GIGAスクール構想と新学習指導要領の関係6 ~GIGAスクール構想での課題探究的な授業とは~
《読了6分》
本稿は「GIGAスクール構想と新学習指導要領の関係」のタイトルで連載してきました。読者の中には、「少しもタブレット端末の具体的な活用について述べられていない」ことに気付かれた方がいると存じます。これまでの記事中に「GIGAスクール構想との関連」として、強調文字や脚注を設けているだけで、具体的な活用については記述していませんでした。
これには、理由があります。
GIGAスクール構想のその根底にある理念には、「ICT端末の文具化」があります。
これは、国際大学の豊福晋平先生の著作に詳しく述べられています。
*豊福先生の「1人1台時代のICT活用とデジタルシチズンシップ」のYouTube動画を本稿の最後にリンク引用します。
これまで、例えばコンピューター教室で行われる授業のように、教師のコントロール下で生徒が指示通りにパソコンを使う授業が行われてきました。これを「教具としてのICT機器」とします。
「教具としてのICT機器」は、教師の指導の元で生徒が指示を受けて操作しながら学ぶことが前提となります。そこには、「教師の指示通りに使わせる」というような教師主導の教授が中心でした。(余談ながら、生徒用タブレット端末が定着すると、「コンピューター教室」自体が無くなり、そのうち死語になるのでしょうか)
これに対して「文房具のように扱われるICT機器」は、教師の指導ではなく、生徒が鉛筆や消しゴム、定規などと同じように必要に応じてICT機器を使って授業を受ける姿を想定しています。
この「生徒が必要に応じてICT機器を使う」という意味が重要です。
授業の中で教師がICTを使うことを指示したり、制限を加えたりするものではないことだからです。わからない用語が出たら辞書を牽くようにGoogle検索をしたり、単語の意味や発音を調べたりする行為が生徒のものになることを示しています。
GIGAスクール構想は「学校に生徒数分のタブレットPCが導入される」ことでは無く「生徒が自分のタブレットPCを所有する」ことなのです。
そこには、現在よりもはるかに多様性に富んだ学びが出現すると考えています。
本稿は「課題探究」の流れを正確に理解した上で、「課題解決のために子どもがICT端末を使う姿」をイメージするために書いています。
ですから、本稿でGIGAスクール構想におけるICT端末のソフトウエア利用方法や具体的な操作について述べていません。いわゆるHow to的な文献は流通しております。さらに、How toを述べること自体が教師の活用能力の向上を目指す側面が強くなります。勿論、教師自身が習熟を目指すことは大切ですが、「教師操作習熟が高まれば高まるほど、その操作を生徒に教えたくなる指導者の傾向」もあります。そうすると、どうしても活用方法に重点を置く指導になりがちだと考えるのです。いわゆる「指導者の生徒への指導的側面」が強くなることは、子どもの主体的な学びの阻害になると考えています。
そもそも、現代の子どもたちは、生まれたときから高速インターネット環境とパソコンをはじめとする通信端末がある「デジタルネイティブ世代」なのですから、思考感覚からすると多くの教師の方が遅れているのかもしれないのです。
さて、これまで述べてきた「課題探究的な学習」では、生徒が主体的に学ぶ姿を述べてきました。
特に、「主体的」という言葉の意味合いとして、本稿2では
「主体的」という言葉には、新たな(あるいは未知の)課題や問題に対して、何とか知りたい、解決したいというような強い動機づけが起点となって、多少の困難があっても、自ら試行錯誤しながら学習行動を継続する様子を示すことが多い。
と記述しました。
ここに、ICT機器はどのように位置づけられるかということを考えてみます。
ICT機器のメリットには次のようなことがあります。
・検索(検索エンジンGoogle、yahooなど)
・撮影(QRコード、静止画、動画)
・聞く、聴く(音楽、音声)
・創作(デジタル描画、プログラミング、ワープロ作文、動画編集、画像加工)
・伝える(プレゼンテーション、動画・静止画の配信、オリジナル音声・音楽)
・交流する(メール、SNS、クラウド上のグループ協働作業、オンラインコミニュケーション)
これらのメリットのほぼ全てが「探究的な学習」における、「課題解決」のひとつのツールとして生徒が「主体的に」用いることができると考えています。
例えば一番活用される可能性が高い学習中の「検索作業」にについて述べます。
web上には、膨大な情報があります。しかしながら、フェイクニュースをはじめ、不正確な情報もあります。子どもたちに、「情報の信憑性の見極め方」や「科学的な根拠に基づく判断」について討論しながら、情報を見極める視点を育むことで、あらゆる検索作業において主体的に真実を求める姿勢が身につくと想像します。
これは、探究する学びに不可欠な素養だと考えます。なぜなら、本質的な探究の姿には、課題に対する正解は一つだけではないことがあり得ること。さらには、完全な正解では無く、最適解を選択する必要に迫られたとき、その解が「現段階で最適である理由」を解答と併記して説明する必要が生じるからです。
このような膨大な情報から取捨選択して適切な情報を入手する技術が身につくと、同じ課題に対する他者の解答に対して、そのまま受け入れるのでは無く、批判的(critical)に見る視点を育むこともできます。いわゆる、研究倫理の初歩を学ぶ機会となると考えています。
このように捉えると「検索する」活動自体が、すでに「探究の過程」だと考えられないでしょうか。
GIGAスクール構想導入の初期段階のオリエンテーションで、例えば「ある用語(できれば現代社会でコンテンポラリーに使われている新しい用語)の意味を調べる。」というような課題を提示し、生徒それぞれが様々な検索エンジンを用いて、情報ソースとなった文献名(発行元)を明らかにして、用語の意味を発表し合うだけでも、意味合いの違いに気付くはずです。新聞社のweb版での新聞ごとの記述表現のちがい、根拠となる学術論文の発表数や否定肯定意見など、できる限り信頼性の高い情報を入手するためには、複数のweb上の情報から信憑性の高いものを選択する必要があります。その上で、自分の考え方を述べる「学習方法」が定着すると、その後のあらゆる教科授業における「検索」(あるいはリサーチ)活動に汎用性高く活用できると考えます。
これで、GIGAスクール構想と新学習指導要領の関係6~GIGAスクール構想での課題探究的な授業とは~を終わります。
お読みいただき感謝いたします。
目指すのは、「新しい日本を創造する子どもたち」そのための「課題探究的な学習」と「GIGAスクール構想」だと考えています。
ようやく本論に近づきつつあります。
次回は、GIGAスクール構想と新学習指導要領の関係7~そもそもGIGAスクール構想の理念とは~について述べます。
最後に、豊福晋平先生の「1人1台時代のICT活用とデジタルシチズンシップ」のYouTube動画をリンク引用します。