江戸時代の人々から学ぶ、サステナブルなアイデアvol.12
2030 年までにSDGs17 の目標を達成するため私たちにできることはなにか? わたしたちは、そのヒントを江戸時代の暮らしの中に見つけました。太陽と植物の恩恵を活用し豊かな物資とエネルギーをつくり出していた江戸時代の人々。衣食住のあらゆる面でリサイクル、リユースに基づいた循環型社会が築かれていました。その江戸時代の知恵を活かし、日常でできるアクションをはじめましょう。
<参考文献>
阪急コミュニケーションズ 江戸に学ぶエコ生活術
アズビー・ブラウン:著 幾島幸子:訳
江戸時代の人々が消費していたエネルギーは、現代の私たちのたった1000分の1程度で、江戸の町はとても環境負荷の低い都市だったそうです。この話だけを聞くと、人々はさぞ慎ましい日々を送っていたのだなと想像してしまいますが、江戸の町はその少ないエネルギー消費量にもかかわらず、活気に満ちあふれ、人々は陽気に気さくに生活をしていました。そんな理想の状態を可能にしていたのが、限られた資源を最大限に活用する精神でした。限られた燃料で美味しい料理を作り、少ない染料で鮮やかな色を生み出し、少ない鋼で鋭い刃を作り、少ない資材でより良い暮らし方を見つける――不足を長所に転じるその姿勢は、「粋」とされていました。江戸時代の「粋」とは、単純美への志向、「庶民の生活」から生まれてきた美意識であるともいわれています。
今の暮らしの中で、少ないエネルギーでも豊かさを感じさせる「粋な精神と遊び心」のアイデアを探ってみましょう。
「限られた資源で美味しい料理を作る、盛り付ける」
〔まとめて調理する〕
複数の料理をバラバラに調理するのではなく、一度にまとめて作ることで、燃料を効率的に使うことができます。例えばオーブンを使う際は、二段天板を使用し、上はグラタン下は野菜焼きというように別々の調理をしてみましょう。また、オーブンは火を消した後も、そのまわりには余熱があり、調理したものをそのまま置いておけば、一時的に保温する効果もあります。
〔器を選んで遊ぶ〕
料理をより魅力的に見せるために、器の素材や形状選びにこだわってみると楽しいです。例えば、和風の料理には陶器や木製の器を使うと温かみが出ます。また、シンプルなデザインの器は料理そのものを引き立ててくれます。
〔自然な配置で遊ぶ〕
食材を無造作に配置することで、リラックスした自然な美しさを演出できます。あまり几帳面に並べすぎず、自然体を心がけます。
「少ない材料でユニークな色の染め物を楽しみ、使う」
〔自然素材を使った染色を家で手軽に〕
●野菜の皮
調理で余った玉ねぎの皮、赤キャベツ、ビーツなどは煮出して染料として利用できます。これらの自然素材は環境に優しいだけでなく、個性的な色合いが出せるという特徴もあります。
●お茶や紅茶、コーヒー
使用済みのティーバッグやコーヒーの出がらしでも染色が可能です。これらは淡い色合いを与えるのに適しています。
〔染色のテクニック〕
●ムラ染め(タイダイ)
布を絞ったり、くくったりして染料に浸すことで、少ない染料でもデザイン性のある模様を作れます。
●グラデーション染め
布の一部分だけを染料に少しずつ浸していくことで、グラデーションが生まれます。これにより、少ない染料で豊かな色の変化を楽しむことができます。
〔染めた布はランチョンマットやナプキン、コースターにして使う〕
布のランチョンマットやナプキンを自然染料で染めると、食卓を彩る素敵なアクセントになります。特に、季節のイベントや特別なディナーで使うと季節感をより効果的に演出ができます。
「少ない資材で模様替えやDIYを楽しみ、活用する」
知恵と工夫を凝らして、自分らしいインテリアや間取りにチャレンジしてみましょう。
もしかしたらその延長で、いつか夢のマイホームの設計、建築に役立つ日が来るかもしれませんね。
〔洗練された美しさと機能性が調和した、住む人の個性が感じられる部屋へ〕
●自然素材の活用
木材や石、竹などの自然素材を適度に使うことで、温かみや落ち着いた雰囲気が生まれます。自然素材の持つ独特の質感や色合いが、粋な空間を演出します。
●光と影の演出
自然光を上手に取り入れ、影を効果的に使うことで、空間にドラマチックな変化をもたらします。照明も、柔らかな光を選ぶことで、心地よい雰囲気を作り出します。
〔リサイクル資材の活用〕
新たな資材の使用を減らすという視点もあります。古材や再生資材を使用することで、環境負荷を軽減できます。その他にもリサイクルレンガ、再生木材、リサイクル金属などを活用するという例があります。
〔自然エネルギーを利用した設計〕
自然光や通風など自然エネルギーを最大限に活用する設計により、エネルギー効率を高めることができます。当コラムのvol.7江戸の町の家の「風通し」でご紹介した暮らし方がその一例です。また、現代ならではの断熱材を効果的に使うことで、冷暖房のエネルギーを削減することができます。
〔多機能スペースの設計〕
一つの空間を複数の用途に使えるように設計することで、住宅の中で活動する面積を減らしエネルギーを節約できます。例えば、可動式の間仕切りを使って、リビングを寝室やワークスペースに変化させ、活動する場所だけで冷暖房を使用するようにすれば、家全体の消費エネルギーを減らすことができます。
<イラスト・画像素材>
PIXTA
少ないエネルギーでも豊かさを感じさせる「粋な精神と遊び心」のアイデアは、江戸時代の知恵と工夫に根ざした生活の美学を現代でも生かせるということを示してくれています。
江戸の人々は限られた資源を最大限に活用し、効率を追求することで、粋でユーモアがある生活を送っていました。現代のように「物があふれている時代」ではなかったという背景もありますが、一つ一つの物や商品を大切に最後まで使い切るという精神が根付いていたことが、今までのコラムからも見受けられます。これらの姿勢は、現代においても持続可能な生活を営む上で大いに参考になります。もちろん周りの人や友人、家族と話し合って、現代ならではの新たなアイデアを出すことも大切です。わたしたちも、みなさんも、サステナブルな意識を常にもって行動し続けていきましょう。
2024年1月から始まり、毎月1回お届けしてきた「江戸時代の人々から学ぶ、サステナブルなアイデア」のコラム。ご愛読いただき、誠にありがとうございました。皆さまとともに江戸時代のサステナビリティを学びながら、充実した時間を過ごすことができました。今回で、1年間の執筆を終了させていただきます。今後も「江戸時代の人々から学ぶ、サステナブルなアイデアvol.1~12」を読み返していただくことで、皆さまのサステナブルな生活の一助となれば幸いです。
2025年1月からの新連載コラムもどうぞ、お楽しみに。