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【ジャパンSDGsアワード受賞企業】会宝産業のサステナビリティ解体新書
目次
1. はじめに:SDGsアワードの意義と本記事の狙い
ここ数年、「SDGs(持続可能な開発目標)」の認知度は国内企業や行政を中心に急速に高まってきました。SDGsは2015年の国連サミットで採択され、2030年までに達成すべき17の目標・169のターゲットを掲げています。日本国内でもSDGs推進本部(内閣官房)のもと、多数の企業が自社の事業活動を見直し、SDGsのゴールをビジネスモデルや経営戦略に取り入れようとする動きが広がっています。
こうした潮流の中で開催される「ジャパンSDGsアワード」は、日本政府の主導によってSDGsの達成に優れた貢献をした企業・団体を表彰する制度です。企業のサステナビリティ活動を後押しし、その模範となる事例を可視化する取り組みとして重要な役割を担っています。ジャパンSDGsアワードは2017年に創設され、外務大臣が委員長を務めるSDGs推進本部により審査・選考が行われます。大企業から中小企業、NPO、自治体まで幅広い主体が応募する中、環境・社会・経済へ多面的にインパクトを与える取り組みが評価されます。
本記事では「第2回ジャパンSDGsアワード」でSDGs推進副本部長(外務大臣)賞を受賞した会宝産業株式会社を取り上げ、そのサステナビリティ戦略・取り組みをGRIスタンダードの視点で多角的に分析・深掘りしていきます。会宝産業は自動車リサイクル事業を中心に、海外88か国以上への部品輸出や循環型ビジネスの推進を行う中小企業ながら、グローバル展開による環境負荷低減と社会的インパクト創出で高い評価を受けています。本稿では同社の具体的な事例やデータを交え、循環経済(サーキュラーエコノミー)の最前線で活躍する会宝産業の強みを整理しつつ、他業界への示唆や課題についても考察します。
さらに、サステナビリティレポーティングの枠組みとして世界で広く用いられている「GRIスタンダード」への適合性や、会宝産業自身が実施している温室効果ガス(GHG)排出削減策や人権尊重の取り組みについても詳しく触れます。GRIは近年、日本国内でも「非財務情報開示の国際基準」として注目を集めており、企業のサステナビリティ情報開示を包括的かつ体系的に支援します。会宝産業の事例を通じて、GRI基準に基づく開示のメリットや、実務上のポイントなどにも迫りたいと思います。
加えて、記事後半ではリサイクル業界・サーキュラーエコノミー業界全体の概況にも触れ、電気自動車(EV)の普及といった技術トレンドや、素材リサイクルをめぐる国際法規制などの大きな流れが会宝産業を含む中小リサイクル企業にどのような課題や機会をもたらすかについて検討します。会宝産業がSBTi(Science Based Targetsイニシアチブ)の認定目標を取得するなど、脱炭素経営にも取り組む動きは、自動車リサイクル事業の変革につながりうる点を見逃せません。
最終的に、本記事の狙いは以下の3点に集約されます。
会宝産業の取り組みに学ぶ「日本発サーキュラーエコノミー」の実践事例
GRIスタンダードの視点で捉えるサステナビリティ経営の要点
EV化・脱炭素化を背景とした自動車リサイクル業界の課題と展望
SDGsアワードは注目される企業・団体を表彰するだけでなく、社会全体が持続可能な未来を志向するためのロールモデルを示す役割を担っています。こうしたロールモデルの存在がより多くの企業を刺激し、日本そして世界のサステナブル・トランスフォーメーションを加速させる可能性を秘めているのです。
以下、会宝産業の概要から具体的な取り組み、そして業界比較やGRIスタンダードでの分析まで、順を追って詳しく解説していきます。環境・社会・ガバナンス面で高い専門性を求めるサステナビリティ担当者や責任者の皆様にとっても、具体的かつ示唆に富む内容となるよう努めていますので、ぜひ最後までお読みいただければ幸いです。
2. 会宝産業株式会社の概要:リサイクル×国際展開の先駆者
2-1. 企業プロフィールと事業内容
会宝産業株式会社は、石川県金沢市に本社を置く自動車リサイクル企業です。創業は1969年で、当初は廃車解体・鉄スクラップ販売を中心とする小規模事業者からスタートしました。その後、グローバル市場の需要を捉え、中古部品の輸出という新たなビジネスモデルを構築し、現在では世界88か国以上に部品を輸出するまでに成長。2010年には日本最大規模の中古自動車部品輸出企業となりました。
従業員数は約100名弱と中小企業の枠に入る規模ながら、売上高の80%以上を海外で稼ぎ出す国際企業という点が大きな特徴です。特に、中古部品を必要としている国や新興国に向けて、自動車のエンジン、タイヤ、ライトなどを中古品として販売し、その国の修理・整備事業を支えています。日本国内で廃車となった車でも、海外ではまだ十分に使用可能であるという需要の違いをビジネスチャンスに変え、2018年12月に開催された「第2回ジャパンSDGsアワード」にてSDGs推進副本部長(外務大臣)賞を受賞しました。
2-2. 「静脈産業」のトップランナーとして
自動車リサイクル事業は、製品の製造・販売を担う「動脈産業」に対して「静脈産業」と呼ばれることがあります。動脈産業が経済活動を循環器に例えて血液を送り出す立場であるのに対し、使用済み製品(廃車など)を回収し再資源化や再利用する静脈産業は、排出された廃棄物(静脈)を経済に再循環させる役割を担う重要セクターです。会宝産業はこの静脈産業をグローバルに切り拓いた先駆者の一社として高く評価されています。
日本の自動車リサイクル法(2005年施行)により、国内の廃車や部品リサイクル市場は一定の制度化が進みました。しかしながら、当初から中古部品のグローバル展開に注目し、継続的に国際的ネットワークを構築してきた企業は多くありませんでした。会宝産業は1990年代から海外バイヤーとの取引を開始し、高品質な日本製中古部品が海外で求められていることを知り、いち早くビジネスモデルを確立したのです。その結果、現在では世界88か国で中古部品を販売し、海外売上が全体の約80%を占めるという独自の地位を築いています。
2-3. サステナビリティと経営理念
会宝産業の経営理念には「自然環境との調和を計る会社です」と謳われており、環境と経済の両立を目指す姿勢が明確に打ち出されています。また、同社は創業以来のモットーとして「廃車といえどもまだ使える部品や素材を最大限活用する」というリユース・リサイクル精神を貫いてきました。これらの企業理念が、グローバルな中古部品輸出・再資源化ビジネスと結びつき、結果的に大きなCO2削減や資源効率の向上に寄与しています。
会宝産業のウェブサイトでも「車は地球の宝物」という考え方が示されており、人々の暮らしに必要な移動手段を支えつつ、限りある資源を大切に活かす事業モデルこそが持続可能な社会の実現に貢献すると強調しています。同社の活動をSDGsの視点で見ると、「12.つくる責任つかう責任(持続可能な生産消費)」や「13.気候変動に具体的な対策を」「8.働きがいも経済成長も」など、複数のゴールに波及効果をもたらしていることがわかります。
2-4. 世界が評価するリサイクル技術・システム
会宝産業が一般的な自動車解体業者やリサイクル事業者と異なる点として、独自に開発した「KRAシステム」(Kaiho Recyclers Alliance System)による部品一つひとつのバーコード管理が挙げられます。これにより、エンジンやライト、ドアなどの状態をデータベース化し、在庫状況をリアルタイムで把握することが可能です。海外バイヤーも必要な部品のスペックや写真、品質情報をスムーズに取得できるため、取引が円滑に進み、高付加価値での輸出を可能にしています。このような徹底したトレーサビリティが海外顧客の信頼を獲得し、KAIHOブランドとして認知されているのです。
会宝産業のリサイクル技術はISO14001の環境マネジメントシステムやISO9001の品質マネジメントシステムを取得するだけでなく、国際協力機構(JICA)や国連工業開発機関(UNIDO)などの技術実証プログラムでも注目を集めています。途上国や新興国での自動車リサイクルシステム構築を支援したり、現地の技術者育成を行ったりするなど、環境保護と産業振興の両面で貢献しています。
これらの活動が評価され、2018年には外務大臣がトップを務めるSDGs推進本部より第2回ジャパンSDGsアワード SDGs推進副本部長賞を受賞しました。この受賞は、中小企業として世界規模のインパクトを創出し、SDGs達成に向けた効果的なパートナーシップを築いていることが認められた大きなマイルストーンと言えるでしょう。
3. 第2回ジャパンSDGsアワード受賞の背景:世界が評価する循環ビジネス
3-1. ジャパンSDGsアワードの意義
日本政府は2016年5月に「SDGs推進本部」を設置し、官民連携でSDGs達成を加速するための仕組み作りを進めています。その一環が「ジャパンSDGsアワード」であり、優れたSDGsの取り組みを行う企業や団体を首相官邸で表彰する制度です。SDGs推進本部長である内閣総理大臣賞が最も高い賞として位置づけられ、その下にSDGs推進副本部長(外務大臣)賞など複数の賞があります。選考基準には「誰一人取り残さない」原則が反映されており、環境面だけでなく社会包摂や国際貢献など、幅広い観点が評価対象となります。
このアワード制度の狙いは、SDGsを経営や地域政策に具体的に落とし込み、成果を上げている事例を表彰することで、他の企業・団体への波及効果を高めることです。日本国内には大企業から中小企業、NPO、自治体まで数多くの主体があり、SDGsの取り組み方や資源には大きな違いがあります。アワード受賞事例はそうした多様性の中でも特に優秀なモデルケースとして注目を集め、ベストプラクティスの共有が期待されます。
3-2. 第2回ジャパンSDGsアワードの選定理由
2018年12月に表彰式が行われた第2回ジャパンSDGsアワードで、会宝産業はSDGs推進副本部長(外務大臣)賞を受賞しました。同社の受賞理由は、以下のようなポイントに要約されます。
循環型ビジネスによる環境負荷低減
自動車解体からの部品リユース(中核)と素材リサイクルの徹底
使用済み車両の適正処理とCO2排出削減への寄与
グローバルな部品輸出を通じ、新興国での資源有効活用を推進
グローバル・パートナーシップの構築
ブラジル、ケニア、インドなど多国政府や現地企業と協働
リサイクル技術移転や現地法整備支援を進め、環境汚染を防止
若者や貧困層への技術研修を通じた雇用創出・人材育成
SDGs達成へ向けた統合的アプローチ
SDGsの複数ターゲットに貢献(貧困削減、環境保全、雇用創出、経済成長など)
自社のSDGsレポート等で透明性・説明責任を果たし、社会的信頼を獲得
事業活動と社会・環境課題解決が両立するモデルケース
会宝産業の場合、ビジネス自体が資源循環や環境負荷低減に直結している点、また途上国の若者や社会的弱者への就労支援を絡めた包摂的な取り組みをグローバル規模で進めている点が高く評価されました。SDGs推進副本部長である外務大臣が同社の活動を「国際協力のモデルケース」として表彰したことは、国際的な視点でのインパクトも大きいと言えます。
3-3. 「静脈産業」への注目と会宝産業の存在意義
日本は自動車大国であり、国内外の自動車産業はGDPや雇用の大きな支柱となっています。一方、自動車から排出される廃油、廃部品、廃プラスチック、使用済みタイヤなどの適正処理が進まないと、深刻な土壌汚染や大気汚染を引き起こします。新興国や途上国では法整備やリサイクル技術が未熟な場合が多く、環境破壊と健康被害が深刻化している地域が散見されます。会宝産業は日本の高度なリサイクル技術やノウハウを海外パートナーと共有することで、国際的な環境保全に貢献しています。
日本国内の静脈産業は近年、少子高齢化による国内需要減少の懸念もあり、海外マーケットの開拓が重要課題となっています。会宝産業のアプローチは自社の収益拡大だけでなく、グローバルな環境・社会課題へのソリューション提供にもつながっており、サステナブルなビジネスモデルとして注目度が高まっています。
こうした動きはジャパンSDGsアワードの受賞によって一層可視化され、国内外の関係者から「日本発の循環型経済モデルを世界に広める企業」として評価されるに至りました。SDGs推進副本部長(外務大臣)賞は、環境保護のみならず国際協力や経済・社会的包摂を包括的に実現している点を示す顕彰と言えるでしょう。
4. SDGsアワードと政府・産官学連携:日本のサステナビリティ推進の仕組み
4-1. SDGs推進本部と省庁連携
日本でのSDGs推進体制は、内閣総理大臣を本部長とし、SDGs推進副本部長が外務大臣、官房長官、環境大臣等を含む形で横断的に構成されています。これはSDGsが環境・教育・産業政策・福祉など多岐にわたるため、省庁間の連携を強化しなければならない背景があるからです。
外務省:国際的な議論や協力の調整、および途上国支援
経済産業省:産業振興や企業支援の観点からSDGs経営を推進
環境省:脱炭素社会や循環型社会づくりの推進
農林水産省、厚生労働省、文部科学省など:各分野での持続可能性向上施策を担う
ジャパンSDGsアワードはこうした省庁連携の取り組みの一環であり、選考プロセスでも複数省庁の専門家が関与しています。会宝産業のように環境側面(環境省)だけでなく、雇用創出や国際展開(経済産業省・外務省)など多角的な評価を受けることができる仕組みが整備されているのです。
4-2. SDGsアワードと企業の相乗効果
ジャパンSDGsアワードを受賞した企業には、以下のようなメリットがあります。
社会的信用力の向上:政府が認定するアワードのため、取引先や投資家、ステークホルダーからの信頼が高まる
PR効果とブランド向上:メディアでの報道や、社内外への広報活動を通じて企業イメージが向上
ネットワーク拡大:他の受賞企業・団体や政府機関との連携が生まれ、協業や情報交換が活性化
海外展開への後押し:日本政府からサポートを受けやすく、国際機関や海外政府との共同プロジェクトに参加しやすい
会宝産業の場合、既に海外事業の割合が高いものの、ジャパンSDGsアワード受賞を機にさらに海外政府からの注目度が増し、現地でのリサイクルシステム構築や技術研修プログラムの依頼が急増したようです。日本企業としての信頼に加え、SDGsアワード受賞企業としての信用が加わったことで、資金調達や海外プロジェクト参画にも有利に働くと考えられています。
4-3. 産官学連携による相乗効果
SDGsアワードを受賞する企業の多くは、産官学連携(Industry-Government-Academia Collaboration)を積極的に活用しています。会宝産業も石川県や金沢市などの自治体、公益財団法人石川県産業創出支援機構(ISICO)などと連携し、ITシステム開発や研修プログラムに関する補助や助成を受けてきました。また、地元大学との共同研究や人材交流も進めています。こうした産官学連携の体制は、中小企業が自社だけでは対応しきれない技術開発・海外ネットワーク構築を後押しする重要なファクターです。
日本のサステナビリティ推進政策においては、大学が研究開発拠点として企業に技術協力を行い、自治体や金融機関が資金や法的制度のサポートを担う構造が強化されつつあります。会宝産業のように国際認証を取得し、高度なトレーサビリティシステムを構築できた背景には、IT開発や標準化推進をサポートする産学官連携が大きく寄与しています。
5. 会宝産業の取り組み(1):「静脈産業」構築と社会インパクト
5-1. 中核ビジネスとしての自動車部品リユース
会宝産業の事業の中心は、自動車リサイクル法で定義される使用済み自動車の解体・適正処理および、中古部品の販売・輸出です。廃車からエンジンやライト、タイヤ、内装品など再使用可能な部品を外し、品質テストやクリーニングを実施したうえで、海外バイヤーに販売します。国内では既に耐用年数を過ぎた車両でも、海外ではまだ数万キロ~十万キロ以上走れる車両が多く需要があるため、中古部品市場が拡大しているのです。
部品リユースによって得られる主な社会的・環境的インパクトは以下のとおりです。
資源の節約:新品部品を製造する際に必要となる鉄、アルミ、プラスチックなどの資源消費を削減
CO2排出抑制:新規製造・廃棄に伴う温室効果ガス排出の削減
環境汚染防止:廃油やフロンガスの適切処理により土壌・大気汚染を防ぐ
海外雇用創出:海外の修理工場や部品流通業者に中核ビジネスを提供し、メカニックの仕事を増やす
5-2. 製品ライフサイクル全体への寄与
会宝産業のビジネスは自動車産業のライフサイクルの後半部分(使用済み自動車の解体・再利用)に当たりますが、同社の存在があることで日本国内の自動車メーカーやディーラーは廃車処理負担を軽減でき、海外消費者は高品質の中古部品を安価に入手できるというバリューチェーン全体の効率化が進みます。まさにサーキュラーエコノミーの考え方そのもので、線形(リニア)経済から循環(サーキュラー)経済への転換を具現化しているのです。
特に、新興国では中古車や中古部品の需要が高く、適正処理が行われないまま燃やされたり放置されると、深刻な環境破壊につながります。会宝産業は解体段階でガソリンや冷媒ガスなど有害物質を除去し、リユース可能な部品は販売・輸出、金属・ガラスなどはリサイクルするプロセスを徹底することで、地球環境負荷を大幅に削減できます。これらが評価され、国際機関やNGOからも支援要請が増えているのです。
5-3. グローバル展開と独自システム
会宝産業の取り組みには、グローバル展開とITシステムの活用が不可欠です。前述のKRAシステムを導入することで、世界中からのオーダーに対し部品の在庫や状態、走行距離などを瞬時に把握・対応できます。部品一つひとつにバーコードを付与して履歴を管理することで、トレーサビリティが確保され、海外のバイヤーも安心して取引可能となります。
加えて、海外に合弁会社やパートナー企業を持ち、現地での自動車リサイクル工場や部品販売ネットワークを構築。タイでは合弁会社「KAIHO THAILAND」を設立し、現地解体や部品供給を最適化しています。ケニアやインドでも現地企業と提携し、日本型の解体技術や環境配慮型設備を持ち込み、廃油の回収や廃タイヤの再資源化など技術指導を行っています。これら一連の事業活動が、国境を超えたサプライチェーンの持続可能性向上に繋がっています。
5-4. 社会的インパクト:雇用創出と技術移転
会宝産業の活動が社会にもたらすインパクトとして、特に注目されるのは海外現地での雇用創出です。中古部品を使って車の修理を行う整備工場や販売店が増え、メカニックや販売員、倉庫管理スタッフなどが雇用機会を得られるのです。また、ケニアやインドなど新興国では廃車の解体プロセスが未成熟で、有害物質の不適切な放出が深刻な健康被害を及ぼすケースが少なくありません。会宝産業は現地の若者や貧困層を研修生として受け入れ、日本の解体技術や適正処理スキルを教える取り組みを進めています。
これにより、現地の人々が職業訓練を通じて技能を身につけると同時に、環境汚染防止や労働安全衛生の意識が高まります。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」や「OECD多国籍企業行動指針」でも、企業が途上国での事業を行う際は現地コミュニティへの配慮と人材育成を求めていますが、会宝産業はそうした国際要請にも合致した形でビジネスを展開していると言えるでしょう。
6. 会宝産業の取り組み(2):CO2削減・資源循環への具体策
6-1. CO2削減効果の算定と科学的根拠
会宝産業が事業を通じて生み出す環境メリットの一つとして、CO2排出削減効果が挙げられます。自動車を新たに製造する場合と比較し、中古部品を再利用することで生産時のエネルギー消費や原材料採掘・運搬に伴う排出を大幅に削減できます。さらに、使用済み自動車から適切にフロンガスを回収すれば、温室効果ガス排出量の低減につながります。
同社はSBTi(Science Based Targets initiative)の認定を取得しており、2030年までにスコープ1+2で43%削減(2020年度比)という科学的根拠に基づく温室効果ガス削減目標を掲げています。また、スコープ3も含めたバリューチェーン全体の排出量を測定し、2030年に向けた削減戦略を策定中とのこと。国内の解体工場での電力を再生可能エネルギーに切り替えたり、重機やフォークリフトを電動化するといった取り組みを進めており、自社オペレーションからの排出削減にも積極的です。
6-2. 中古部品リユースによる削減量の大きさ
会宝産業が1年間に扱う使用済み自動車の台数は、公式ウェブサイトや公開レポート等によれば9,600台前後と言われます(年度によって変動あり)。1台当たりに削減できるCO2排出量を概算すると、年間で数万トン~10万トン規模の削減効果が見込まれるとされています。例えばエンジン1基あたりの製造に必要なエネルギーや原材料のCO2排出が大きく、中古エンジンの再利用は新品製造の何割ものCO2削減につながるとの分析があります。
ただし、これらの具体的削減量の算定方法については、部品種類ごとのライフサイクルアセスメント(LCA)の前提や輸送時の排出量などにも左右されるため、会宝産業が独自に実施した推定値と、行政や学術機関の計算には若干の差異があります。そのため同社は、外部の研究機関や官公庁と協力し、より精緻な算定モデルを構築しようとする取り組みも進めている模様です。
こうしたデータを公表することで、会宝産業自身のイノベーション促進や、他社との比較・協業を通じた産業全体の排出削減に寄与できるという考えが背景にあります。
6-3. 廃油・廃プラスチック処理技術の普及
使用済み自動車から排出される廃油や廃プラスチック、さらに廃タイヤなどは不適切に処理されると深刻な環境汚染要因となります。とりわけ新興国では、整備工場の路上や河川に廃油を投棄したり、野焼きによるダイオキシン発生といった問題が横行しがちです。会宝産業はこうしたマイナスの影響を防ぐため、海外の合弁会社や現地政府との連携プロジェクトの中で、日本から輸出した機材・設備やノウハウを広めています。
具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。
廃油の回収設備:専用のドレン装置や貯蔵タンクを導入し、解体車両からの廃油を回収したうえでリサイクルや適正処理を行う
廃プラスチックの破砕・再生利用システム:解体工程で出る内装やバンパーなどプラスチック部品を、可能な限りリサイクルルートへ回す
廃タイヤのリユース・再生ゴム化:まだ使えるタイヤは海外で再利用し、使えないタイヤは人工漁礁やアップサイクル素材に転用する試み
これら技術や設備の導入にはコストや現地法整備の課題もありますが、日本政府の補助事業や開発援助機関のプロジェクト枠組みを活用しながら拡大を図っています。その結果、会宝産業の海外合弁先やパートナー企業は廃棄物処理ビジネスも手掛けるようになり、環境汚染の防止・緩和に加え新たな雇用創出が進んでいます。これらはSDGsの「12.つくる責任つかう責任」や「6.安全な水とトイレを世界中に」「8.働きがいも経済成長も」など、複数目標への相乗効果を狙った取り組みと言えます。
6-4. 中古自動車部品のアップサイクル事例
近年、会宝産業では単なるリサイクル(素材ごとの再資源化)だけでなく、アップサイクル(廃材に付加価値を与えて新たな製品を生み出す)への挑戦も見られます。例えば、廃車から取り外したシートを活用したカバンや家具などを製作し、デザイン性と機能性を兼ね備えた製品として販売する試みです。これは循環経済におけるバリューチェーンの高度化の一環であり、ファッション業界や異業種とのコラボレーションを促す事例にもなっています。
さらに、廃タイヤを利用した人工漁礁の設置や藻場再生プロジェクトにも参画し、海洋資源の保全にも取り組んでいます。タイヤをただ焼却処分するのではなく、海中に沈めて海藻やサンゴなどが着床しやすい環境を作ることで、二酸化炭素の吸収源を増やし、生物多様性の回復を狙うプロジェクトです。このように、同社は解体事業を超えた幅広い領域で循環型社会を先導する企業として認知されつつあります。
7. 会宝産業の取り組み(3):サプライチェーンマネジメントとトレーサビリティ
7-1. KRAシステムと部品管理
会宝産業の特色として「KRAシステム」を用いたサプライチェーン・マネジメント(SCM)が挙げられます。KRAシステムとは、解体した自動車部品一つひとつにバーコードを付与し、製造年、車種、走行距離、損傷箇所、在庫状況などをクラウドデータベースで管理する仕組みです。これにより、海外バイヤーが必要な部品情報をオンラインで確認し、発注することが可能となります。
従来の解体業では「部品の寄せ集め」「感覚的な在庫管理」が主流だったため、ダブルブッキングや品質不良などのトラブルが起きやすい状況でした。KRAシステムを導入したことで、会宝産業は在庫管理の精度を高め、廃車1台当たりのリユース部品取り出し率を大幅に向上しました。結果として、売上拡大だけでなく廃棄物削減効果も高まり、サプライチェーン全体の付加価値創造につながっています。
7-2. サプライヤー監査とデュー・ディリジェンス
会宝産業は日本国内で引き取った使用済み自動車を解体するだけでなく、海外で解体合弁会社を設立したり、現地調達した中古車を輸出するビジネスも視野に入れています。その際、サプライヤーや提携先が法律や社会規範を遵守し、公正な労働条件を提供しているかどうかの監査(デュー・ディリジェンス)を行う必要があります。
とりわけ、子ども労働や強制労働、廃油・廃液の不適切処理、賄賂や汚職リスクなど、新興国で注意すべき課題は少なくありません。会宝産業は自社が助長していないかを確認するため、一定の基準を設けてサプライヤー選定や契約更新時のチェックを行っています。こうした監査体制は、経済協力開発機構(OECD)の「多国籍企業行動指針」や国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」が求める責任あるサプライチェーン構築の観点からも重要です。
7-3. 人権配慮とサプライチェーンの包括性
会宝産業は事業をグローバルに展開する中で、「誰一人取り残さない(Leave No One Behind)」というSDGsの基本理念を踏まえ、現地の社会的弱者や女性、若者が雇用機会を得やすいよう配慮した採用を行うケースもあります。ケニアやインドでは、同社が現地パートナーと開設した解体施設や整備工場で、職業訓練を実施して若年層の技能を底上げし、貧困家庭からの就労を後押ししています。
また、ジェンダー平等の観点から女性従業員の雇用促進や昇進機会を増やす取り組みも進めています。解体作業や重機オペレーションといった現場仕事は男性中心となりがちですが、社内制度や研修を整備することで女性が活躍しやすい環境作りを進めているとのこと。こうした人権配慮やダイバーシティ推進は、サステナブルなサプライチェーンを確立する上で不可欠な取り組みと言えるでしょう。
8. 会宝産業の取り組み(4):海外展開と現地雇用創出、人材育成
8-1. アジア・アフリカ・南米への事業拡大
会宝産業はタイ、ケニア、インド、ブラジルなど、各地で合弁会社やパートナーシップを結んでいます。主な目的は、(1)現地での解体・リユースビジネスの構築、(2)中古部品の直接輸出・販売、(3)日本式リサイクル技術の普及支援の3点です。特に、新興国では新車価格が高額であるため、中古車や中古部品の需要が非常に大きい一方、法規制が未整備で環境汚染や非正規労働の問題が顕在化しています。同社の参入により、現地政府がリサイクル業関連の法律整備を行うなど、制度面でも変化が生まれています。
8-2. 人材育成プログラムの実施
現地で使用済み自動車を解体するには、日本の基準で見れば当たり前となる安全手順や保護具の使用、廃油・フロンの正しい回収などを習得する必要があります。しかし、そうした知識やインフラが不足している地域では、解体工の労働環境が危険だったり、廃油が土壌に垂れ流されるケースが多く存在します。会宝産業はJICAなどとも連携し、現地政府やパートナー企業のスタッフを日本に招いて研修を行うプログラムを展開。実際の解体ラインやKRAシステムを体験し、技術面・管理面のノウハウを習得してもらうことで、帰国後に現地での適正処理をリードできる人材を育てています。
これによって、単に中古部品の輸出で終わるのでなく、現地の解体工場を自立的に運営できる体制を整え、最終的には会宝産業を介さなくても適正処理が広がる土台づくりを目指しています。インドでの事例では、州政府や民間企業との協力で大規模解体施設の設計と運営ノウハウを提供し、雇用機会増大にも貢献していると報じられています。
8-3. 包摂的ビジネスモデルと社会課題解決
会宝産業は海外展開に際し、貧困層や若年層、障がい者など、就業機会に恵まれない人々を受け入れる仕組みに力を入れています。例えば解体工程の一部を委託する際に、地元NPOや教育機関と連携し、研修を受けた者を積極的に雇用する枠を作る事例などが挙げられます。また、農村部から都市部に出稼ぎに来た人々に対して住宅斡旋や生活支援を行うケースもあるようです。
こうした包摂的アプローチは、SDGsの根幹である「誰一人取り残さない」理念を体現しており、SDGsアワードにおいても高く評価されたポイントの一つです。会宝産業としては、解体・輸出ビジネスの利益を追求しながら現地の社会課題解決につながる活動を両立させることで、持続的な関係性を築けるメリットがあると考えられます。それは海外の政府やコミュニティに対し、「日本企業=搾取的」というイメージを払拭するうえでも重要な要素です。
9. 会宝産業の取り組み(5):GRIスタンダードに見るガバナンス・マネジメント手法
ここでは、世界標準のサステナビリティ報告フレームワーク「GRIスタンダード」の観点から、会宝産業のガバナンスやマネジメント手法を整理してみます。GRIスタンダードは大きく3つのシリーズ(共通スタンダード=GRI 1, 2, 3/セクター別スタンダード/項目別スタンダード)から構成され、企業が経済・環境・社会インパクトを一貫した枠組みで報告できるように定められたものです。
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