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Scenting Director 原 三由紀-Scenting Design Academy 卒業生インタビューVol.1(前編)
卒業生maoが Scenting Design Academyの講師・卒業生にこれまでと、今、これからを聞いていきます。
今回ご紹介するのは、株式会社TREBLEの代表を務める原 三由紀さんです。TREBLEは企業や個人のブランディングのコンサルティングを行う会社で、三由紀さんはブランディングのためのアートディレクション、香りを使ったScenting ディレクションなどを行っています。また、ご自身でアロマブランド『indulgem』を手掛けています。三由紀さんには手がける事業やブランドのこと、Scenting Design Academyを受講した理由などお話を伺いました。三由紀さんはディレクターコース、デザイナーコース(座学)を修了されています。卒業生maoとは、ディレクターコース受講1期生として同級生です。
インタビューの様子を前後編に分けてお届けいたします。
(後編はこちら)
香りもブランディングに活かせるんです
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――会社を立ち上げた経緯、香りの事業を始めた経緯を教えてください。
前職ではブランディングの会社に所属して約8年半働いていました。実はめちゃくちゃ激務だったんです。休みは基本なし、年間出張250日という生活で…24時間365日仕事をし続けている状態でした。仕事は楽しくて充実してはいたんですが、2020年のコロナ禍が働き方を見直す機会になりました。もともと体力的にも "この激務を一生続けるのは難しいのでは?" と感じていたので、改めて自分がどういう働き方をしたいのか、どういう生き方をしたいのかを考えるようになりました。自分のペースで仕事をしてみたいと思ったのが起業の動機になりました。
――起業しようと思ったタイミングで香りの事業をすることも考えていたのですか。
たしか、香りの新規事業を始めることは起業を決めた後に決心したと思います。自分ができることを考えたとき、ブランディングとデザインの仕事がまずは思い浮かびましたが、どうせ起業するんだったらオリジナルの事業、自分だからこそできる新しい事業をやりたいと思ったんです。
そこで、自分の "好きなこと" や "得意なこと" または "お金を投資してきたこと" の中から事業化できることないかなと考えていました。一番に頭に浮かんだのは大好きな美容やファッションでしたが、競合も多くすでに成熟している業界だと思うのであまり成功するイメージが湧かなかったんですよね。
一方、香りはずっとアロマが好きで、趣味として楽しんでいたものの一つでした。香りの世界はまだまだメジャーになりきれない部分があるというか…興味がある人だけに限定されてしまいがちな分野になっていると思ったんです。そこをもう少し一般的に変えていけないかなと。ビジネスとしての可能性がまだまだある世界に感じられたんですよね。特に天然の香りに限定すると、ファッションや美容に比べて競合が少ないし、ビジネスとしての発展の余地や手付かずのところがまだまだあると感じたんです。
そこから起業のためにビジネスプランを考えたり、香りの学びを深めていたりしました。香りは"空間をブランディングする" と言えると思い、香りによるブランディングの事業を新規事業としてスタートしました。
――Scentingディレクターはどんなお仕事ですか。
企業のコンセプトに合った香りをつくって、オフィス・店舗やイベントを香りで演出していく仕事です。自分で香りをつくるわけではないので、企業(ビジネス)とクリエイター(Scenting デザイナー)の間に立って、香りによる空間ブランディングをカタチにしていく調整役だと思っています。
――仕事の流れを教えていただけますか。
まずは会社が大切にしていることや、どうありたいか、香りによって何を実現したいか、などをヒアリングします。コンセプトや香りを活用してどういう効果を得たいかなどをまとめ、方向性を提案します。お客様と意見交換をしながら作成する香りを具体的に決めていきます。その際に香りのラフをつくるところまでは私自身でやっています。
――香りのラフですか!?
ざっくりと香りの方向性が分かるような精油ブレンドのサンプルですね。例えば、お客様と「ハーバル系の香りでいこう」となったとしても、言葉だけでは共通認識がとれているかあやしいと思います。このときのブレンド精油のサンプルを香りのラフとよんでいます。
「この香りの系統で行こう」というところまで調整できたら、その香りをブレンドのプロであるScenting デザイナー(以下デザイナー)にお渡しして、ラフの香りから大きく外れない範囲で複数の香りの作成をお願いしています。その香りを比較検討しながら、お客様とディスカッションしつつ最終的な香りを決めています。
――ディレクターで香りのラフが作れるっていうのは特殊ですよね。
ラフまでは自分でつくった方が、自分が思ったものに近いものができるなというのを試行錯誤の結果、実感したので、TREBLEではそこまでをディレクターの仕事だと考えています。
ただ、最終的な調香はプロのデザイナーにお願いしています。アカデミーでは、まずディレクターコースを受講した後デザイナーコースの座学を受講しました。ディレクターの仕事をしている中で、お客様に伝わりやすい香りのラフづくりに、精油の知識を深め、ブレンドの知識や技術をあげることが必要だと思ったからです。
――どんな試行錯誤をされてきたのですか。
文字で香りのイメージをデザイナーに伝えて香りをつくったこともあるし、香りのラフをデザイナーにお渡ししたこともあります。あとは自分でつくり込んだ香りをそのまま商品化してもらったこともあります。その中で自分のイメージにより近い香りに仕上がったのが、香りのラフをデザイナーに渡し、調香してもらうパターンでした。
――ラフの香りをご自身で調香する分、お客様との会話の濃さは変わりましたか。
そうですね。言葉だけで香りの説明をしていると、お客様と共通のイメージが描けているか不安になると思うのですが、実際にラフとしてつくった香りを持っていって、一緒に体験してもらいながら「こっちかな?」「あっちかな?」「もうちょっとこうかな?」と会話をした方がお互いの感覚を理解しやすいです。その過程自体が楽しいので、お客様と楽しい時間を共有できています。
――Scenting ディレクターとしての難しさってありますか。
ディレクション自体は、どちらかというと楽しさを感じることの方が多いです。ただ、私が主なクライアントとしている中小企業にとっては香り以前に、デザインによるブランディングもまだ未成熟な企業が多いと感じているんです。「香りでブランディング」という概念は、たぶんデザインによるブランディングのさらに先にあります。会社のデザインを整えた上で更に差別化したいと思ったときにはじめて出てくるのが、香りです。それらの啓蒙活動をまずやっていかなきゃいけないというのは、広げていく難しさの一つかなと思います。
――確かに自分の事業を広げるというだけではなく、Scenting Design の文化そのものを日本に広げていく必要がありますよね。
そうなんです。でも、クライアントさんに例えば香りをオフィスに試験的に導入していただいたり、効能や効果をご説明したりすると、香りの良さに共感していただいたり、腑に落ちてくれる方が圧倒的に多いです。きちんと伝えれば、香りをビジネスに取り入れることに納得感を感じていただけると感じています。説明すれば理解してもらえる、実際に香りを導入したいと思ってもらえているので、手応えは難しい中にも感じています。そして、香りを導入されたあるクライアントさんは、訪問した方がみんな香りに気づき、話題にしてくれている、と嬉しそうに伝えてくださいました。このように香りの可能性が伝わっている実感があるからこそ、今もこの事業を続けています。
――仕事の楽しさはどんなところに感じますか。
お客様の会社のことを詳しくヒアリングして、今この会社にはこんな香りが必要だろう、こんな風に導入するといいだろうと、香りのコンセプトの提案をした時にお客様から「こんなにうちの会社のこと理解してくれて深く考えてくれるなんて」と感動していただいたことがあります。それはすごく印象に残っていて、この仕事してよかったと強く思いました。香りを通して相手への理解を深められるのは面白いし、この仕事の醍醐味でもあるかなと思います。
――それって三由紀さんがブランディングのディレクションをされてきたからできることですよね。
これまでのディレクションの経験はすごく活きていると思います。前職からアートディレクションはやっているんですけど、それと同じことを香りでもできないかなと思ったのが、そもそもScenting ディレクションをしたいと思ったきっかけだったんですよね。
私自身が調香を1から学びデザイナーとしてプロを目指すとなると道は長い。でもディレクターに徹するならば、これまでのディレクションの経験を最大限活かし、今すぐデザイナーと企業をつなぐ役に立てると思ったんです。
香りは「目的」ではなくて「手段」
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――デザインと香りのディレクションって繋がるところがあるんですか。
すごくあると思います。
香りもデザインも「目的」ではなくて「手段」として活用したいと思っていますね。
デザインも目的になったら「オシャレなのができた!以上!」だけど、そのデザインを生かして会社にどんな印象を与えられるとか、効果があるとか、メリットがあるとか。その先にあるものを見据えていかに提案できるかがブランディングだと思います。
香りも「良い香りできた!わーい!」で終わりにしたくはないんです。その会社を表現する香りをつくってその香りを体験した人にどんな印象を与えられるか、どんな効能があるか、どんな風に活かせるか。香りを手段に何ができるか、というのはデザインと同じ思考回路で考えるようにしています。
アカデミーで学んだ香りを置き換える手段
――改めてアカデミーのディレクターコースを受講された理由は何だったんですか。
「香りのディレクション」がしたいと思って自分の会社で事業を始めました。教えてくれるところがなかったので、アートディレクションを応用して我流で香りのディレクションを始めました。我流がゆえにこれで本当に良いのかな…、と思いながら手探りでやっていた感じでした。香りに特化したディレクションの方法が知りたい…そんなことを事業を広げながらずっと考えていました。本当にいくら調べても精油を使った香りのディレクションを教えてくれるところは見つからなかったんですよ。
――三由紀さんにとって、アカデミーの開校はすごく良いタイミングだったんですね。
そう!本当に奇跡的なタイミングでした。カリモクで開催されたワークショップ(2023年4月にアットアロマ社主催の『ARCHITECTURE×SCENTING DESIGN 建築のための香り展』がKarimoku Commons Tokyoで開催された。その際にアカデミーによるワークショップが行われる)に参加したらアカデミーが主催していました。ワークショップで、スクールを立ち上げるんですという話を聞いてチラシをみたら、ディレクターコースがありました。「え!私が教えて欲しいと思っていたことを教えてくれる学校が今できるってこと?!」と歓喜したのを覚えています。その後、申し込み開始になった途端に申し込みました。私は申し込み第一号なんじゃないかって思っています(笑)。
――カリキュラムもじっくり見て受講を申し込んだんですか。
カリキュラムは、ほぼ見ずに申し込んでいます(笑)。どちらかというと経験を積んでいる方から直接学べるということに価値を感じました。
――講師の皆さんがディレクターであり、デザイナーですもんね。
そうそう。そのときまで、”その道のプロってそもそも日本にいるのかな?” とすら思っていました。そのときはプロである講師から直接話を聞けるということがアカデミーの最大の価値だと感じていたと思います。自分の先をすでに走っていて、経験豊富な方が、成功も失敗も経験したうえでの現時点での香りによるディレクションの最新版を教えてもらえるってことだなと。
――実際に受講されてみて、いかがでしたか。
授業では、お客様への実際の提案資料もたくさん見せてくれました。実際に使われた提案資料をそのままテキストとして入れ込んでくれていたので、お客様にどんな提案をしているのか、考えるべきトピックはどんなものがあるのか、提案資料にはどんな項目を入れているのかなど仕事の現場でのリアルが学べました。
あとは香りを色で表している座標を学べたのがすごく参考になりました。
香りを相手に理解してもらうのにどんなツールや手段を使っているのか、目に見えない香りを表現する方法に言葉以外になにがあるのか、これは本当にめちゃくちゃ勉強になりました。実際にお客様への提案に使っているし、資料をつくるのもすごく楽になりました。
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――ディレクターコース最後の授業の三由紀さんのプレゼンテーションは圧巻でした!
あのときのプレゼンテーションと似ていることを、実際にお客様にもプレゼンしています。
香りを伝えるときには、目に見えないし言葉だけでも伝わらないので、何かに置き換えて伝えることが大事だと思うんです。
まずは「言葉」に置き換える、でも言葉だけでは足りないので、それを色でも表現できるというのは大きな発見でした。カラーチャートやあとはインテリアの座標なども活用して、図説を用いながら "ここら辺の香り" と説明もできるっていうことを学んで、各段に分かりやすく伝えられるようになりました。アカデミーでは、香りを人に伝えるための置き換えの表現方法をたくさん学ぶことができました。
――香りを座標に置き換えて説明をしたときのお客様の反応ってどうですか。
お客様に3つ香りを提案することが多いんですが、そのときは座標を活用して説明しています。最初はざっくり「このあたりの香りをつくります」と説明して大きいマルをつけます。その中で、一個目はこの辺り、二個目はこの辺り、とさらに範囲を絞ったマルをつけて説明していくんです。そうすると、視覚的に伝えられるようになるので相手の理解度があがっているのを感じます。
香りに詳しくない人にでも分かるように伝えるのがプロだと思うので、分かりやすさは追求しています。ビジネスとして広げていく上ではこの伝える能力がとても重要だと思っています。
――香りって一人一人が受け取る感性による部分もあるから難しいですよね。
そうですね。私はそれこそがディレクターの仕事、腕の見せ所かなと思っています。人と人の間に立って調整しながら、みんなにとって納得できる良きものにまとめあげていく。それがディレクターの仕事かなと思っているんですよね。
私は、Scenting デザイナーのことを、新しい香りを生み出すクリエイターだと思っています。クリエイターの言語とビジネスの言語はまた違うので、ディレクターが間に立って通訳のような役割をしながら、お互いの考えや意見を融合させて、一個の答えを見つけていく。ビジネスの現場にクリエイターの能力が合わさって、香りというカタチあるものが誕生していく瞬間をすばらしいと私は感じていて、そんなディレクターの仕事がとても楽しいなと思っています。
>>後編はこちら
◯株式会社TREBLE HPはこちら
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[取材・文]卒業生mao(Scenting Design Academy 卒業生)