米国「人身取引報告書」2020年版から見る日本の人権リスク
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各国の人身取引への対応状況をまとめた、米国国務省の「人身取引報告書(Trafficking in Persons Report)」が6月26日に発表されました。
この報告書は、2000年制定の人身取引被害者保護法(Trafficking Victim Protection Act)に基づき、性的搾取・労働搾取といった人身取引の被害者の保護や加害者の処罰について、国・地域ごとに4段階でランクをつけています。
日本は、2018年より最上位の評価でしたが、今年はランクが一つ下がっています。特定された被害者の数は増えているものの、加害者の処罰については改善が見られないことなどがその理由です。
人身取引が指摘される外国人技能実習制度
人身取引報告書では、外国人技能実習生が借金を抱えて来日し、その返済のために債務労働となっている問題が毎年指摘されています。借金の原因となる人材紹介業者へのあっせん料や違約金などの過度な手数料の支払いを防ぐために、海外の送り出し機関のスクリーニングが求められています。
日本の技能実習制度は、途上国へ日本の技能・技術・知識を移転する目的でつくられたものですが、実際は、外国人技能実習生が食品製造業や農業、建設業といった人手の足りない分野の労働力となっています。
長時間労働や低賃金、給与未払い・遅延、ハラスメントなどの問題が発生しており、失踪する実習生も後をたちません。コロナ禍で職場が倒産し、借金があるのに失職してしまう実習生も出ています。
日本企業においては、自社やサプライヤーで受け入れている技能実習生が債務労働をしていないか確認をして対応することが求められています。
債務労働から移住労働者を守る「雇用主負担原則」
英国発のシンクタンク・人権ビジネス研究所 (IHRB: Institute for Human Rights and Business)が2012年に発表した、移住労働者の権利を保護するためのダッカ原則(Dhaka Principles for Migration with Dignity)には、移住労働者に対する就労に関わる費用の徴収の禁止が含まれています。
これに基づく「雇用主負担原則(Employer Pays Principle)」に則り、労働者の負担を禁止し、会社が労働者に払い戻しをする動きが加速しています。アップルやインテルはサプライヤーにも対応を求めており、移住労働者が負担した費用の払い戻しに取り組んでいます。
国別リスクを把握する重要性
日本国内の人権リスクだけでなく、自社がサプライチェーンでつながる国・地域の人権状況も把握しておく必要があります。人権取引報告書では、例えば、最下位にランクされている中国について、イスラム系少数民族の強制労働を指摘しています。
今年3月、オーストラリアのシンクタンクが、ウイグル族の人びとの強制労働が指摘される中国の工場とサプライチェーンでつながる日本企業の名前をあげています。このレポートについては、またあらためて紹介します。
今、わたしたちにできること
企業は、移住労働者の債務労働を防ぐために、負担した費用の有無や金額を就労時に確認し、不当に請求された費用があれば、払い戻しをすることが期待されます。また、自社だけでなく、サプライヤーにも同様に働きかける必要があります。
そして、わたしたち一人ひとりが、消費者として、労働搾取で製品・サービスがつくられていないか、企業に情報開示を求めることも変化につながります。
なお、米国の人身取引報告書は、在日米国大使館のサイトで、日本に関する部分の和訳が公開されます。現在は、2019年版が公開されています。
Social Connection for Human Rights/土井陽子
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【この記事で紹介した団体・組織】
●米国国務省人身取引監視対策部(Office to Monitor and Combat Trafficking in Persons, U.S. Department of State
●人権ビジネス研究所(IHRB:Institute for Human Rights and Business)
【この記事の内容と関わる国際基準】
●すべての移住労働者とその家族の権利の保護に関する国際条約
●ダッカ原則