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四人の男たちを文学フリマ京都9に連れて行った

文学フリマ京都9に出店した。

開場前に撮影出来なかった

noteで小説を書くようになり、周りの方々が文学フリマを出店者・来場者として楽しんでいる姿を見て、出店したい、自分の本を売りたいと言う気持ちが高まっていった。

決定的だったのは、創作大賞2024での落選だった。
「町中華屋のマイコー」が予想外に中間通過し、そして落選したことで、この作品には可能性があるものの、まだまだであることに気付く事が出来た。きちんとこの、「おまけ」「続編」であったマイコーを、独立した作品に仕上げたい、と思った。
と同時に、「本編」であった「針を置いたらあの海へ」がたくさんの方からお褒めの言葉を頂いた事も、そしてそれでも中間選考通過しなかったことも、きっかけのひとつになった。

この作品たちを、自力でなら売りに行けるのでは? と。

そこから、10月から1月19日まで、休みなく文フリ出店準備をしていた。
歴戦の「文フリ猛者」と呼びたくなるような方々が、沢山のアドバイスをくれ、その背中で「文学フリマの出店者になるとはこういう事だ」と示して下さった。

自分たちの作品を届けたいと奔走する人達は、大前提として、その作品は良いものである、という自負があるのだと思う。それは、売る者としての誠実さだ、と思う。
文学フリマでたくさんの人に買って欲しいと思うなら、宣伝が非常に大切だということは身に染みて分かったが、良くないものを宣伝しまくるのは詐欺と同じだ。強い言葉になってしまうけれど、売るというのはそういう事だと思う。

でも、宣伝しまくった。
私が連れて行く「針を置いたらあの海へ」のレオとたっちゃん、「町中華屋のマイコー」のミライくんとユキさんという四人の男たちは、間違いなく愛すべき人達で、彼らの物語は絶対に面白いぞ、と信じて1ミリも疑わなかった(今も)。
キャラクターたちは、私の頭から生まれてはいるけれど、基本的にこれまでの人生で出会った色んな人たちの要素が組み合わさっている。だから、「確かにこの世界にいる人たち」の結晶のようなものだ。愛すべき人達で当然なのだ。
彼らが愛されなかったら、それは自分の責任。少なくとも「針を」「マイコー」に関しては、彼らの魅力をきちんと映せた、という自信があった。
M-1グランプリ2008決勝におけるオードリー 春日俊彰(敬称略)の「(自信が)なきゃ立ってないですよ、ここに」というやつだ。自分に自信の無い春日は、観ている人を不安にさせる。
春日と、令和ロマン高比良くるまにあやかり、文学フリマ京都9当日はガチガチに髪を固めて臨んだ。

会場に着いて真っ先にしたことは、「トイレでヒートテックを脱ぐ」だった。予想以上の京都の暖かさと大荷物のせいで、みやこめっせに到着する頃には汗だくだった。髪を固めておいて本当に良かった。

ブース装飾に凝りまくっていたので、1時間で設営出来るかずっと不安だったが、事前に8時間予行練習したのと、その際に設営見取り図を描いていたお陰でギリギリ間に合った。

今後初出店予定のみなさま。
見取り図を描こう。
当日は頭の回転が0.5倍速になります。
過去の自分から指示書を貰いましょう。

写真を撮り「設営完了しました!ご来場お待ちしてます☆」とツイートしたかったが、養生テープ貼りながら開場の拍手をしているような状態だったので叶わず。

そこからは、怒涛だった。
席につき、直前に作った帯を文庫本に巻かねば、取り置き分をチェックせねばとゴソゴソやっている間に、どんどんお客様がやってくる。
ずっと「すみませんバタバタしてて」と言っていた気がする。
事前に作った在庫管理簿や売上管理簿の記帳は、開始15分後くらいには諦めた。

noteやXから取置きして下さった方々や、宣伝を見て来店して下さった方々。怒涛の宣伝活動は本当に効果があったのだと実感した。と同時に、「買ってください」と言うことは、「私を信頼してください」と言うことだと気づき、今更ながらに不安が押し寄せた。
自分が文学と信じるものを売る、それで良いのだけれど、その上で「買ってください」と言葉を連ねるなら、それは「これが文学だという信念を共有してください」と言うことなのではないか、と思った。
購入した方がそこまで重く捉えているかは分からない。でも、私の販促スタイルから考えると、そういうことになる。

ブースに立ち寄った方々は皆真剣に話を聞いて下さって、サンプルを読んで下さって。適当に接する方は誰も居ない。本当に、この真剣さに応える作品になっているだろうかと不安になりながらも、店を構えた以上そんな姿勢で売るべきではないと打ち消しつつ、やがて慌ただしさでそれどころでは無くなっていった。

おすすめは何ですかと聞かれて答えるのは、ネット上で不特定多数に向けて宣伝するのとは全く違った。その方の顔を見て、この方はどの作品なら面白いと思って下さるだろう、と毎回悩む。それでも不思議なことに、「この方は私の作品を面白いと思うことはないのでは……」という気持ちになることはなかった。文学フリマの来場者の懐の深さというか、この会場にあるあらゆる文学を受け止めようという心持ちを感じた。
自分の中で描いていた「私の作品を喜んでくれるのはこんな人」という想像がいかにちっぽけなものであるかを知った。

印象的なお客様がいた。
おすすめを聞かれ、「針を置いたらあの海へ」をご購入頂いた。お会計をしながら、
「何かご覧になって来て下さったんですか」
と尋ねると、
「『みもすそ文庫』っていうサークル名を見たんです。関門海峡の、みもすそ川町のみもすそでしょう?」
と言われた。
そう。みもすそ文庫は、「針を置いたらあの海へ」の後半の舞台、関門橋および関門トンネル人道の所在地が由来だ。旅行(という名の推し活遠征)で関門海峡を訪れて居なければ、あの時の感動がなければ、「針を置いたらあの海へ」は生まれていない。
それどころか、関門トンネル人道を目にするまで、私にはもう書けることは無いのかな、と思っていた。
私の執筆のターニングポイントになった場所だと思っているので、それを忘れない為にサークル名にした。

そのお客様は、関門海峡にご縁があり、下関にも何度も訪れたことがある、と仰った。
その方に何も知らず「針を置いたらあの海へ」をおすすめし、買っていただけたことが嬉しかった。そして、対面だからこそ「みもすそ」がきっかけのご縁だったと知ることができた。
先に挙げた、大分ピリピリとした「売るとはこういう事」とは別の、「売るとはこういう事か」という感慨があった。

12時半ごろ、全ての商品が売り切れてしまった。
自分的には冒険だと思って刷った4作品55部が、見本誌3部を除いて全て旅立っていった。
嬉しいと思う間もなく、お客様に売り切れのお詫びと事後通販のお知らせをし続けた。

13時に、キンプリファンのお友達が売り子として手伝いに来てくれた。当たり前だが文学フリマも私の小説もキンプリとは全く関係がないのに、貴重な休日に手伝いに来てくれる有り難さ。
しかも私はひたすらアワアワしていただけだったのに、彼女は店番をしてくれた1時間、ブースに来た方の年代や性別、どんな話をしてどう対応したかをGoogleスプレッドシートで記録してLINEで共有するという、とんでもないしごできぶりを発揮してくれた……。凄すぎる。
私には出来ない。自分のものでないしっちゃかめっちゃかのブースで、商品説明しつつ事後通販をご案内し記録するだと……?
普段から仕事の出来る方だとは知っていたが、ここまでとは。ちょっとそのスキル本にしてくれない? と思った。多分売れるやつ。

Xやnoteで繋がったたくさんの方々にお会いできた。アイコンの画像ではなく直にお顔を拝見し、スマホ上の文字でなく声でコミュニケーションをすると、「この人からあの作品が生まれているのか」と感慨が深まる。
というか、「こんな穏やかな人がこの尖った作品を作っているのか……!」とか、「男性かと思っていたら女性でした(逆も然り。6名ほど性別を誤認していました。私は人というものを分かってなさすぎる)」とか。衝撃に近い驚きがあった。
創作物は、作者と完全に切り離すことは出来ない。それを不自由さとせず、丸ごと楽しめるのが文学フリマの良さなのかもしれない。あの場にいた出店一人ひとりのなかに、壮大な世界があって、それをどうにかこうにか1冊の本に閉じ込め、付けようもない値段を付けている。全てがその人の手によって作られた本というものは、こんなにも重いと知った。

くたくたになって乗り込んだ伊丹→宮崎の最終便で、鯖寿司を食べながら号泣していた。
1年前の今日、私は、初めて小説を書いて、全然読まれなかったんだよな、と思い出したからだ。
全然読まれなかった小説を数日後に読んで下さった方がいて、感想を下さった方がいる。その先も、自信を無くしたタイミングで、色んな方が感想を下さって、書き続ける事が出来た。
一連の文フリ準備をご覧になっていた方には分かると思うが、私はとても燃費の悪いエンジンだ。頻繁に空回りする。
エンジンが切れかける頃に不思議と、ガソリンをくれる方々がいた。私は、1人では書き続けられない。でも、それが良かったのだと思う。

創作大賞応募期間中、私はレオとたっちゃんというキャラクターに「私を東京の授賞式に連れて行ってくれ」と願っていた。
※当時は「町中華屋のマイコー」も、レオとたっちゃんの話だった
でも私は、ミライくんとユキさんというもう2人を加えた4人の男たちを引き連れ、京都に行くことが出来た。
彼らはまだ剛腕でも健脚でもないから、私が連れて行かないといけなかったんだな、そうするべきだったんだな、と気付いた。
燃費は悪いが馬力はある車で、男4人乗せて京都に行ったんだ。そして、彼らを下ろして、達者に暮らせと送り出して、身軽になって帰ってきた。
すごい。すごいぞ。
こんな未来があるとは、1年前には全く、全く想像していなかった。

この1年間関わって下さった、全ての方々に、改めて御礼申し上げます。


〜宣伝〜

事後通販やってます!
(2月中旬発送予定です)

今年の文学フリマ福岡に出店できるように、ふたたびの副業申請頑張ります。

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早時期 仮名子*文学フリマ京都9う-21
もっといい小説を書きます!

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