深淵から逃れる唯一の方法は
もしも遠くへ旅する人生を送りたいなら、荷を軽くすることだ。羨望、嫉妬、エゴ、不寛容を手放して、身軽になることだ。
そんな言葉を残したのチェーザレ・パヴェーゼ(Cesare Pavese, 1908年9月9日 - 1950年8月27日)は、イタリアの詩人で小説家、文芸評論家、翻訳者。20世紀のイタリア文学におけるネオレアリズモの代表的な作家の一人。マルクス主義者でもあり、第二次世界大戦下、イタリアのパルチザン活動も行っていた。
彼は言う。
深淵から逃れる唯一の方法は、それを見て、それを測り、それを鳴らし、そしてそれに降りること。
それは「沈潜(ちんせん)する」ということに近いものがあるように思う。
海で潜った人はこの沈潜の雰囲気をよく知っているかもしれない。3メートルも潜ると、もう外界の音は聞こえない。わずかな光が差し込み、かえって太陽の光の存在を強く感じる。沈黙の世界の中で、ゆったりと泳ぐ魚たち。
まさにそんな心と精神の中に沈潜すると、今まで聞こえなかったかすかな音や、わずかな光に気がついたり、新たな発見や出会いがあったりする。
今の世の中、「沈潜する感覚」があまりにも少ないように思う。人間の精神の深いところへ沈み込み、今まで気がつかなかった自分の無意識の世界、内面の世界を改めて発見する。それが「沈潜すること」。
彼はこうも言う。
旅は残忍だ。見知らぬ人を信頼し、家や友人の慣れ親しんだ快適さをすべて見失うように強制する。
ここでも「旅」は人生を表している。
そして、次の言葉は素晴らしい。
"私は私の運命の船長だ。私は困難な時に船を放棄しない。けれど、私は船と一緒に沈んでしまわない十分な感覚を持っている。"
“I am the captain of my destiny, I do not abandon the ship in hard times, But, I do have sense enough not to go down with the ship.”
最後に、一番心に響いた言葉が以下だ。
私たちは何かを避けることによってそこから自分自身を解放するのではなく、それを通して生きることによってのみ、自分自身を解放する。
あっぱれな言葉だ。