語学を上達させるにはこれしかない
アメリカにもう30年以上住み、留学してアメリカ企業で働く経験をしてきたので、英語の苦労話しならいくらでもある。特にニューヨーカーの早口の英語や、南部出身者のなまりのある英語は最初は聞き取りにくかった。
英語は、特にリスニングは、ゆっくり上手になるのではなく、突然飛躍的に上達する。それは、何がなんでも相手の言ってる内容を理解せねばならない、そしてこちらの意思を相手に伝えなければいけない状況にあるとき。つまり、ケンカや交渉の現場でしかない、と断言できる。
ラッキーなことに、アメリカに住むとケンカや交渉の場は日常茶飯事にある。ガス/水道/電気が壊れて、約束通りやってこない修理屋と言い合ったり、引越しの当日になって現れない引越し屋とやりあったり、理不尽な店の店員と口論したり。全く至る所にその学びの機会はある。
そんな時には神経と集中力が冴え渡るせいか、相手の言うことが一語一句クリスタルクリアーに聞き取れるようになる。まるで魔法がかかったみたいに。そしてこちらも端的に要点を伝える術がつく。
身体の中ではアルデナリンとコルチゾールが活性化し、神経が過敏になって、眠っている能力が叩き起こされるのだ。
そんな風にして、学校や職場の外で英語を学んできた。周りを見ると、同じような外国人が多くて、学校よりもストリートで鍛えた英語を話す。
ケンカせざるを得ない状況を重ねるうちに(そしてそんな機会はアメリカでは毎日のようにふんだんにある)だんだんと慣れてくるのだ。
結論として外国語会話は、必要に迫られなくては身に使いないということだ(語学アプリで一生懸命勉強したフランス語は全く身につかなかった)。読み書きの話しではなく、「会話」については、実践あるのみ。留学するなり恋人を作るなり、頭で考えて日本語に翻訳するステップを飛び越えて、その言語でそのまま理解して、その場で応答する訓練なしに上達はむずかしい。
もちろん翻訳アプリはどんどん洗練化されていて、deepLのヴォイス版では、音声入力によって、12カ国語に翻訳してくれる。
ただし、言葉は考え方と表裏一体なので、英語らしい言い回し(特にスラングと呼ばれる俗語)をマスターすることで、表現が変わると態度や気の持ち方もたちまち変わる。
ノート言う時も、日本語だと20種類くらい持って回った言い方があるけれど、英語だと割とストレートに、そしてシンプルに言えるし、そうでなくても『それはちょっとどうかな』(not sure about it) みたいに悪びれずさらりと答えれるようになると、今度は自分自身との関係に変化が起きてくる。
そして交渉の英語では、まず先に結論から述べた方が誤解されにくい。例えばまず『私はそれに同意できない』と述べてから、『なぜなら…理由1、理由2、そして理由3があるからだ』と主張する。理由から先に話し始めると、こちらの意図が相手にわからないと言うことがしばしば起きる。
日本人は何を言っているのかわからない、とよく外国人から言われる理由はこのストラクチャーの問題だと思う。そして結論を出さない優柔不断な、どっちにでも転ぶ、そんな国民性だと思われてしまう。
日本語は感情を伝えるのにきめ細かな美しい言葉だけれど、英語は実用的なところで役に立つ。さっぱり、きっぱりとコミュニケーションできる。これは翻訳アプリだとなかなか無理があることかもしれない。
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