江戸時代の人々から学ぶ、サステナブルなアイデアvol.07
2030年までにSDGs17の目標を達成するため私たちにできることはなにか? わたしたちは、そのヒントを江戸時代の暮らしの中に見つけました。太陽と植物の恩恵を活用し豊かな物資とエネルギーをつくり出していた江戸時代の人々。衣食住のあらゆる面でリサイクル、リユースに基づいた循環型社会が築かれていました。その江戸時代の知恵を活かし、日常でできるアクションをはじめましょう。
<参考文献>
阪急コミュニケーションズ 江戸に学ぶエコ生活術
アズビー・ブラウン:著 幾島幸子:訳
江戸時代の夏には現代と同じくらいの猛暑年があったことが、江戸幕府の暦を作成していた天文方による気温観測記録などでわかってきました。この時代にはCO2排出量はあまり多くなく地球温暖化という現象によるものではないため、自然の周期的な気候変動が気温上昇の原因だったと考えられています。そのような暑い夏を、江戸の町の人々はどのように乗り切っていたのでしょうか。当時の暮らしを調べていくと現代でも活用できそうな知恵がたくさんありました。その事例をいくつかご紹介します。
「風通し」
人口が密集する都市部でも涼が取れるように、江戸の町の家には自然の力を巧みに利用するための設計が施されていました。その一例が、商人が店舗兼自宅として暮らしていた町家です。ほとんどの町家には裏庭や中庭(坪庭ともいいます)があり、そこに植えられた木の陰が湿気を生み、その湿気で空気が冷却されます。その冷たい空気が風に乗って家中を循環し、すべての部屋の温度を下げる効果があったそうです。農家の人々が暮らす家も、風通しの良いつくりになっていました。普段は引き戸で仕切られている部屋も、夏には引き戸を開け放すことで、土間から家の奥、その向こうの庭まで風が通るようになります。土間の湿っぽい空間が空気を冷却させ、それが家中を流れていくので夏の真っ盛りでもかなりの涼しさだったそうです。
現代の家は気密性が高く、ドアで個室化されている設計が多く見られます。ですが、2003年7月以降に建築された住宅には「24時間換気システム」の導入が義務化されていて、各部屋で換気をするというよりも住まい全体で換気をする考え方は、江戸時代の家の設計に似ているともいえます。この「24時間換気システム」が導入されていない家や、導入されていても暑さがこもっていると感じる時に家を涼しくする方法をご紹介します。
1. 窓を開けて、自然の風を通す
気温が下がった夕方や帰宅後に窓を開けて風を通し、外の涼しい空気と家の中の空気を入れ換える。開口部を利用して換気をする際は、部屋の対角線上にありできるだけ距離がある窓やドア同士を開けると効果的。
2. 扇風機・サーキュレーターで熱気を排出
ウォークインクローゼットなど窓がなく熱がこもりやすい場所には、扇風機・サーキュレーターを置き、窓や換気機能がある部屋へ向けて風を送り、熱を外へ排出する。
「遮光と冷却」
江戸の町家には店舗の正面入り口に深い庇(ひさし)があり、強い日差しや雨から家を守っていました。道行く人も連なる店舗の庇の下を歩くことで、暑い日も雨の日も快適に買い物を楽しむことができました。同じように家の軒も大きくせり出していて、家の外側にある縁側や作業場へ入り込む日差しや雨を遮る役割を持っていました。
家の外での工夫も見てみましょう。例えば町に張り巡らされた水路には、天然の冷却システムとしての役割もありました。住宅が密集する江戸の市街地には水路や川が縦横無尽に走り、涼しい風を吹かせていたのです。さらに、人々は真夏になると周囲の温度を下げるために、道に水をまく「打ち水」を実践していました。
現代の家の庇や軒は江戸時代に比べ短くなっており、家によってはない場合もあり、夏の強い日差しが家の中に差し込んでいるケースが多く見受けられます。そんな家やその周辺でも実践できる遮光と冷却の方法をご紹介します。
1. 日中はカーテンを閉めて外出し、帰宅したら換気する
窓から入る熱(日射)を極力減らす。家の中から防ぐなら遮光カーテン。窓の外に取り付けるすだれは、日差しを遮りながらも風は通すという優れもの。後付けできるタイプの庇もおすすめ。また、窓に貼れる断熱シートや断熱フィルムも、手軽ながら日差しを弱めるのに役立つ。
2.植物の力を借りる
①グリーンカーテン(つる性の植物で建物の窓や壁を覆い日差しを和らげる自然のカーテンのこと)をつくり、部屋に日光が入りにくいようにする。
②窓の外側に観葉植物を置くだけでも、窓に直接あたる日光の量を抑えることができる。ハーブや常緑多年草などがおすすめ。
3. 打ち水をして周りの空気の熱を下げる
打ち水はまいた水が蒸発する時に、周囲の熱を奪う気化熱を利用して気温を下げる方法。日中の地面が熱い時に打ち水をすると、水が一気に蒸発して湿度が上がり余計に蒸し暑さを感じてしまうこともあるので、比較的涼しい朝方や夕方がおすすめ。
「五感で涼しく」
江戸の町家は実用的で効率が良い家でした。建物の構造・仕組みのあらゆる面に施された工夫の賜物でしょう。
現代では、家の設計以外でも様々なアプローチで涼を感じようとする試みがなされています。化学的に涼を感じる商品も増えていますが、そんなハイテクなものに頼らずとも、ちょっとした工夫で涼は簡単に感じることができます。例えば私たちに備わっている感覚に頼ってみてはどうでしょう。
1. 畳やゴザでサラリとした触感
江戸では普段使いされていた“い草”の畳。畳表の“い草のスポンジ部分”や“畳床のわら部分”には空気の熱を伝えない性質があり、自然吸湿能力も高く、高温多湿に適した素材でできている。そのため暑い日は和室で過ごすこともおすすめ。和室がない家には、ラグのようにフローリングに敷いて使用する畳のゴザを取り入れるという方法も。寝苦しい夏の夜は、シーツ代わりにゴザを敷いて寝ると熱がこもりにくくサラサラの触感で快適に。
2. 涼しい印象の色
青系の寒色と赤系の暖色とでは、目にした時の体感温度に違いがあるといわれている。実際に白、青系、グリーン系の色には放射熱を防ぐ効果も。カーテンや小物類の色の工夫で、目で感じる涼しい印象をつくるのも方法の一つ。
3. ミントの香りでひんやり効果
ミントの香りを嗅ぐと、人の体はひんやりとした涼しさを感じ、その体感温度は4℃も下がるといわれている(公益社団法人日本アロマ環境協会ホームページより)。ペパーミントの香りがするルームスプレーや精油を混ぜた冷たい水でおしぼりをつくり首筋にあてれば暑い夜の寝苦しさも和らぐ。
現代の夏の暑さは気候の影響を直に受けており、日本全体の暑さを根本的に改善することは困難です。そこで注目したいのが「微気候」という考え方。微気候とは、狭い範囲の気候という意味で、江戸時代の人々は農業や庭園づくりの分野で、微気候の理解と活用の達人だったそうです。例えば庭に木や壁があればその一角は一年の大部分において他の場所より日陰が多く涼しい(冬は暖かい)ということを誰もが知っていました。木や壁、植木鉢や日除けで日陰をつくる、格子や室内の高低差を利用して風通しをよくする、などの工夫で人為的に微気候をつくりだすことができます。この考え方に基づけば、規模は小さく、時間もかかるかもしれませんが、コツコツ積み重ねていくことで自分の周囲の気温を下げることができるかもしれません。
今回ご紹介したアイデアの中で身近に感じたことなどがあれば、ぜひ実践してみてください。
もちろん、周りの人や友人、家族と話し合って、現代ならではの新たなアイデアを出すことも大切です。わたしたちも、みなさんも、サステナブルな意識を常にもって行動し続けていきましょう。
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