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20年前、アメリカのMBAに合格したけど結局行かなかった話

アメリカでMBAの出願者が急増、というニュースを読んだ。ウォールストリート・ジャーナルの記事だ。

https://jp.wsj.com/articles/applications-to-m-b-a-programs-soar-6ee776fd

これを見て、もう20年ほど前になるが、私も一度だけMBA留学を考えて受験までしたことを思い返した。その時の話を書く。

当時私は、仕事も環境も変えたいと思って次の進路を探していた。その中で思い立ったのが、MBA留学はどうだろうということだった。

海外に関心はあったから英語は自分なりに勉強していたし、それまでもMBAを意識したことはあった。でも費用も期間も極めて大きな自己投資となる。実際の選択肢として考えたことはなかった。それがこのときは、色んなタイミングが揃い「今だったらピンポイントでその選択もあり得るかも」と考えることができた。

ただ、準備期間が限られていた。それでもMBA留学というのは魅力的に思えて、とりあえずできるところまでやってみようと大急ぎで準備を始めることにした。出願先の検討、エッセイなど必要書類の作成、推薦状の依頼などと並行してTOEFL, 次いでGMATを受けなければならない。

TOEFLは110点台を取った。当時の私の英語力は今より高かった。

GMATは、時間的に一度しか受けられなかった。そして半端なく難しかった。英語力だけを測る試験ではなく、一定以上の英語力を有していることを前提に読解、ライティング、数学などの問題が出てくる。英語ネイティブのMBA志願者も受けるものだから、純ジャパの私が苦労するのは当然だ。それなりのスコアは取れたが、目指していた点数までは行かなかった。

そして出願先を絞って応募。現地に行って入試担当者と面接し、授業見学、日本人学生との懇談も行った。

1校、合格通知をくれた。しかも担当者が私のことを気に入ってくれたようで、授業料の60%ぐらいにあたる奨学金を出しましょう、というオファーまで出してくれた。あとはこちらの決断次第だ。

MBAに行くかどうかで暮らしはガラリと変わる。当時、上の子が赤ちゃんだった。私は1人で留学するつもりはなかったから、家族分の渡航費と生活費が必要だ。また、ちょうどその頃、別件で大きい支出が必要になっていた。奨学金の話は本当にありがたいが、かかる経費を改めて詳しく計算してみると、奨学金にプラスして貯金を出し尽くして、さらに幾らかの借金が必要になりそうだった。卒業する時にはスッカラカン以下だ。悩ましい。

また、そのMBAプログラムがアメリカのトップ10にはちょっと及ばないかなという位置付けだったことが、悩みに拍車をかけた。大学名は出さないが日本でもよく知られたところだし、色々な機関がMBAランキングを出す中で、ものによっては10位以内に入っていた。あるいは、専門分野別のランクでも一部のカテゴリーではかなり上位だった。

ただ当時の私は、トップ10の次のレベルだなと判断した。そして、どうしてそこまでこだわったのか今となってはよく思い出せないが、「仕事を辞めて預金も全部はたいて行くのなら、(私の考える)トップ10の中に行きたい」という思いを持っていた。一方で、タイミング的に留学を1年遅らせてGMATでより高いスコアを目指すというのは無理だった。

行くべきか、諦めるべきか。

物事が動くときは動くもので、ちょうど同じ時期、新しい仕事の声掛けまでやってきた。それも(当時は)なかなか魅力的に思えるものだった。

本当にどうするか。

散々悩んで出した結論は、MBAには行かないというものだった。MBAは国家資格ではないし、それによる独占業務がある訳でもない。留学後のキャリアアップにどこまでつながるか確信が持てなかった。借金のリスクまで背負ってその大学のMBAに乗り出すことはやめようというのが、当時の私のファイナルアンサーだった。

もし、GMATスコアがあと20点高く取れていて、(当時の私基準で)トップ10に入るMBAプログラムから「来ていいよ」と言われていたらどうしたか。あるいは、もし私が合格をもらった大学から「授業料8割免除!」とか言われていたとしたら、、。

そんな、「もし」が当時は何度も頭をよぎった。

結果として、どちらがよりベターな選択だったのかはわからない。ただ、もしMBAに行っていたとしても、自分の英語力やその他スキルでは、そのまま海外で就職することは難しかっただろう。いま振り返るとそう思う。そして、留学後に日本へ帰ってきて仕事探しをしたとして、「MBAで学んだことをバリバリ生かせるし、給与も自己投資分を十分回収できる」という仕事には就けなかった可能性が高いのではないかとも感じる。借金を背負って職探しをするとなると、気分的に追い込まれて早めに見つけなければ、となっただろうし。

ということで、私はMBA留学しなかったことを後悔はしていない。同時に、MBAに向けて必死で準備を進め実際に出願したことも、あのときはよくやったもんだ、と思う。今では当時のエネルギーはとても出せない。

ただ、その後日本で約20年働いてきた経験を踏まえた今、もしあの決断のときに戻れるならば、今度はMBAに行くという選択をしてみたい。その場合にどんな道のりが待っていたのかを体験してみたいからだ。

そして、もし1つだけ若い自分にアドバイスできるとしたら。

「人生の進路を大きく変えることを考えるなら、ギリギリのタイミングじゃなく、もっと早くから視野を広げて計画と準備を始めろ」と胸ぐらをつかむぐらいの勢いで言いたい。あと2年、せめて1年早くMBAという選択肢を思い描き準備を始めていたら、結果も選択も変わっていたかもしれない。この記事を書いていて気づいたが、そんな気持ちは20年経っても心の片隅に残っているようだ。







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