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『憐みの3章』ジャンルはコメディで良いのかな?【映画感想】

!ネタバレには配慮していません!


 『憐みの3章』という映画。全くノーマークだったのだが、某劇団の人の動画でよくわからない映画として紹介されていて興味を持ち、上映期間も残りわずかだったため滑り込みで観てきた。なぜ興味を持ったかというと、監督の前作『哀れなるものたち』がかなり好きだったことに加え、最近アマプラで配信された『ボーはおそれている』がめちゃくちゃ楽しかったからだ。自分はよくわからない、シュールと表現されるような映画が好きなのではないかと予想したのだ。

 この予想は大当たりで、端的に言うと『憐みの3章』は最高に面白かった。題名の通り3章の短編からなる映画で、1章が60分弱くらいあるため全編通して2時間45分とかなり長尺だったが、今までにないくらい全編集中して観れた。なんだかんだ短編なので切り替えポイントが合ったのもよかったのかもしれない。全ての章で、明らかにおかしい状況なのに登場人物たちにはそれが当たり前のこととして受け入れられているのが星新一っぽくて好きだった。

 3章すべてで同じ俳優が出演しているのだが、それぞれで演じている役が異なっているという面白い構成だった。ちょっと劇っぽいイメージなのだろうか。個人的に欧米系の人の顔は見分けがつきにくいので俳優個人の顔をちゃんと確認出来て良かった。

 ここからは章ごとの感想書き散らし


1.R.M.F.の死

 生活のすべてを老人に管理されている男の話。忠実に老人のいうことを守ってきたが、人を車で轢けという指令を受け入れられず、老人から別れを告げられてしまう……というストーリー。老人に見放されてから、教えられたことを1つずつなぞっていくのが本当に見ていられない感じで良かった。自分と同じように老人の言うことを聞いている人間の存在に気づいてからターゲットを轢き殺すまでのスピード感がすごい。この章に限らずだけど、この映画、全員運転が豪快すぎて笑ってしまう。
 誰か他の人が自分の人生を全部決めてくれないかなとふと思うことはあるけど、結局自分でした選択が正しかったと思えた時が一番気持ち良いのでこうはなりたくない。自分の人生を生きなくてはね。


2.R.M.F.は飛ぶ

 警察官の主人公と行方不明だった妻の話。海で行方不明になった妻がやっと生きて帰ってきたが、どこか違和感があって……?というストーリー。”例の動画”を気まずそうに見るシーンが面白すぎてほぼその印象しか残ってない。『ボーはおそれている』の”あのシーン”も死ぬほど笑ったので普通にそういうネタが好きなのかもしれない。
 妻が帰ってきた当初は主人公と同様に妻のことを疑っていたけど、主人公のはたから見たときのヒステリックぶりと妻からの視点を見るにつれて、ただの主人公の妄想なのかという気持ちが強くなっていった。さすがに献身がすごすぎるから結局偽物だったのかなと思っているけど、最後に帰ってきた妻も本人かどうか怪しいよな。犬が連れてきてくれたのかもしれないけど。犬の島は何かのオマージュなんだろうか。昔の映画は全然見れていないのでこういうオマージュとかはわからないことが多くて悔しい。


3.R.M.F.サンドイッチを食べる

 カルト教団の信者である女性が人探しをする話。女性はとある特徴を持つ人物を様々な方法で探すが……というストーリー。女性が所属するカルト教団は水を重要視しており、基本的に教団の水しか口にしないようにしているのだが、これは、人間の体は60%が水で構成されているからきれいな水だけを摂取していれば体が浄化されるという教義に基づいているようで、ちょっと納得してしまった。普通にそういう団体は実在しそう。宗教のせいで女性の家族関係が崩壊していて子供は普通にかわいそうだった。
 女性が探している人物の特徴も事細かすぎるし、女性の人探し、ひいては教団への執心もすごすぎて気持ち悪かった。けど一番怖かったのは平気でプールに飛び込んだ女性。なぜ女性のことを知っているのかも分からないし、なぜそんなに協力的なのかもわからない。
 終盤のエマのダンスは最高だった!この章はこのダンスだけで満足できた。そのあとウキウキで教団の元に向かってる途中に事故してすべてが無に帰したところも本当にすごくて思わず口角が上がった。この章に限らず(part2)だけど、すべての章で何人か人が死んだうえで特に状況が改善することなく、むしろちょっとだけ悪化して終わるのがかなり楽しかった。
 最後のケチャップこぼしちゃったおじさんもクスッと笑えて好き。

 ヨルゴス・ランティモス監督が結構刺さっているので、他の作品も見ていきたい。

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