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恋愛・人生観 エッセイ

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アバター恋愛や仮想世界を生きて、感じた思いを綴った単独記事集です。
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2021年10月の記事一覧

サキュバスの呪い

ある仮想世界に 姉妹のように仲良く育った娘たちがいた 世界を平和に導いた勇者、その盟友と それぞれ結ばれ 大きな城の城下町で 仲睦まじく暮らしていた 悪に怯える必要のなくなった世界では 人々は活気づき、町は発展し、 争いごととは無縁の”幸せ”に 満ちあふれていたの 爽やかな風が、いつの間にか冷たさを増した頃 まもなく娘の一人が誕生日を迎える 「今宵、うちに遊びに来なさいな。両親がワインを送ってくれたのよ」 城下町から少し離れた村で 娘の両親は大きなブドウ園を営んでい

消した彼女のセーブデータ

「あなた、また脳みそ落っことしてる」 テーブルに置きっぱなしの白い小さなメモ帳を そっと拾い上げて彼女に渡す 「ありがとう」 今日は ”そっと” メモ帳を受け取ってもらえた 窓から爽やな風が吹き込み、リビングを抜けていく 青が美しい晴れやかな天候だったから 家中の窓を開けて風が抜けるようにした 皐月の優しい風が吹く あの日もこんな青空の美しい日だった * キーンと、一機の飛行機が おしりから白い塗料を吹き出して 青の画用紙に不器用な線を 厚く塗り進めていた

「大丈夫」の呪い

「大丈夫」って、 なんて残酷な言葉なのかしら まるで呪いみたいに 一切の疑念や焦りを 見えないようにしてくれるの 作った笑みを浮かべながら 瞳の奥をうかがいながら 寂しさで満たされていく わたしがあなたに伝える言葉は ただひとつ 「大丈夫」 ゆり、つらいことはない? 「大丈夫」(つらいの) ゆり、困っていることはない? 「大丈夫」(どうしたらいいかわからないの) ゆり、悩んでいることはない? 「大丈夫」(苦しくて溺れそうなの) 偽りの優しさなんて いらな

「大丈夫」の魔法

「大丈夫」って、 なんて心安らぐ言葉なのかしら まるで魔法みたいに 一切の不安や心配を 拭い払ってくれるの 頭をなでてもらいながら 瞳をみつめてもらいながら 温かさで満たされていく わたしがあなたに求める言葉は ただひとつ 「大丈夫」 ねぇ、わたしのこと好き? 「大丈夫」(変わらず好きだよ) ねぇ、わたしといて楽しい? 「大丈夫」(まちがいなく楽しいよ) ねぇ、この先もずっと一緒にいられる? 「大丈夫」(ずっと一緒にいるよ) 偽りの言葉なんて いらないの

散りばめられた小花

「愛してる」 ダリアの大輪が咲くように 色あざやかに眩しいほどの笑顔で あなたに真っすぐ届けられる 女じゃない だから 精一杯に小さな小さな花を たくさん咲かせることを 覚えたの わたしにでもできる想いの届け方 「好き」って想いを小さく花開かせては 想い咲いたばかりの柔らかい花びらを 潰さぬように 花軸の部分から もぎり取る 首だけになった小さな小さな想いを そっと散りばめる あなたの足元だったり 扉を開けた先の地面だったり さりげなく通り過ぎる道だったり いつ

一匹のひつじとオオカミたち

若葉色が美しく広がる大きな草原を 「自由に」駆け回るひつじ そんなひつじは一匹もいないの 時間がくれば 飼いならされた牧羊犬に吠えたてられて いつもの場所へと戻される 戻されることにさえ疑問など持たず 同じ毎日を過ごしていく みんなが右に曲がれば 続いて右に曲がる 「右に曲がりたいんだった」 「右に曲がって当然だ」 みんなが左に曲がれば 続いて左に曲がる 「やっぱり左だよね」 「右に曲がるなんてどうかしてる」 あやまって群れからはぐれ一匹さまよえば 牧羊犬に吠

現実<リアル>はゲームより奇なり

「正義は称えられ  悪は成敗される」 勧善懲悪を基本としたゲームの物語は 現実にはあり得ない残酷さの余韻を ときとして、心に残してゆくもの 例えば ◆「タイムループ×伝えられない愛」 自分の意志に関係なく、時空空間を彷徨い 何度も一定時間を繰りかえしてしまうタイムループは 残酷なストーリーの定番 そこに恋愛、家族愛が絡み最高の不幸を創り出す ◆「永遠の呪い×自己犠牲」 大切な人が受けてしまった悪魔からの呪いを 過酷な冒険を経て手に入れた方法で自分自身へと移し 大切

真夏のアイシューモ

8月の強烈な暑さを写しとったように 痛くなるほどあざやかな紺碧が目の前に広がる セルリアンブルーをベースに プルシャンブルーを薄く混ぜて塗り上げた空 どうぞと差し出されているかのように 両手で簡単にすくえてしまえそうな 立体的でもくもくとした入道雲が一つ浮かぶ 夏休みだったのかしら 休日午前中も早い時間 カラッとした乾いた空気 じっとりと汗が流れるような暑さは お寝坊しているようだった 父の運転する車に乗せられて 初めて父の職場に行った 何か重要な書類でも忘れ取り

両手に覇王を宿す女

「あんたの両手、覇王がいるよ」 魔女は驚き叫び出す 手を返して、見やすいようにひらくと 両手首を掴まれて驚いたように マジマジと手相を見られた 先生、 覇王とは三国志でしょうか それとも、 覇王色のことでしょうか(ワンピース) 勇者を目指すわたしにとって 覇王が宿る両手なんて 大変喜ばしいお言葉ですが いったい何なんでしょうかと ポカンとするしかなかった 「覇王線って、最強の手相だよ」 わたしより人生経験豊富そうな 魔女のように美しい占い師さんに 真剣なまなざ