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真夏のアイシューモ

8月の強烈な暑さを写しとったように
痛くなるほどあざやかな紺碧が目の前に広がる

セルリアンブルーをベースに
プルシャンブルーを薄く混ぜて塗り上げた空

どうぞと差し出されているかのように
両手で簡単にすくえてしまえそうな
立体的でもくもくとした入道雲が一つ浮かぶ


夏休みだったのかしら
休日午前中も早い時間

カラッとした乾いた空気
じっとりと汗が流れるような暑さは
お寝坊しているようだった

父の運転する車に乗せられて
初めて父の職場に行った

何か重要な書類でも忘れ取りに行ったのか
すぐに用事を済ませた父はたばこ屋に寄り
珍しくアイスを買ってくれた

アイス?
これ、わたしの知っているアイスじゃない


初めて見るモノさわるモノ
さっき見た雲をすくい取ったように
フワフワと、ひんやり両手におさまった

小さな口で噛みちぎり雲を頬張る

口の中で一瞬にして溶け切ると
冷たさの後に遅れてやってきた甘さが
しつこくなく、優しく広がって

ふんわり消えていった


きっとあまりの美味しさに
わたしはこの時の空を
鮮明にまで焼きつけたのね


のちに
この不思議なアイスの味は
本当に雲の味だと知ったの


今のわたしを取り巻く人と人との関わりは
まるでこのアイシューモのようだと
感じずにはいられない


SNSで交わすちょっとしたコメントや
車同士で道を譲る際のアイコンタクトや
店員さんのちょっとした気遣いに触れたとき

あの時の雲の甘さがよみがえる

わたしがわたしとして発信した行動に
興味を持って想いを伝え返してくれる

一瞬だけれども
よくは知らないどこかのあなたの優しさが
ふわっと心に響き広がる

全くしつこくない
その甘さはまもなくして
すぅーっと、後腐れなく消えてゆくの


より確実に
時間に追われ生き急ぐ
人間関係の中で

ゆっくり立ち止まり
空を見上げ雲を眺めて
アイスやさしさを味わう機会は
極端に減ってしまったの


流れめぐる時の中で
一瞬にでもすれ違うあなたに
忘れられない味を伝えられたのなら

わたしにも同じ味がよみがえる

あっと言う間に溶け切ってしまう優しさ
だからこそ
鮮明に記憶に留まることもあるのでしょう


儚く消える想いを
味わってもらうことの

何をためらう
必要があるのかしら


ぜひあなたにも知ってもらいたい
真夏に食べるアイシューモ




”ありがとう”




「真夏のアイシューモ」


~END


※アイシューモ
「ほんと、アイシューモみたい。」
モモちゃんも、くもをちぎって、なめながらいいました。
「おいしいよ。おいしいよ。」
ぼうっと、あんずいろにひかっているくもは、あまくって、すこしつめたくって、アイスクリームとシュークリームの、あいのこみたいです。
「ちいさいモモちゃん」より(松谷みよ子作)


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