Kunsthaus Zürich|チューリッヒ美術館 -名画と世界大戦と-
チューリッヒ美術館 (Kunsthaus Zürich) へ行ってきました。ここはスイス最大級の美術館で、今回は2021年にオープンしたばかりの新館を訪れました。
イギリスの建築家 David Chipperfieldにより設計された建物で、ミニマルながら高級感あふれる建築でした。
吹き抜けには巨大なアレクサンダー・カルダーのモビール。まるで船のよう。
展示室内に入ると、見覚えのあるセザンヌの絵があります。
見た瞬間「あれっ?腕伸びてね?」と二度見しました。少女のような少年の表情と画面の構成、湿度を帯びる色彩によって、アンニュイなムードが漂います。すとーんと落ちる腕の奇妙さにも関わらず。
この、なんとも言い切れなさに名画を感じました。
プロヴァンスのサント・ヴィクトワール山を描いた有名な一枚。無口に塗り塗り残された絵画には、セザンヌのマイペースな性格を感じます。一筆一筆が、声にならない独り言のよう。なんだか、友達が少なそうです。(勝手な推測)
でもそういう一人ぽつんと佇む時間が芸術を産み出すのかもしれません。
微妙な構図とモノトーンがシックな、ボナールの絵。女の話を聞かず、鏡に映る空を眺める男の視点。アンニュイだと思います。
ポール・ゴーギャンの「花と偶像のある静物」
とても小さいのですが、記憶に残る一枚でした。ゴーギャンの赤は光っていて、美味しそうな赤色です。
ゴッホです。素晴らしい名画だと思います。
ゴッホというと荒々しいイメージでしたが、一筆一筆のタッチの繊細さに驚きました。生きることの生々しさを追いかける、哀しき狂人の眼差し。
額も素晴らしいです。小麦畑を思わせるよう。
モネの幅4メートルを超える大作。見た瞬間、日本画かな?と思うほどジャポニズムを感じました。琳派の襖絵のよう。
まるで音楽のようなミロの絵画。こどものようなピュアさに、どことなく陰も漂います。パウル・クレーもそうですが、明暗の同居した絵を描く人です。彼らの生きた時代がそうさせたのでしょうか?
アンリ・マティスの「マルゴ」は、彼の義理の娘を描いた作品。
個人的に「きゅうりを持つ婦人像」と呼んでいました。夏らしい色彩と、きゅうりが爽やかな一枚。
近代美術を多く集めるこの美術館ですが、現代美術の有名作もありました。
ゲルハルト・リヒターの「8人の看護学生」
この絵画は、シカゴで起きた看護学生大量殺害事件の新聞記事から描かれたものだそう。漂う死のイメージ。
ドナルド・ジャッドの彫刻。ジャッドの彫刻は渋いモノトーンのイメージを勝手に持っていたのですが、このシリーズにはとても沢山のカラーバリエーションがあるそうです。
調べていたら、ニューヨークのSoHoにある、彼の住宅兼アトリエの写真を見つけました。研ぎ澄まされた空間への感性には息を呑みます。まるで誰もいない森の中の教会か、禅寺のようです。
さて、これで展示の紹介は終わりです。
驚くほどの名作が揃うこの美術館。素晴らしいコレクションであることは疑いありません。しかし、私は少し不思議に思いました。
どうしてこれまでの名作が揃えられたのだろう?と
そこで調べてみると、武器商人であり美術収集家という二つの顔を持つ人物、Emil Georg Bührle (エミール・ゲオルグ・ビュールレ,1890-1956) の存在が浮かび上がってきました。この記事で紹介した近代絵画のほとんどは、彼のコレクションなのです。
彼はドイツに生まれ、大学で哲学と美術史を学んだ後、第一次世界大戦に参加。その後スイスの銀行家の娘と結婚し、チューリッヒへ移ります。そして第二次世界大戦が始まると、兵器販売で財を成し、スイスで最も裕福な実業家となります。
スイスの中立国という立場があったおかげで、彼は交戦国のどちら側にも武器を販売することができたそうです。(スイスの「中立性」という言葉には、実は疑問なところも多いです。)
武器と芸術というのは相反する物だと思っていた私にとって、この事実は大きな驚きでした。
皆さんはどうお考えになりますか?