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【ジャパンSDGsアワード受賞企業】大和ネクスト銀行のサステナビリティ解体新書
SDGsアワード受賞企業・大和ネクスト銀行のサステナビリティ戦略
〜多角的分析とGRIスタンダードの視点から考察する〜
目次
第1章:はじめに
1-1. SDGsアワード受賞企業の注目度とサステナビリティ推進の背景
2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」は、企業・政府・市民社会など多様なステークホルダーに大きな影響を与えています。SDGsへの関心が高まるなか、優れた取り組みを実践した企業・団体を称える「ジャパンSDGsアワード」(以下「SDGsアワード」)は、日本国内におけるSDGs推進の大きなモメンタムとなっています。このアワードは内閣府主催の表彰制度として2017年に創設され、以降、積極的なSDGsへの取り組みを行う企業・団体が数多く受賞し、その成果を広く周知する場としての役割を果たしています。
SDGsアワードを受賞する企業は多岐にわたりますが、いずれにも共通しているのは、従来の営利目的にとどまらず、社会・環境へポジティブなインパクトを生み出す事業モデルや仕組みづくりを実践している点です。昨今は金融機関によるサステナビリティへの寄与が強く求められ、金融分野でもさまざまな革新的手法が登場しています。その中で、大和ネクスト銀行はインターネット専業銀行として日本全国の顧客にサービスを提供しながら、SDGs達成に寄与する預金商品「応援定期預金」を展開し、大きく評価されました。
1-2. 大和ネクスト銀行:新形態のネット銀行とSDGsアワード受賞
大和ネクスト銀行は大和証券グループ本社が全額出資する「新形態銀行」として2011年に営業開始し、ネット専業ならではのビジネスモデルを強みに成長を遂げています。主力サービスは円預金・外貨預金などの預金商品ですが、証券口座との自動連携(スイープサービス)をはじめとする利便性の高い機能を特長とし、インターネットを通じた全国規模でのサービス提供を実現しています。
この大和ネクスト銀行が2019年に「ジャパンSDGsアワード」にて特別賞を受賞しました。その要因は、**社会課題解決に向けた預金商品「応援定期預金」**が高く評価されたことにあります。通常の預金サービスでは実現しづらい「社会貢献と資産形成の両立」を預金という身近な金融商品で体現した点が大きな注目を集めました。
「応援定期預金」は、預金者がテーマを選択し、そのテーマに紐づくNPO等へ銀行が寄付金を拠出する仕組みを特徴としています。子どもの医療支援や環境保護など、多様なSDGs課題に対応できる設計が施され、多くの顧客が少額からでもSDGsに貢献できる機会を提供している点が評価されました。開発・導入から短期間で預金残高が急拡大し、顧客数も増加するなど、社会からの支持を得たことがSDGsアワード受賞の決定打となったわけです。
1-3. 本記事の目的と構成
本記事では、SDGsアワード受賞企業として注目される大和ネクスト銀行の事例を通じ、金融機関がいかにSDGsに貢献しうるかを多角的に分析します。また、国際的な報告基準であるGRIスタンダード(GRI 1, GRI 2, GRI 3)を参照しながら、企業のサステナビリティ活動をどのように整理・開示すればステークホルダーにとって有用性が高まるかを考察します。
第2章では、大和ネクスト銀行の企業概要・事業内容・主要サービスを整理し、SDGsアワード受賞の背景を確認します。
第3章においては「応援定期預金」を中心とするSDGs貢献施策を詳しく見ながら、その成果や社会的インパクトを掘り下げます。
第4章では、ガバナンスやサプライチェーン管理など、企業のESG全般への取り組みを鳥瞰します。
第5章は、GRIスタンダード(GRI 1, GRI 2, GRI 3)の視点を踏まえながら、大和ネクスト銀行がどのようにサステナビリティ情報を整理・開示しうるか、潜在的なポイントを提示します。
第6章では、同銀行の今後の課題や展望、そして金融業界への示唆を述べ、企業のサステナビリティ担当・責任者が自社に応用できる示唆を提案します。
記事全体を通じ、SDGsアワード受賞企業としての大和ネクスト銀行の取り組み事例を深掘りしつつ、GRIスタンダードの観点を加味して「サステナビリティの好事例をどう可視化し、ステークホルダーに伝えるか」を論じます。本稿がサステナビリティ担当者・責任者にとっての学びや金融機関の事例理解に役立つことを願っています。
第2章:大和ネクスト銀行の概要とジャパンSDGsアワード受賞の背景
2-1. 大和ネクスト銀行の企業概要
2-1-1. 創業と設立の経緯
大和ネクスト銀行(Daiwa Next Bank, Ltd.)は、大和証券グループ本社が100%出資する日本のインターネット専業銀行です。2010年4月1日に設立され、2011年4月15日に営業を開始しました。大和証券が銀行業に進出するにあたり、「証券と銀行の融合」を目指す新形態の銀行として開業が認可されたという経緯があります。
2-1-2. 事業内容とサービスの特徴
同銀行は「預金のみ」を主力商品として取り扱い、大和証券と提携した「スイープサービス(自動振替)」など、証券と銀行の連携を強みにしています。これは、証券口座における待機資金が一定額を超えると自動的に銀行口座にスイープされる仕組みで、証券投資と銀行預金の両面で利便性を高める新モデルです。
サービスラインナップは主に以下の通りです。
円預金(普通預金、定期預金)
外貨預金
フリーローンや不動産投資ローンなどの融資商品(一部)
インターネット専業の強みを活かし、店舗網を持たずコストを抑えつつ、大和証券の全国店舗を銀行代理業務の拠点とすることで、対面での手続きにも対応可能にしています。
2-1-3. 国内外展開と事業規模
本店は東京都千代田区(丸の内)に所在し、日本国内向けにオンラインサービスを展開しています。海外支店は持たず、国内市場に特化することで、ユーザーサポートや顧客対応の品質向上を図っています。近年は預金残高や口座数が順調に増加し、ネット専業銀行の中でも安定的な成長を見せています。
2-2. ジャパンSDGsアワード受賞に至る取り組み
2-2-1. 「応援定期預金」が高く評価された背景
大和ネクスト銀行がSDGsアワードで特別賞を受賞した最大の理由は、**「応援定期預金」**という社会貢献型の預金商品です。2017年11月に取り扱いを開始した応援定期預金は、「預金をするだけでSDGsに貢献できる仕組み」をコンセプトにし、顧客が応援したい社会課題のテーマを選び、そのテーマに紐づくNPOや地方自治体等へ銀行が一定額を寄付するというユニークな仕組みをもっています。
幅広いテーマ設定: 「こどもの医療支援」「障がい者スポーツ支援」「環境保護」など、複数のテーマを設置し、顧客が関心のある分野へ寄付が届くシステム。
少額からでも貢献可能: 最低預入額を10万円など比較的低水準に設定し、幅広い層の顧客が参加しやすい設計を導入。
寄付先の透明性: 銀行ウェブサイトで寄付金の使途や活動報告を公開し、預金者が自らの預金がどのように社会課題解決に活用されるかを可視化。
こうした取り組みが「日常的な金融行為である預金を通じて気軽にSDGsに参加できるプラットフォームを提供している」として高く評価されました。政府(内閣府)は、組織の枠を超えた連携と普遍的な商品の持続性を重視しており、応援定期預金は「他の金融機関にも波及しうるロールモデル」「誰もが参加しやすい社会課題解決の仕組み」として受賞対象となったのです。
2-2-2. 具体的な受賞内容
大和ネクスト銀行は2019年12月20日に首相官邸で開催された第3回ジャパンSDGsアワード表彰式にて「特別賞(SDGsパートナーシップ賞)」を受賞しました。これは、SDGs達成に向けて顕著な取り組みを行った企業に授与されるものであり、銀行業界としては初の受賞事例という点でも注目を集めました。受賞理由としては、
SDGsへの幅広い貢献(こども支援、障がい者支援、環境保護など)
誰でも少額から参加できる金融商品設計
短期間で300億円、さらには1,000億円を突破した預金残高という実績
預金者を巻き込みながら寄付文化を醸成する金融イノベーション
が挙げられています。
2-3. SDGsアワード受賞をめぐる社会的インパクト
SDGsアワード受賞がきっかけとなり、同銀行には次のような社会的インパクトが広がっています。
社会的認知度の向上:
ネット銀行として広く認知されるだけでなく、「SDGsに貢献できる銀行」というイメージが浸透し、SDGs関連メディアでも多く取り上げられています。
他の金融機関への影響:
寄付付き定期預金やESG型金融商品の事例研究として、多くの銀行・信用金庫・証券会社が同銀行の応援定期預金を参考にし始めています。
顧客層の拡大:
子育て世代や環境意識の高い若年層など、新規顧客が増加。応援定期預金導入後の営業成績の向上に寄与していると推察されます。
地域社会・NPOとの連携強化:
多様な寄付先(こども病院や環境保護団体、障がい者スポーツ団体)からの感謝や協働が生まれ、銀行が地域コミュニティと共存共栄するモデルが可視化されました。
こうしたインパクトは単に「賞を取った」だけにとどまらず、大和ネクスト銀行が中長期的に持続可能な価値創造へと歩む上での追い風となっていると言えるでしょう。
第3章:社会貢献型「応援定期預金」の特徴と評価
3-1. 応援定期預金の仕組み
3-1-1. 預金でSDGsに参加できる構造
応援定期預金は大和ネクスト銀行が展開する定期預金商品で、預入額に応じて同銀行が寄付金を拠出し、顧客の選択した社会課題を解決するNPO等へ資金を届ける仕組みを特徴とします。顧客自身は通常の定期預金と同様、元本や利息を受け取ることができ、一方で銀行から別途拠出される金額が社会貢献に回されます。
3-1-2. テーマ設定の多様性
SDGsが掲げる17目標は非常に幅広いため、同銀行はテーマをある程度絞りつつも複数選択肢を用意しています。主要なテーマとしては以下の例があります。
こどもの医療支援:小児がんや長期入院の子どもたちを支援するNPOへ寄付
こどもの自立支援:児童養護施設を退所する高校生などへの奨学金寄付
障がい者スポーツ支援:義足普及やホースセラピーなどに関わる団体への寄付
環境保護:サンゴ礁の保護活動、水源林の保全活動への寄付
これらの取り組みは、顧客がどの社会課題に興味・共感を持つかに応じて選べるため、SDGsの中から自分が意識する課題を選択するという主体的な行為を促しています。多くの顧客が自らの価値観や経験に基づいて寄付先を指定できる点は、他の寄付型金融商品にはない特色です。
3-1-3. 参加ハードルの低さ
最小預入額が10万円と比較的手頃であり、若年層からシニア層まで幅広い利用を見込めます。また、預金という金融商品ゆえ、預け入れした顧客が金利を得られるだけでなく、銀行の負担で社会課題解決を応援できる点も大きな魅力です。この「参加ハードルの低さ」と「日常的な金融行為との親和性」が、短期間で大口の預金残高を集める原動力となりました。
3-2. 寄付先の透明性と継続的支援
3-2-1. 寄付先NPO・団体との連携
大和ネクスト銀行は、寄付金の使途を追跡するためにNPOや自治体と連携し、定期的な活動報告を得ています。同銀行のWebサイトやレポートで、寄付金がどのように活用されたかを顧客に伝える取り組みを進めています。この情報開示により、**「自分の預金がどのように役立ったか」**が可視化され、顧客のロイヤルティ向上に貢献します。
3-2-2. 預金者コミュニティ形成
応援定期預金の取り組みを軸に、預金者と寄付先団体をつなぐファンサイトやイベントが企画されることもあります。顧客からのフィードバックや追加要望を受けて新たなテーマが追加されたり、支援先が拡充されたりする「コミュニティ醸成」が見られます。これは、単なる金融取引にとどまらず、「社会貢献コミュニティを形成し、ファンを拡大する」ビジネスモデルの可能性を示唆するものです。
3-3. 預金残高の伸びと実績
3-3-1. 短期間で300億円から1,000億円へ
応援定期預金は2017年11月に取扱い開始し、わずか2年後の2019年12月には預金残高が300億円を突破しました。その後も好調を維持し、2020年10月には1,000億円を突破するという急成長を遂げています。これは、SDGsへの高まりや少額から参加できる利便性が背景にあると考えられます。
3-3-2. 金融機関としての収益面への影響
一方で、銀行が拠出する寄付金は、銀行の収益を圧迫する可能性があります。大和ネクスト銀行は、ネット専業かつ大和証券グループの一員としてのシナジーを活かし、運用コストを抑制しながら寄付原資を確保しています。銀行として収益性を確保しつつ社会貢献を実施する事例は、他の金融機関が追随する上でも大きな参考となっています。
3-3-3. 金融商品としての普及度
社会貢献型預金はこれまでも一部の地域銀行が「環境定期預金」などを扱っていましたが、ここまで複数の社会課題に応じた寄付先を網羅し、かつ寄付金の流れを可視化する仕組みを大々的に展開する事例は珍しいです。その成果として、第三者評価機関や政府表彰(SDGsアワード)を受け、メディア露出も増加しました。結果的に応援定期預金は社会貢献型金融商品のロールモデルとして位置づけられています。
第4章:ガバナンス・ESG活動の全体像と課題
4-1. ガバナンス体制とステークホルダー連携
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