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【ジャパンSDGsアワード受賞企業】FrankPRのサステナビリティ解体新書

割引あり

ジャパンSDGsアワード受賞企業「FrankPR」のサステナビリティ戦略を多角的に深掘り〜GRIスタンダードを踏まえたインパクトとマテリアリティの専門分析〜


目次


第1章:はじめに

1-1. 記事の目的と概要

本記事では、第6回ジャパンSDGsアワードにおいて外務大臣賞を受賞した株式会社FrankPR(以下、FrankPRと略)を事例として、その企業がいかにサステナビリティへ取り組み、その実績を認められたのかについて、専門的かつ多角的に分析いたします。特に、本記事ではGRIスタンダード(GRI 1「基礎2021」、GRI 2「一般開示事項2021」、GRI 3「マテリアルな項目2021」)との関連性を整理し、ESG/サステナビリティ報告の実務担当者、あるいは責任者が「自社の取り組みにどう反映するか」について活用できるような視点を提供することを目指しています。
さらに、いわゆる「SDGsアワード」や「社会課題解決に関するアワード」への応募を検討している企業にとっても、審査基準やアワード受賞の背景を理解しつつ、自社のインパクトをどう評価・報告し、それをどう管理(マネジメント)していくかは重要な課題です。本記事がその一助となれば幸いです。
加えて、読者がGRIスタンダードを自社のサステナビリティ報告に活用し、かつSDGsをビジネスモデルに組み込む際の注意点なども解説します。特に、GRI 3で示される「マテリアルな項目」を特定するプロセスや、マテリアルな項目に対するマネジメント手法の情報開示がどのように企業の信頼向上やステークホルダー・エンゲージメントにつながるかも紹介し、読者がすぐに応用できるヒントを提供いたします。

1-2. GRIスタンダードの意義と本記事における位置づけ

GRIスタンダードは、サステナビリティ報告書を作成する企業や組織が、経済・環境・社会(人権を含む)へのインパクトを的確に開示するための国際的な枠組みです。GRI 1「基礎2021」では、企業・組織がGRIスタンダードを利用して報告する際の原則や要求事項が示されており、GRI 2「一般開示事項2021」では、企業のプロフィールやガバナンス構造、ステークホルダーとの関係など一般的な情報を報告するための指針が整理されています。さらに、GRI 3「マテリアルな項目2021」では、企業が最も大きなインパクトを持つテーマ(マテリアルな項目)をどのように特定し、マネジメントし、報告すべきかのプロセスを詳述しています。
このようなGRIスタンダードの活用は、近年のサステナビリティ・ESG報告において不可欠です。投資家を含む多様なステークホルダーが「どの企業がどれだけ社会・環境に責任を果たしているか」を評価する際、GRIなど国際標準に則った情報開示は信頼性を高める鍵となるためです。本記事では、受賞企業であるFrankPRの事例をもとに、実際どのようにGRIスタンダードを運用し得るかを多角的に解説いたします。

1-3. : FrankPRの全体像とポイント

本記事は、事前調査で得られたFrankPRの以下のような情報を踏まえて執筆しています。

  • 第6回ジャパンSDGsアワード 外務大臣賞を受賞(2023年3月)

  • 本社所在地は大阪市西区京町堀(登記上は東京都渋谷区も関連)

  • 社員数わずか2名、資本金100万円の零細規模スタートアップ

  • バングラデシュ産の廃棄予定牛革を用いた革製品ブランド「Raffaello(ラファエロ)」を展開

  • バングラデシュで約400人の女性(シングルマザー中心)と障がい者を雇用し、日本でもシングルマザー数十名が在宅スタッフとして携わる

  • 過去に環境省「グッドライフアワード」実行委員会特別賞や「ソーシャルプロダクツ賞」等受賞歴多数

  • 2016年にはECサイトで1日に1万円の財布を約3000個の財布を売り上げるヒットを達成

  • 廃棄牛革の再利用、雇用創出、エシカル消費の啓蒙などを総合的に推進

  • コンサルティング事業やAIシステム導入支援なども手掛ける

こうした特徴は、従来の「サプライヤーから素材を仕入れて商品を売る」アパレル・皮革業界のモデルとは大きく異なり、ビジネスモデル自体が社会課題解決を目指している点が評価されました。また、廃棄革の再利用や弱者雇用、ジェンダー平等、貧困削減を同時に実現し、地球環境保護や地域社会貢献など多岐にわたるSDGsゴールに寄与していることから、官民問わず多くのアワードで注目を集めています。
私たちはGRIスタンダードの切り口で、こうしたFrankPRの活動やアワード受賞の意義を整理し、企業が参考にできるサステナビリティ戦略の事例として深掘りします。


第2章:ジャパンSDGsアワード受賞企業・FrankPRの基礎情報

ここではまず、FrankPRの基本情報、およびジャパンSDGsアワードを受賞した理由について概説します。

2-1. FrankPRの創業と企業規模

FrankPRは、2018年10月に設立されたスタートアップ企業です。代表取締役の松尾真希氏は、持続可能な開発を専門的に学んだ経験を活かし、「ビジネスを通じて社会課題を解決する」理念を掲げて創業しました。

  • 創業年:2018年10月

  • 資本金:100万円

  • 従業員数:役員2名(2023年時点)

  • 活動拠点:大阪本社(大阪市西区京町堀)と東京事業所(渋谷区)

通常、これほど小規模な企業が政府の大型アワードであるジャパンSDGsアワード外務大臣賞を受賞するケースは非常に珍しいと言えます。すなわち、零細企業でありながら持続可能なビジネスモデルを構築し、高いインパクトを実現している点が、FrankPRの大きな特徴です。従業員数は0名で2名の役員は夫婦の松尾真希と菊池友佑です。

2-2. 主力事業:廃棄牛革を活用した「Raffaello(ラファエロ)」

FrankPRの柱となっているのは、バングラデシュの廃棄予定牛革を用いた革製品ブランド「Raffaello」です。廃棄牛革とは、イスラム教の祭礼(犠牲祭など)で捧げられた後に本来は捨てられるはずだった革を再活用したものです。同社はこれを高品質の財布やバッグに仕上げ、日本国内外で販売しています。

  • エシカル素材:バングラデシュで捨てられるはずの牛革を活用し、文化を尊重しながら資源浪費を防止

  • 女性・障がい者雇用:バングラデシュ現地で約400名のシングルマザーや障がい者を職人として雇用

  • 日本国内雇用:在宅ワークを活用し、シングルマザーを中心に数十名が検品・顧客対応を担当

これにより、経済的弱者であるシングルマザーらの就労機会創出、貧困削減、ジェンダー平等に貢献するとともに、環境面では廃棄物削減やコスト削減を達成しています。まさに社会・環境・経済の三側面を包括するSDGs時代のビジネスモデルとして注目を浴びているのです。

2-3. 受賞理由:多様なステークホルダーを巻き込む包括的アプローチ

FrankPRが「第6回ジャパンSDGsアワード」外務大臣賞を受賞した背景には、以下のような特徴が挙げられます。

  1. ジェンダー格差が大きい国で女性雇用を促進:バングラデシュの社会課題(貧困、女性の社会進出阻害)に対して、ビジネスを通じた継続的な雇用を提供

  2. 貧困削減と資源活用:廃棄予定の牛革を製品化し、エシカル消費を推進

  3. 日本国内のシングルマザー支援:在宅ワークによる雇用機会の拡充

  4. 多様性とインクルージョン:障がい者や、子どもの教育支援NGOなどとの連携

  5. 参画型モデル:顧客やパートナー企業が「自社の製品購入」を通じSDGsに貢献する仕組みを共創

  6. 事業を通じたSDGs達成:CSRや寄付ではなく、「売れる商品」を軸とした本業への統合

このように「ビジネスと社会課題解決を両立させる」アプローチが高く評価され、まさにSDGsが掲げる「誰一人取り残さない」という理念を体現しています。

2-4. 同社が示すロールモデル性

同社の特徴を一言でまとめると、**「小さな巨人」**という表現がふさわしいでしょう。資本金や社員数というスケールでは圧倒的に小規模でありながら、社会インパクトを最大化し、かつ経済的にも成功(ECで1日に1万円の財布を3000個販売)を収めています。さらに、廃棄素材×弱者雇用×多国籍連携という複合的モデルを自社で設計・実行した点は、他社が模倣しようとしても容易ではない独自性を持ちます。
このモデルが着目される理由は、企業規模や業種にかかわらず「同様のアプローチが展開可能では?」という期待を抱かせる点にあります。事業そのものを社会課題解決に直結させる仕組みをいかに構築するか、FrankPRの成功事例は多くの企業にとって示唆を与えます。


第3章:GRIスタンダード概説とサステナビリティ報告への応用

本章では、GRIスタンダードの目的・構造と、企業がサステナビリティ報告を行う際にどのように活用すれば良いかを概説します。さらに、各スタンダード(GRI 1、GRI 2、GRI 3)を簡潔に整理し、FrankPRの事例にあてはめる場合のポイントを明らかにします。

3-1. GRIスタンダードの目的と全体構造

GRIスタンダードは、サステナビリティ報告の国際的なフレームワークです。企業・組織が自らの経済・環境・社会へのインパクトを開示し、ステークホルダーに対して説明責任(アカウンタビリティ)を果たすことを目的としています。特に、ステークホルダーが企業のサステナビリティパフォーマンスを比較・評価する際、GRIに準拠した情報開示は信頼性と比較可能性を高める効果を持ちます。
GRIスタンダードは以下の3シリーズに大別されます。

  1. 共通スタンダード:GRI 1(基礎)、GRI 2(一般開示事項)、GRI 3(マテリアルな項目)

  2. セクター別スタンダード:石油・ガス、石炭、農業・漁業など業種別に特化した指針

  3. 項目別スタンダード:経済パフォーマンスや環境(排出、廃棄物など)、労働慣行、人権、コミュニティなど特定項目ごとに報告開示事項を定義

例えば、「労働慣行」や「人権」に深く関わる企業であればGRI 3とともに、該当する項目別スタンダード(例:GRI 401:雇用、GRI 403:労働安全衛生、GRI 406:非差別など)を用いて報告を行うという形です。また、自社が属する業種のセクター別スタンダードが既に公表されていれば、それを参照してマテリアルな項目を検討します。

3-2. GRI 1: 基礎2021 のポイント

GRI 1は、GRIスタンダードに準拠した報告を行うための原則や要求事項を定める中核となる文書です。具体的には、

  • GRIスタンダードの目的と体系

  • 重要な概念(インパクトやステークホルダーなど)

  • 報告原則(正確性、バランス、明瞭性、比較可能性、網羅性、サステナビリティの文脈、適時性、検証可能性)

  • GRIスタンダードに準拠する要件(要求事項、内容索引、利用に関する声明など)

を中心に規定しています。つまり「GRI報告とは何か?」「遵守すべき基本ルールは?」という基礎的事項を示す文書です。
企業がGRIスタンダードを用いてサステナビリティ報告書を作成する際、まずGRI 1をしっかり読み込み、報告書において要求事項が満たされているかを確認するのが重要です。特に報告原則は、企業が作成するサステナビリティ報告のを左右し、外部ステークホルダーからの信用を得るためにも徹底が求められます。

3-3. GRI 2: 一般開示事項2021 のポイント

GRI 2は、**「組織のプロフィール」「ガバナンス」「ステークホルダーエンゲージメント」「方針や戦略」「法令遵守」**など、報告の基盤となる情報を開示するための基準を提示しています。具体的には、たとえば以下のような開示事項があります。

  • 組織の名称や所有形態・事業範囲

  • 従業員数や在籍形態の内訳

  • 最高ガバナンス機関の構造や独立性

  • 戦略・方針(人権尊重方針など)の有無

  • ステークホルダーとのエンゲージメント方法

  • 苦情処理メカニズムの設置状況

  • 法令違反・罰金の有無

などなど、企業の実態を俯瞰するために必須の情報項目が整理されています。
このGRI 2の開示事項は、たとえばFrankPRのような零細企業であっても「ガバナンス体制はどのようになっているか?」「ステークホルダーは誰なのか?」といった点を報告するうえで重要です。企業が小規模だからといって必要情報を省いてはならず、ステークホルダーへの説明責任を果たすためには、たとえ社員数が数名しかいなくても、基本的なガバナンス構造や方針(何を重要視しているか)を開示することが求められます。

3-4. GRI 3: マテリアルな項目2021 のポイント

GRI 3は、企業が最も著しいインパクトを与えているテーマ(マテリアルな項目)をどのように特定し、管理し、報告すべきかを示しています。サステナビリティ報告の核となる章と言えます。
具体的には、

  1. マテリアルな項目の決定プロセス(ステップ1〜4)

  2. マテリアルな項目のリスト

  3. マテリアルな項目ごとのマネジメント手法と成果

を開示するよう要求しています。企業が「自社はどの分野で最も大きな影響を与えるか?」を正しく理解し、報告書で明示することで、ステークホルダーは**「その企業の本質的なサステナビリティ課題は何か」**を把握できます。
たとえば、FrankPRの場合、「女性のエンパワーメントと雇用創出」「廃棄革の再利用と廃棄物削減」「ジェンダー平等」「貧困削減」「障がい者の社会参画」などが該当し得ますが、そこには優先順位があるはずです。GRI 3のガイダンスに従い、顕在化・潜在化したインパクトの大きさ、影響範囲、深刻度などを評価して最も重要なテーマを選定し、報告で深く掘り下げるわけです。

3-5. 企業報告への効果:ステークホルダーの理解と信頼醸成

GRIスタンダードに基づく報告は、単なる「CSR宣言」や「広報的イメージ戦略」ではなく、具体的な開示事項を根拠ある形で提示できるため、ステークホルダーの評価や企業価値向上に寄与しやすいといえます。特に、投資家や社会的評価機関などは、GRIやSASBなど国際フレームワークに準拠しているかどうかを重視している場合が多く、認知度や比較可能性が高まります。
FrankPRのように大企業ではなくても、小規模であってもGRI準拠の報告を行うことは可能です。企業規模や業種にかかわらず、経済・環境・社会へのインパクトは必ず存在します。その意味で、GRIスタンダードは幅広い企業が自社の持続可能性を高める手段と言えます。


第4章:FrankPRを事例に見るGRIスタンダード実践アプローチ

ここからは、実際にFrankPRのケースをもとに、各GRIスタンダードの要求事項をどのように満たすかを考察します。特に、GRI 3「マテリアルな項目2021」で提案されるプロセス(4ステップ)を参考にしながら、FrankPRが取り組むべきマテリアルな項目を仮に整理してみます。

4-1. GRI 1とFrankPR:報告原則の適用例

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