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Gone With "What" Wind

「ゴーン・ウィズ・ワット・ウィンド Gone With "What" Wind」は1940年に発表されたベニー・グッドマン Benny Goodman とカウント・ベイシー Count Basieが作曲したジャズ・ナンバー。

スウィングの風とともに去る…?

この「ゴーン・ウィズ・ワット・ウィンド」は、おそらく1939年に公開され大ヒットした映画『風と共に去りぬ Gone with the Wind』を文字ったタイトルだろう。だが、ここで疑問が浮かぶのは、なぜグッドマンとベイシーは『風と共に去りぬ』をタイトルに引用したのか、ということである。この曲はインストだから歌詞に頼ることができない。端的に流行った映画だから、それをもじった、とも考えられそうだ。だが、[1]この曲がグッドマンとベイシーによって書かれたこと、そして[2]映画の内容を鑑みるとつぎのことが推測される。

この曲でグッドマンとベイシーが示そうとしたのは、スウィングによって人種差別を乗り越えること、と解釈することもできる。このことは、曲が明るいダンス・ナンバーであることだけではなく、グッドマンとベイシーという白人と黒人の二人のスーパースターが共に一つの曲を書いたという事実によって示されるように思う(が、グッドマンではなくクリスチャンが作曲者としている例もあるので、その場合はこの記述が度外視される)。とくにこの1940年代においては「ジム・クロウ法」が成立しており、白人と有色人種が子供を作ることは好ましくないこととされていた(河合, 2023)。さらに、映画においては奴隷制度が明るく描かれ、主人公たちを彩る舞台装置として機能していた。こうした差別のポジティブな描かれ方は人種差別をさらに強固なものに仕立て上げることを可能にする。であるならば、この2人の共作は、当時のジャズ愛好家にとってはそうしたメッセージを見出すことができたかもしれない。

録音

Benny Goodman Sextet (NYC, February 7, 1940)
Charlie Christian (Guitar); Benny Goodman (Clarinet); Lionel Hampton (Vibraphone); Count Basie (Piano); Artie Bernstein (Bass); Nick Fatool (Drums)
チャーリー・クリスチャンのギターを堪能できる録音。ベニー・グッドマンは少なくともこの曲を6回スタジオで録音している。わたしはこの録音が一番好き。

Jonathan Stout's Close Shave Quartet (LA, 2021)
Jonathan Stout (Electric Guitar); Craig Fundyga (Vibraphone); Seth Ford-Young (Bass); Josh Collazo (Drums)
最初のレコーディングから80年経って、ジョナサン・スタウトがこの曲を録音をしている。セス・フォード=ヤングのベースもジョシュ・コラゾウのドラムもキレており、スリリングかつハッピーな録音となっている。

参考文献

河合優子. (2023). 『日本の人種主義: トランスナショナルな視点からの入門書』 東京: 青弓社.


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