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「いい大学」を出て「楽な会社」へ。それってもったいなくない?プロデューサー若新雄純さんから若者たちへのメッセージ

マイナス成長に人口減。「沈みゆく国」日本が再浮上するためには、才能ある若者たちの活躍が欠かせません。でも、就活で人気の有名企業に入ればその才能は活かせるのでしょうか。現代社会を独自の視点で切り取る若新雄純さん(プロデューサー/慶応大学特任准教授)は、別の生き方、働き方を提唱しています。SeaEOプロジェクトの母体となるフィッシャーマン・ジャパン創立メンバーの一人、津田祐樹がインタビューしました。

若新雄純 (写真右)
プロデューサー、株式会社NEWYOUTH 代表取締役、慶應義塾大学大学院特任准教授、福井大学客員准教授
研究分野は人・組織・社会における「創造するコミュニケーション」。現役女子高生がまちづくりに関わる「鯖江市役所JK課」など、日本各地の企業・団体・学校で実験的な政策や新規事業を多数企画。地方創生プロデューサーとして活躍する。テレビ・ラジオ番組でのコメンテーター出演や講演実績も多数。慶應義塾大学大学院修了、修士(政策・メディア)。

津田祐樹 (写真左)
株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング代表取締役社長
宮城・石巻にある鮮魚店の二代目。東日本大震災後、地元水産業の復興をけん引しようと若手漁師らと共に一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンを設立した。現在は販売部門の株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティングの社長を務め、地元産品の海外輸出や海洋環境の保全に取り組んでいる。

目次
大企業のエリート会社員は案外楽な仕事をしている
優秀層の若者たちはマネジメントの仕事を明け渡すべき
目指すは「国境なき医師団」。社会的意義を伝えれば人材は集まる
・1次産業が地球環境を救う?
一流の若手を活かすにはコミュニケーターの存在が不可欠

津田:実は私と若新さんは同じ大学の出身で、長いつき合いになります。こうして対談するのはなんだか不思議な感じもしますが…。今日はよろしくお願いします。

若新:学生時代のように「津田っち」と呼んでいいのかな(笑) こちらこそ、よろしくお願いします。

津田:早速ですが、私たちフィッシャーマン・ジャパンは課題だらけの水産業にチャレンジしてくれる若者を増やそうとSeaEOプロジェクトを立ち上げました。そのためにはまず若者たちの仕事観というか、キャリアに対する意識などを学ぶ必要があると思っています。若新さんは仕事柄、幅広い層の人びと、特に若い人たちと交流する機会が多いと思います。今の若者の就活の状況は若新さんの目にどのように映っていますか。

大企業のエリート会社員は案外楽な仕事をしている

若新:僕がずっと気になっているのは、今の日本は優秀な人材を無駄遣いしているということです。受験競争を勝ち抜いて一流大学に入れた人の多くは、誰もが名前を知っている大企業に就職していきますよね。でも、みんなあまり外では言わないんですけど、何人もの友達や後輩にこっそり教えてもらって分かってきたのは、大企業の仕事って案外楽なんですよ。戦後日本が猛スピードで経済成長できたのは、一部の大企業が儲かる仕組みの構築に成功してきたからです。つまり、既存の大企業はすでにビジネスモデルを確立していて、今必要としているのはそのモデルを崩壊させず、維持できる人材です。その典型例が商社です。大手商社は主だった商品の流通ルートをすでに握っています。だから社員の主な仕事は取引先との良好な関係を維持し、流通の過程でハンコを押すことです。インフラ系企業も同じでしょう。彼らの仕事も給料は高くて安定しているけど、実は難しくない。基本的なインフラはすでに完成していて、それを維持するのが主な仕事だからです。しかも実際に現場で手や体を動かして設備をメンテナンスするのはブルーカラーの人たちで、本社採用のホワイトカラーたちは現場を回って「監督(マネジメント)」するだけです。

津田:でも、取引先との関係づくりや現場監督の仕事も大切では?

若新:もちろん大切ですが、最も優秀な人材でなければ務まらないのか、というのが僕の問題意識です。大きなミスさえしなければ、儲かる仕組みは維持できます。それだけなら、ある意味まじめさと堅実さがあれば務まります。ではなぜそういう仕事に優秀な人材が集まるかと言えば答えはシンプルで、「楽して儲かるから」です。誰だってぬるい仕事で安定して年収1千万円を達成したいじゃないですか。大企業は儲かっているから社員に高い給料を払えます。どうせ高い給料を払うなら、なるべく優秀な人を雇おうとするでしょう。こうして厳しい受験競争を勝ち抜いた人たちが楽な大企業に就職する構図ができてしまいました。「いい大学を出て、いい会社へ」という言葉がありますが、この言葉は少し違っていて、実際には「いい大学を出て、楽な会社へ」になっていると思います。これって、社会全体で言えばとてももったいないことです。日本の社会がせっかくの人材をうまく生かせていない。日本から新しいもの、イノベーションが生まれないのは当然だと思うんです。

優秀層の若者たちは
マネジメントの仕事を明け渡すべき

津田:これまではそういうリソースの配分でうまくいっていたわけですよね。

若新:昔これでうまくいっていたのは、大卒の人が少なかったからです。大学進学率って、戦後のはじめは10%程度でした。ごく一部のエリートが大学まで出て知的労働(ホワイトカラー)のマネジメント層になり、残りの高卒や中卒の人は現場で働くという構造がうまく回っていたのです。でも今は大学進学率が5割を超える時代ですよね。大卒全員に行き渡るほどマネジメントの仕事はありませんから、社会全体が困っている状況です。一流大学の卒業生はいいけれど、偏差値がそれほど高くない非・一流大学を出た人が就職活動で行き場を失うのは当たり前なんです。ではどうすればいいのか。僕の発想は「非・一流大学の卒業生はあきらめて現場に行け」ではありません。既存のマネジメントの仕事はどんどん彼らに譲り、東大をはじめとした旧帝大や早稲田、慶応など一流大学を出た優秀層は社会のもっと難しいところに出ていったらどうですか、というものです。たとえばフィッシャーマン・ジャパンには東大卒の人もいますよね?

東大を卒業後、フィッシャーマン・ジャパンにジョインした香川氏

津田:2021年に加わった香川幹君ですね。

若新:香川君が東大を出たのに大企業に入らないのは、個人のレベルでは間違いなくもったいない。楽な仕事で儲ける道を捨てるのですから。でも、社会的には逆です。構造的に厳しくて、楽に稼ぐのは不可能な水産業の世界に東大生が乗り込んでくることにはとても価値があります。むしろこれこそ東大生が向かうべき道でしょう。フィッシャーマン・ジャパンが始めたSeaEOプロジェクトは、課題が山積みの水産業に優秀な人材を呼び込みたいわけですよね。だったら、いっそのこと強気に「東大卒限定」で採用をかけるのも選択肢です。もちろん東大生のほとんどは関心を持たないと思いますが、東大だって毎年何千人も卒業生がいるわけです。その中の数名は、香川君のように「俺がやってやる」という心意気を見せてくれる人がいるでしょう。

目指すは「国境なき医師団」。
社会的意義を伝えれば人材は集まる

若新:「6次化」という言葉がありますよね。1次産業に加工や販売・サービスといった要素を加えて「6次産業化」を目指すという。僕は正直言ってあの言葉の意味がよく分からないんですよ。むしろ「1次のもの」の価値を徹底的に訴えればいいと思う。たとえば東大の建築学科を出た人の中には、大手ゼネコンなどへ行かずに個人の建築家の事務所に入る人がいますよね。「東大卒なのに初任給が8万円」という世界でも、本当のプレイヤーになりたくてそっちを目指す。楽して稼ぐことよりも、自分で設計図に線を引くことにこだわりを持つ。そういう方向性です。

津田:水産業をはじめとする地方の1次産業が人材を求める時、「大変だけどやりがいはあるよ」という文脈で打ち出すことが多いけれど、逆に「すごく難しいハードゲームを一緒にプレイしない?」という誘い方は魅力的かもしれないですね。

若新めっちゃ難しいし、儲からないけど、世の中にとって大事じゃないですか。優秀な人がここに取り組まなければどうしようもないじゃないですか。そういう打ち出し方ですよね。たとえば、開発途上国や紛争地で活躍する「JICA(国際協力機構)」や「国境なき医師団」に優秀な人材が集まるのはまさにそういうことですから。

津田:JICAや国境なき医師団と比べると、水産業などの1次産業は社会的な価値や仕事の意義を世の中に伝えきれていない側面があると思います。実は私、「魚食の文化を未来に残そう」という打ち出し方には全然魅かれません。極論を言えば「魚を食べなくたって生きていける」と思ってしまいます。ただ、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに食糧危機が起き、食べ物を自国で生産することの重要性にはみんなが気づいたはずです。戦争などの有事が起きれば輸入はストップする。そうなった時に自国の農産物、1次産品がないと食べていけないでしょう。1次産業を守るというのは国防レベルの話だと考えています。

若新:その通りです。「食」というのは僕らの社会の基盤ですよね。「食は医療と同じくらい大事だ」ということをきっちり言ったらいいと思います。

1次産業が地球環境を救う?

津田:水産業では最近「IUU漁業」の問題が指摘されています。IUUとは、①「違法」(Illegal)、②漁獲量を正しく報告しない「無報告」(Unreported)、操業海域の規制に従わない「無規制」(Unregulated)のことです。こうしたIUU漁業による水産物が日本のマーケットに流入しています。水産物を扱う業者も消費者もそれに気がついていない。コストが安く、学校給食などでも扱われてしまっているのが現状です。IUU漁業は国際的にはかなり大きな問題になっていますが、国内ではまだ十分な対策が取れていません。水産業の現場でこの問題に本気になって取り組む人材が必要だと強く思っています。

若新:法規制が絡む話だからそこには法学部を出た学生たちの力が必要ですよね。司法試験をクリアしたような人たちが水産業の現場に来て、さまざまな古い構造や法的な問題を克服していく必要があります。「東大法学部卒」に限定して採用してもいいかもしれない(笑)。

津田:さらに大きな問題も横たわっています。今世界中で心配されていることの一つが地球温暖化ですよね。産業革命の前から比べて平均気温が1.5度も上昇していると言われています。このことと深く関わるのが、海藻が減少する「海の砂漠化」です。地球の表面の7割が海であり、海中に繁茂する海藻たちはCO2の主要な吸収源です。その海藻が日本じゅうの海で減っていて、私たちフィッシャーマン・ジャパンはこれを何とかしようと取り組んでいます。ワカメなどの海藻を増やすことは、一義的には漁場を維持する効果が見込めますが、最終的には地球温暖化を食い止めることにもつながるからです。少し大げさな言い方をすれば、水産業、海洋産業は地球環境を救うポテンシャルを秘めていると考えています。

若新:そうなってくるとまさにJICAや国境なき医師団ですよね。確かに1次産業は効率化しきれない部分があるし、高収益を上げるのは限界がありますが、だからといって見過ごされてはいけない大切な仕事です楽して稼げなくても誰かがやらなきゃいけない。難しい課題が山積み。だから超一流の若者が必要。そういうロジックだと思います。

一流の若手を活かすには
コミュニケーターの存在が不可欠

若新:話は変わるけれど、ちょっと言っておきたいのはいわゆる「モテ理論」についてです。就職先を選ぶ時、やりがいや仕事が楽かどうかだけではなくて、異性にモテそうとか、そういう要素も大きいじゃないですか。その点で言えば、従来は身近な交友関係の中で自分を好きになる人が現れなきゃいけなかったわけです。でも、今の時代はSNSもマッチングアプリも発展しています。そうすると、無難なキャラの人よりも、はっきりとした生き方を提示している人のほうが最終的にはモテます。身近な合コンでは一流企業のエリート会社員がモテるのは変わらないとしても、「一流大学を出たのに水産業へ行くような生き方が魅力的です」という人は世の中に確実にいるでしょう。同じ価値観の人同士が出会いやすくなったのがSNS時代だと思うんですよね。「クラスの異性の何人からモテるか」という話をいつまでも考えているようでは、パラダイムシフトは起きませんけどね(笑)。

 まじめな話に戻ってもう一つだけ投げかけましょう。若くて優秀な人材が1次産業に入ってほしいと思う一方で、そういう人たちを受け入れたりサポートしたりするのは結構大変だぞ、ということです。たとえば水産業の世界にはベテランの漁業者さんとか、水産加工の経営者さんたちがいます。こういう人たちと新しく入ってきた若者たちがうまくパートナーシップを結び、互いに頼れる関係をつくるにはどうしたらいいか。ここで必要とされるのは、考え方が異なる人たちをつなぐ「コミュニケーター」の存在です。石巻の水産業で言えば、フィッシャーマン・ジャパンがまさにその役割を担っていると思います。

津田:フィッシャーマン・ジャパンを設立してから8年以上が経ちましたが、私たちがやってきたことに価値があるとしたら、そういうところかもしれませんね。若新さん、今日はありがとうございました。

若新:こちらこそ、ありがとうございました。


水産業で挑戦してみたい、海の世界に飛び込んでみたい方はいつでも大歓迎です。詳しくはSeaEO PROJECTをチェック。フィッシャーマン・ジャパンでは他にもインターンや漁師学校なども実施しています。ご相談はお気軽に。
https://seaeo.fishermanjapan.com/

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