリで受かれば良し、というスタンスでした。

以上は2005年後半頃の話です。

知財学習をかじった頃 (知財2級合格まで)

2006年

早速2006年4月にSW試験を受験し、無事合格しました。そして会社から報奨金7万円を頂きました。一方で、2006年5月に甲種危険物取扱者を受験しましたのですが、こちらは不合格でした。はい、ノリと勢いで受験しました。わりと惜しかったのをうっすら覚えていますが、甲種危険物取扱者は1度切りの挑戦でやめてしまいました。パワーをかけるところが違うし、本業ではないし、SW試験にも受かったし、箔付けならば情報処理技術者高度試験のほうが業務経験との相乗効果を期待できるからです。

独学で知財の勉強を開始したのもこの頃になります。書店で売っている弁理士試験テキストを使用して勉強していました。2006年秋には技術士1次試験を受けて合格しましたが、初めて挑戦した知的財産検定2級は不合格 (準2級合格) に終わりました。弁理士試験教材を使用し、自分なりに勉強していたつもりでしたので、結果にはなかなかのショックを受けました。知的財産検定1級や弁理士試験にステップアップしたくても、能力が伴っていない状況でした。知財の道を中々遠くに感じました。

残念ながら準2級合格

2007年

年が明けて2007年4月には情報処理技術者高度試験のテクニカルエンジニア (情報セキュリティ) (SV試験) を受験して不合格、さらに7月の知的財産検定2級も再度不合格 (準2級合格) になりました。

残念ながら準2級合格 (既視感)

独学でゆるく勉強していたのもありますが、この時点でかなり焦りました。ここまで知財に関する学習は完全独学、参考書も書店で購入できるものだけを使用していました。このあたりで少し方向転換をして、弁理士試験の参考書として予備校販売のテキスト (書店では販売のないもの) を購入して勉強し始めました。完全独学からの方針転換ですが、ようやく勉強に取り掛かった感じです。その甲斐あってか、2007年11月の知的財産検定2級は合格しました。

やっと2級合格 (3度目の正直)

知財学習に力を入れた頃 (弁理士試験挑戦・1級知財技能士合格期)

2008年

知的財産検定2級も合格したので、2008年にようやく弁理士試験に申し込みました。受験する前から合格する気はまったくしなかったですが、記念受験的に申し込みました。また2008年3月には最後の知的財産検定 (これを最後に知的財産管理技能検定への移行が予定されていた) があり、このタイミングで知的財産検定1級 (特許) にも挑戦しました。当時、知的財産検定1級 (特許) といえば『弁理士も落ちることがあるほどに難しい試験』と言われていました (本当のところは定かではありません)。結果、知的財産検定1級は不合格でしたが、なんと準1級にギリギリ合格しました。

準1級合格でしたが、評価Cというギリギリ感

4月にはSV試験を受験して合格し、会社からの報奨金として10万円を頂きました。ありがたい限りです。5月には弁理士試験短答を受験、あっさり不合格となりました。20点台後半という、なかなかの恥ずかしい点数だったかと思います (正確な点数の記憶はありません)。当時の合格ラインは30点台後半もしくは40点近くだったかと思いますので、まったく力が及んでいませんでした。

弁理士試験短答を受けたことがある方はわかると思いますが、1問に5肢あって『誤っているものはいくつあるか』のように正解肢の個数を問う問題が多いです。つまり5肢のうち1肢でも間違えると1問を落とす仕組みです。なので、冷静に考えれば20点代後半であっても、そこそこの理解度といえますが、短答合格レベルではありません。過去問は特許庁HPで見られますので、ご参考ください。なお、短答20点代後半 ≒ 準1級評価Cとするならば、1級知財技能士はさらに上のレベルな気がします。

短答不合格がわかったあと、独学方針を断念、予備校の通信教育 (論文のみ) を受講しました。会社からの報奨金10万円を受講料に当てました。短答挑戦レベルにもまったく達していないのに、論文対策の通信教育だけを受講するのは愚の骨頂ですが、同時に短答対策にもこれまで以上に取り組みました。

10月にテクニカルエンジニア (ネットワーク) (NW試験) を受け、こちらは不合格になりました。11月には知的財産検定特例講習を経て、知的財産検定準1級 (特許) から1級知的財産管理技能士 (特許専門業務) への移行を果たしました。当時、知的財産検定からの知的財産管理技能検定への移行措置として、2級/準2級は2級知財技能士に、1級/準1級は1級知財技能士になることができました。現在の資格価値から考えれば大変お得ですね。

特例講習の合否通知
証書の入った立派な筒と、A3サイズの大きな証書

2009年

2008年から2009年にかけては、自分なりに弁理士試験に注力しました。もうすぐで30歳になる頃で『これでだめなら辞めよう』とうっすら考えながら、弁理士試験に申し込みました。4月にエンベデッドシステムスペシャリスト (ES試験) を受けて不合格、5月に弁理士試験短答30点前半で不合格 (正確な点数の記憶はありません)、これを機に弁理士試験の山は高すぎると判断して、いったん弁理士受験生を辞めました。短答の、後5点10点というのがとてつもなく高い山なんです。後5点10点を取るためにあと何年かかるのか、勉強し続ければ最終合格が叶うものなのか、あとどれだけ勉強すればよいのか、それから家族のことや自分の年齢など、その後の人生を考えた上での決断でした。試験直後、弁理士試験から吹っ切れるため、デジタル一眼を買いに行ったことを覚えています (その後カメラにはまりました)。

その後

弁理士受験生をやめた後も、知財業界を諦めたわけではなく、1級知財技能士を足がかりにした知財転身をぼんやりと考えていました。情報処理技術者高度試験だけは受け続けました。 2010年にはデータベーススペシャリスト (DB試験) とネットワークスペシャリスト (NW試験) に合格し、2011年には業務SEからの転身・転職を考えるようになりました。大きくはIT業界に残るか知財業界へ移るかですが、細かく言えば、

・フリーランスになるか
・社内SEになるか
・セキュリティ業界へ転身するか
・特許技術者になり、もう一度弁理士試験にチャレンジするか
・知財と関わるシステム開発ができないか

です。知財部への転職は、未経験だと厳しそうだったので考えませんでした。結局、セキュリティ業界へ転職し、知財業界を目指した道はここで終わりました。

所感

知財の道を目指す方、弁理士受験生の方は、ここまで読んで間違い無く違和感を感じると思います。その違和感の答えは、この所感にあるかもしれません。

知財を目指して良かった点

  • 一定の成果が得られ、勉強した内容が今に活きている
    1級知財技能士という、わかりやすい成果が得られました。それに相応しいかはわかりませんが、業務において特許・著作権あたりの課題やタスクがある場合に、少し調べれば対応できます。また、行政書士試験に独学チャレンジ中で、試験範囲としては行政法と民法があるのですが、行政法は特許法の知識があるとイメージをつきやすく、また民法についても709条などの知っている条文もあり、存分に役に立っています。

  • 法令・規格・ガイドライン・社内規程・契約書などを読むことが苦にならない
    現在の業務に個人情報保護法に関連するものがありますが、そもそも法令の読み方を理解していたので、個人情報保護法を理解するのに人ほど苦労しなかったと思います。法令アレルギーもなく、法令や判例を調べることも苦痛どころか、むしろ楽しいです。法令以外の規格や業界ガイドライン、社内規程、契約書も同様です。

  • 技術者との相乗効果がある
    法務ではなく技術者だからこそ、上2点を兼ね備えることによって得られる視点があります。あきらかに視野が広がります。

  • ビジネス文書の記述力が向上した
    これは弁理士試験論文対策の効果です。今でも『〇〇は〜である。しかし〜。そこで〜。』のような書き方が染み付いています。

  • 多くの副産物が得られた
    1級知財技能士の他に、難易度高めのIT資格を取得できました。知財を目指さなかったら、ここまでIT資格を取っていなかったと思いますし、その後の転身もなかったと思います。

  • 反省 (後述) が今に活かせている
    アラフォーになってから多々資格試験に挑戦していますが、以前の反省を活かせています。

今だからわかる反省点

  • 最初がスロースタート、そもそも勉強時間が少ない
    最初から弁理士短期合格を目指して、全力で勉強すべきでした。人間は忘却するので数年計画はすごく非効率。また、勉強後半期でも多い日で2〜3時間しか勉強していませんでした。さらに土日は勉強せずに基本的に家族と過ごすことを優先していました。当時は自分の勉強量すら把握していませんでした (現在ならばStudyplusなどで勉強時間を把握できるので便利です)。

  • もっとアウトプットすべき、せめて模試を受けるべき
    今ならばAnkiアプリを使って過去問を効率よく周回すると思いますが、当時はそんな便利なツールはなかったです (今は良い時代になりました)。模試は絶対に受けたほうがよいです。模試を受けていないがために、己の実力把握も勉強方針の修正もできていませんでした。

  • 弁理士試験の選択科目免除を得たのであれば、あとは弁理士試験に集中すべき
    弁理士試験の山は高いですので、素直に考えれば、余計なことを考えずに試験勉強に集中したほうがよかったです。

  • そもそも独学は無謀
    独学には事情があります。ここまで書いていませんが、どの試験も私のお小遣いの範囲内でささやかに挑戦しています。家族から見れば私の趣味の範囲内のことです。本気で合格する気ならば、家族の理解を得て、予備校をもっと活用すべきでした。

まとめ

反省点は多々あるものの、弁理士試験に本気で挑みたかったのかというと、そうでもなかったのかもしれません。弁理士試験というのは難関中の難関ですので、何年かけても成果が出ないリスクがあります。そのリスクを恐れている自分もいました。一度しかない人生なので、リスクの向こう側を目指してがんばるも良し、早々に見切りをつけるのも悪くない選択だと思います。

そして、良かった点に書いたように、得られたこともまた多く、過去のチャレンジには満足しています。学校でやらされず、自分でやる勉強は楽しい。成果もあったし良しとします。

さいごに、これから知財業界を目指して弁理士試験や知的財産管理技能検定に取り組む皆様のご健闘を、心よりお祈りしています。

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