性別を変える自由を規制する日本の法律
日本で性別変更が認められたのは、2004年から。「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(以下、「特例法」)が施行されたことによる。
これを皮切りに、トランスジェンダーを中心としたLGBT当事者が次々と性別変更処置を行っていき、その数は年々増え続け、今では1万人近い人たちが性別変更を行ってきた。
2019年には、夢をあきらめずに68歳で性別変更を行った人が、その半生を本にして出版したことが話題となったが、性自認と身体性別が異なるトランスジェンダーには、「いつかは性別変更」と思う人が多いという。
中田さやとさんの動画(https://youtu.be/NT70UATAOgU)が紹介されていた。自らの意思で性別を変えた中田さんと、応援する家族。
中田さんが子供の頃は、スカートをはくのを嫌がっていたのを、理解できなかった、もっと受け入れてあげればよかったと語るお母さん。
「わからなかったんだから仕方がないよ。今現在受け入れてくれるだけでいいよ」と答えたという中田さんのストーリーが胸をつく。
日本は性同一性障害の戸籍変更に手術が必要
現時点では日本での戸籍の性別変更に、性別適合手術が必要だ。
手術以外にもホルモン注射や診断書や子供がいないといった、いくつかの条件をクリアしないと戸籍の性別変更ができない。
性別変更をしたくても手術は体への負担が大きく、費用もネックになる。
性適合手術は、一部保険が適応されるようになってことにより以前よりは受けやすくなったとはいえ、高額な費用が必要になる。
また、手術が終わるまでに長期間を要するため、仕事を休職しなければならないなど、社会生活に支障をきたす可能性がる。
さらに、性別変更は望むものの手術は望まないというトランスジェンダーもたくさんいる。
心身にリスクを伴うとともに、経済負担も大きい性適合手術を強要するこの条項に、「トランスジェンダーに対する人権侵害だ」と疑問の声が多数あがっている。
海外の事情
戸籍変更に性別適合手術が必要ない国
アメリカの一部(7州)、メキシコの一部(5州)、カナダ、アルゼンチン、コロンビア、デンマーク、アイルランド、スウェーデン、ノルウェー、フランス、英国、スペイン、マルタ、ボリビア、エクアドル、ウルグアイ、ニュージーランドなど
医師の診断書が性別変更に必要ない国
アルゼンチン、デンマーク、マルタ、アイルランド、フランス、ノルウェー、ベルギー、ギリシャ、ポルトガル、ルクセンブルクなど
未成年者でも法的性別変更ができる国
16歳から性別変更できる国:オランダ、ノルウェー、マルタ、アイルランド
ノルウェーでは、6歳以上16歳未満も、親が同行して手続をすれば法的性別変更の請求ができる。
マルタでは、16歳未満でも、裁判所が法的性別変更に同意すれば性別変更ができる。
アイルランドでは、両親の同意と医師の診断書があれば、16歳以上18歳未満の人の年齢要件が免除される。
18歳から性別変更できる国
スウェーデン、英国、スペイン、デンマーク、アルゼンチンなど
スウェーデン、英国、スペイン、デンマークは、法的性別変更の年齢要件と成年年齢が一致している国です
アルゼンチンは18歳未満でも、本人の意思を明らかにし、法定代理人を通じて性別の修正を請求することができる。
手術なしで戸籍変更ができる国の条件
アメリカ
ニューヨーク州では認可された医療機関からの診断書や意見書(供述書)があれば、性別変更の申請ができる。
英国・スペイン
性別変更に英国もスペインも手術要件はないが、スペインでは2年間のホルモン注射が必要。
アイルランド
自己申告に基づき、法律上の性別変更ができる(18歳未満は保護者の同意、医師の意見書が必要)。
マルタ・ノルウェー
トランスジェンダーの人が申請するだけで、医師や国(政府)の介入なしに性別変更が可能。
カナダ
全集・準州で手術要件が撤廃され、医師の診断書や意見書があれば性別変更が可能。性別適合手術や乳腺摘出術など、いかなる手術も必要としない。
世界保健機関(WHO)の動き
スイスのジュネーブで開かれている世界保健機関(WHO)の総会では、「国際疾病分類」改定版(ICD-11)が了承された(公表日時 平成30年6月18日(月)ジュネーブ時間12時(日本時間18日19時)。
これにより性同一性障害が「精神障害」の分類から除外され、「性の健康に関連する状態」という分類の中の「Gender Incongruence(性別不合)」に変更されることになった。
これまでトランスジェンダーに向けられてきたスティグマ(社会的汚名、烙印)や差別の大半は、精神病と見なす医療制度のあり方に由来するもので、トランスジェンダーのメンタルヘルスの悪化をも引き起こしてきた。
名前や公的文書上の性別を変更する条件として「性同一性障害(GID)」の診断を義務づける政府が多いことは、労働や教育、移動など基本的権利の享受の妨げになってきている。
WHOは性同一性障害を「精神障害」の分類から除外し、「性別不合」へと変更することに関して、「障害と分類されなくても、当事者が望めば性別適合手術などの医療行為を受ける権利は保障されるべきだ」と述べている。
WHOで「国際疾病分類」を担当するロバート・ヤコブ氏は、「性同一性障害は精神的な病気でも身体的な病気でもないとわれわれが考えるようになることは、社会にとって強いサインになるだろう」と述べ、その意義を強調した。
そして、「障害という項目から外すことによって、これからは『性別不合』と呼ばれる人たちがこれまで着せられてきた汚名を返上することにつながる」と述べ、今回の変更によって、これまで「性同一性障害」の人たちが受けてきた差別が解消されることに期待を示した。
デンマークの代表は「精神障害の分類から除外したことは、あらゆる人たちが尊厳のある生活を送ることにつながる大きな一歩だ」と述べ、今回の変更を歓迎した。
会議に出席した厚生労働省の池田千絵子総括審議官は、「精神障害から除外されたということは、さまざまな配慮が進んできたということだと思う。各加盟国からは、新しい分類に、スムーズに、きっちりと移行したいという意見が多く出ていた」と語った。
今回のWHOの決定を受けて、日本で今後、戸籍上の性別変更を望む当事者の方の扱いがどう変わっていくのかは、まだ未知数なところが多い。
性同一性障害特例法の名称や内容を修正するのか、あるいは新しい「性別不合」の考え方のもとで法律を作り直すのか。
同時に、「断種」の手術を強制する現状が改善されること、未婚であることなどの要件の廃止、ホルモン治療への保険適用なども期待されるところである。