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「NHK100分de名著」第3、4回を振りかえって
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第3、4回振り返り
リメイク、そしてこれからも
『百人一首』はかるた、俳句、浮世絵、落語など様々な形で「リメイク(再創造)」されていきました。
番組の指南役で翻訳家のピーター・マクミランさんが「日本文学でそこまでリメイクされているのは百人一首だけ」と語っている通り、たくさんの媒体で何百年も読み継がれている歌集というのは、かなり珍しいのでしょう。
現代では『超訳百人一首 うた恋い。』(杉田圭、2010~)や『ちはやふる』(末次由紀、2008~2022)など『百人一首』を題材にした漫画があります。
番組やテキストでは紹介されていませんが、漫画家の今日マチ子さんの『百人一首ノート』(2016~)もその1つです。
本書には『百人一首』の和歌を現代風にアレンジした短い漫画が収められています。中でもお気に入りなのが、平兼盛の40番歌です。
しのぶれど色に出にけり我が恋はものや思ふと人の問ふまで
平兼盛[元歌歌意]思いを隠していたのに、顔に出てしまっていたようです、私の恋心は。恋をしているのでは?と人からたずねられるほどに。
ここでは先輩に密かに想いを寄せる女子高生と彼女を見守る友人2人の姿が柔らかいタッチで描かれています。
このように、漫画作品を通して、『百人一首』を身近に感じた人も多いのではないでしょうか。
『百人一首』の超訳
マクミランさんは大学生とのワークショップで『百人一首』の「超訳(現代語アレンジ)」(テキストp.35)に取り組んでいます。それらが「自分の生活と同じテーマで詠まれていることを理解してもらうため」(番組第4回を参照)にこういった活動をしているそうです。
その一例として紹介されていたのが、小式部内侍の六〇番歌です。
六〇 大江山いく野の道の遠ければまだふみもみず天の橋立
小式部内侍
(現代語訳)大江山を通って行く、生野(いくの)の道が遠いので、まだ天橋立を踏んでみたこともありません。もちろん、母からの手紙も見てませんよ。
小式部内侍の母親である和泉式部は、『百人一首』五六番歌などで有名な歌人として知られています。この歌は、都で開かれた歌合に際して「歌はどうするのですか。お母さんのもとへお使いは出しましたか。帰ってこなかったらさぞ不安でしょうねえ」(テキストp.32)とからかわれた小式部内侍が即興で詠んだものです。
六〇番歌についてマクミランさんは次のように述べています。
即興的に詠んだ歌でありながら、「大江山」「生野」「天橋立」と地名を次々に詠み込み、「いくの」に「生野」と「行く」、「ふみ」に「踏み」と「文」(母からの手紙)を掛けています。非情に機知に富んだ歌で、小式部内侍はこれによって歌の名手として知られるようになったと伝えられています。
この一首から小式部内侍の歌人としてのすごさを強く実感できます。
六〇番歌が詠まれた背景を踏まえた上で超訳を見ていきましょう。
別にカンニングしてないし。実力舐めんな。
現代でも芸能人2世(このような言葉を使うのは非常に憚られますが)と呼ばれる人たちが「親の七光り」といった心ない言葉を浴びせられるのは、決して珍しいことではありません。小式部内侍も同じような苦悩があったのでしょう。超訳では、彼女の悔しさがストレートに表現されています。
以上のことから、超訳は和歌をより深く味わうための試みでもあると僕は思います。