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ヨーロッパ文化教養講座(「冷静と情熱のあいだ」ROSSOを読んで)

2023/01/12
昨年末に再視聴した「冷静と情熱のあいだ」の感想で、

映画は、順正の目線(演 竹野内豊)を書いた辻仁成の「BLU」を使っているので、一見すると、アオイ(演 ケリー・チャン)の行動の合理性がよくわからないまま、終わってしまう。

このアオイの行動の合理性を知りたくなり、江國香織が書いた、アオイ目線の「ROSSO」を読んでみた。

内容:
1.アオイ
 両親は、エリート銀行員の父親と専業主婦?の母親 一人っ子である。
両親は、今は、ロンドンに駐在している。
 両親がミラノの駐在時に、小学校~高校?まで過ごし、インターナショナルスクールにも行っていたので、イタリア語・英語は堪能。
 大学は、日本へ戻り、帰国子女を多く受け入れている大学へ入る。
 そこで、順正と知り合い、付き合った。
 妊娠して中絶したことをきっかけに、順正と別れて、傷心のまま、
ミラノへ来て、宝石店でパートタイマーとして働く。
 客として宝石店に来た、ミラノ駐在のアメリカ人マーブと知り合い、同棲。傍からは申し分のないパートナーに見えるマーブだが、結婚には踏み出せない。
 順正から手紙を受け取ったことをきっかけに、結局マーブと別れてしまう。

2.10年後の約束
 順正と付き合っていたときに、10年後の誕生日は、フィレンツェのドーモの上であうことを約束する。
 その約束を確かめるため、フィレンツェのドーモへ登った。
 そこに順正が居て、再開を果たす。
*映画では、マーブと同棲中に順正がそのアパートを訪ねてくるシーンがあるが、原作では無い。

 順正が滞在しているホテルで3日間愛を交わした。
その後、アオイは、順正に引き止めてもらいたかったが、順正からその言葉はなく、ミラノ行きの列車にのり、ミラノ中央駅へ到着するところで、物語は終わる。
*「BLU」は未読だが、多分、BLUの物語は、順正が、フィレンツェからユーロスター(特急列車)でミラノ中央駅に向かっているところで終わるのだろう。

感想:
1.読んでいると、実際にミラノに居るような感じになる。文章表現は非常に巧みだと思った。

2.アオイの恋人マーブとその姉、友人、宝石店のオーナー姉妹、同僚含め、だれも、悪い人間は登場しない。
 アオイの周りのひとたちも、花や、家具や、宝石や建物や本やレコードと同様、オシャレな背景のようである。

3.アオイの心理描写も細かく描かれている。 文体としては秀作なのだろう。

4.ただし、アオイの行動の合理性、生きる指針、今後の長い人生の夢や目標といった、人間的なことについては、理解不能である。
 特に、マーブとの長い同棲生活が、何もアオイの成長をもたらさなかったように描かれているには、悲しくもある。
 作者がわざとその部分を省いたのか、それとも、生活力が不足していることもアオイの重要なキャラクターなのか、いずれにしても、小生にとっては、「ROSSO」に描かれたアオイという人物に対しては、ほとんど共感を持つことはなかった。
 


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