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あなたには 好きだと 言ってもらったことがない 名前を 呼んでもらったことがない 手を 繋いでもらったことがない 嘘を ついてもらったこともない * 知り合って数ヶ月経っても 何も進まない関係だったから あなたのことを ちゃんとわかっているわと 伝えるために聞いた 「ねぇ、本命がいるんでしょう?」 「あぁ、いるよ」 ごまかすことも慌てることもなく 単なるいつものベッド上の会話でしかなかった 「でも、まちがいなく俺の中でナンバーワンだから」 そう言って
まちがいなく 俺にとってナンバーワンだよ ねぇ、わたし ナンバーワンじゃなくて オンリーワンになりたいの あなただけの わたしになりたい それって 願ってはいけないこと? *** 塾の送迎で 何度か通り過ぎて 気になっていた 小さなテラスのあるカフェレストラン 裏通りの静かな住宅街の中にあり オープンな店内を横目で見ると いつも適度に 笑顔の客で賑わっていた 今日「ランチ」で検索をかけて たまたまあなたに選ばれたお店 「ここ良さそうだよ」 バックモニター
* 「どこか行きたいところ、ある? 」 イヤフォンから届く、くぐもった声 時折、車が通り過ぎるザーッという音が 二人の会話を容赦なく遮った 「えっとね、桜が見たい 」 叶わないってわかってること 意地悪でお願いしてみた 「無理じゃない? まだ咲いていないでしょ」 「そうかな」 そうだよね わかってるわよと微笑んだ でもその微笑みは あなたには届かない 桜の美しく咲く時期がこんなにも短いなんて 気づくこともなかった あなたと一緒にいられる時間が 限られている
立派な榎の木を前にして 生い茂った力強い緑葉の揺れる様を眺めていた それはただ目に映りこんだだけで 見てはいなかったように思う なぜなら このストーリーを打ち込んでいる今、 榎の画がぼやけたレンズを通して見た時のように 薄雲って残痕となり頭の中に転がっているからだ 「昔、この中山道は水はけが悪かったから、そこの板橋のところから見える桜は、散った花びらが水に浮かんだまま流れなくてね。まるで桃色の絨毯のようでそれはそれは綺麗だったよ」 同じ榎を見上げながら もう二度と見られ