Vol.32 『作者がこめたメッセージ』とは…。
『「クリエイターの本質」が ” 代表作以外 ” に現れる場合がある』
…こんな意見を聞いたことがあるような、無いような(←どっちだよ!)。
まぁ、今回はそんなお話で。
先日(2024年3月1日)、漫画家の鳥山明さんがお亡くなりになったとの事で、東西南北、有名無名を問わず、様々な方が弔意を示されている訳ですが、私自身は週刊少年ジャンプを購読した事がなければ、「Dr.スランプ」や「ドラゴンボール」のTVアニメ版も ちょくちょく見る程度だったので、 ” 作り手としての凄み ” を頭では理解しつつも、とてもファンといえる存在!?ではないのです。
しかしそんな私でも素直に唸った、鳥山明さんによる作品がありまして、それが2023年に劇場公開されたアニメーション映画「SAND LAND」。
※下記は予告編です↓
あらすじは…
『水が貴重な王国 ” サンドランド ” の砂漠には、悪魔の王子 ” ベルゼブブ ” が出没し、国王軍の兵士たちを震え上がらせていた。
そんな中、田舎町の老保安官 ” ラオ ” は水不足に苦しむ住民の為に、水源地探しに旅立つことを決意し、 ” ベルゼブブ ” に協力を依頼するのだが…』
…といったものです。
(実は興行成績が伸び悩んだこともあり、インターネット上に「コケた!コケた!」とセンセーショナルに書き散らかす方もいらっしゃったのですが、その反面 劇場で鑑賞した方は ” 絶賛 ” または ” 賞賛 ” するという、両極端なリアクションが見受けられたのが印象的でした。)
ちなみに、鳥山明さんの作品や作風について「エンターテインメントに徹して、社会的メッセージを込めなかったから偉い!」と評するコメントをSNS上で見かけたのですが、『いやいや「SAND LAND」を観ても同じことが言えるのですか?』と言いたい所です。
確かに本作も一見すると、 ” めっぽう強いベルゼブブのキャラクター性 ” 、 ” 時おり挿入されるギャグ要素 ” 、 ” 手に汗にぎる戦車バトル描写 ” 、 ” コメディーリリーフ的な「スイマーズ」のおかしみ ” 、 ” 久々に戦車へ乗り込んだ老兵士のリアリティあふれるリアクション ” …等々、硬軟の見せ場たっぷりの「ド直球なエンターテイメント作品」です。
(なお、劇中描かれる ” 人間と多士済々な魔族の距離感 ” は、水木しげるさんが描く ” 人間と妖怪の距離感 ” に近いものを感じましたし、 ” 適度なデフォルメ感が味わい深いメカニック描写 ” は、 ” 宮崎駿監督作品のメカニック描写 ” に近いセンスを感じました。)
しかし、エンターテイメントの枠組みに徹しつつも、物語で『忌むべき事』として描かれるのは「ジェノサイド」であり「プロパガンダ」であり「虚構の英雄」であり「傀儡政権」であり…。
そんな中、過去の過ちと向き合い、それを乗り越えようとする ” とあるキャラクター ” の描写や、そんな姿に感化されて、その協力者に転ずる ” あるキャラクター ” の描写は『たとえ不正がはびこる世界であっても、人間はこうあってほしい!』という作り手の願いが込められている様に感じるのです。
(まぁ唯一の弱点は、「意味を持った女性キャラクターが一切登場しない」…といった辺りかもしれませんが…)
何はともあれ、近年の日本のアニメーション映画は、2022年の『THE FIRST SLAM DUNK』や、2023年の『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が大いに話題となりましたが、『「SAND LAND」もお忘れなく!』と声を大にして言いたい所です。
では、今週も締めの「吃音短歌(注1)」を…
閉ざされた 想いが胸を 突き破る 声出ぬ時に よぎる幻想
【注釈】
注1)吃音短歌
筆者のハンディキャップでもある、吃音{きつおん}(注2)を題材にして詠んだ短歌。
この中では『「吃音」「どもり」の単語は使用しない』という自分ルールを適用中。
注2)吃音(きつおん)
かつては「吃り(どもり)」とも呼ばれた発話障害の一種。症状としては連発、伸発、難発があり、日本国内では人口の1%程度が吃音とのこと。